第79話 ライフイズビューティフル06
「…………久方ぶりだなぁ」
母さんを夢に見るのは。
――母さんの遺した願いと呪い。
「『僕』を賭けて守り通す大切な存在」
それを僕は持っている。
司馬ルリ。
血の繋がらない愛妹。
それさえ守れるなら何も惜しくは無い。
そう言える。
「裏切り」とか「不義理」とか、そんな寂しいことは言わないと母さんと約束した。
だから愛せた。
ルリを。
義妹を。
何を以てさえ守り抜く。
「とはいえ」
自室のベッドで寝転んでいる。
時間は朝。
「今はその愛妹に守られてるんだけど」
ルリ。
転じてラピス。
今日は発作も起きないらしい。
毎度夢に見ていたら神経がすり減るだろう。
その事を僕が案じてもしょうがなくはあるんだけど、大切な妹を放っておくことは出来ない。
「…………」
ポンポンと彼女の頭を叩いて、起き上がる。
「くあ」
とりあえずコーヒーを淹れた。
目覚まし代わりだ。
ニュースは今日も王国について。
パールハーバーの件が冷めるには時期尚早だろう。
「矢継ぎ早に話題を提供するのもメディアのためかな?」
だからって戦争せずとも良いのだけど。
「南無八幡大菩薩」
ピッとテレビを消す。
朝食は洋風で。
フレンチトーストとレタスサラダ。
トマトにオニオンコンソメ。
それから二人の妹を起こす。
「にゃむ」
「あむ……」
お茶を飲みながら朝食を片付ける。
それから三人でお茶。
「どうします?」
「も何も」
この会話は王国について。要するにラピスの思惑次第だ。
「臣国も増やすべきですよね?」
「だねー」
何ゆえ家庭住宅で世界征服の話をしているのだろう?
少し考える。益のある答えは出ないけども。
「お兄ちゃんが……王様なら……皆嬉しい……」
「それは過大評価じゃ無い?」
ルリに言われるとすっごく嬉しいけど。
妹フィルターを除外して判断すべきだろう。
いや、その妹フィルターがここまで拗らせた原因と相成るんだろうけども……其処を認めるには勇気と知恵が要る。
「兄さんは凄く格好良いですからね!」
同一人物なのでラピスもそう言うよね。
ぶっちゃけ平々凡々だ。僕の容姿は。
たまに知らない生徒からライン来るけど。
物好きの種は尽きないと言いますか。
そもそもルリがいるので、他の女子には興味がない。
最大級の『僕』を費やして守る存在。
それが司馬ルリだ。
「あう……」
その愛妹は、僕の愛に引き気味だ。
お兄ちゃんショック。
「それから兄さん」
「はいな」
「デートしましょう」
「あう……」
僕はルリの頭を軽く叩いた。
慰めだ。
きっとルリは僕をラピスに取られないか心配なのだろう。
ラピスもルリで、だから同一人物には相違ない。
其処が分かっても心が納得するかは別問題。
いや、まぁ、其処を完全に承知でラピスに付き合っている僕にも原因の一部はあろうけども。
「今日は四谷と久遠と遊ぶ予定なんだけど」
「付いていきます!」
いいけどね。
ラピスのハイテンションは慣れたモノ。
「ビッチと妥協案は良い人ですか?」
「良い友人ではあるよ」
そこは間違いない。
こんな僕を見捨てないでくれるんだから。
「友人……」
少し怪訝なラピス。
僕の死と並列して生き残った二人を良くは思えないのだろう。
ビッチと妥協案。
その様に呼ぶラピスらしい斟酌だった。
「それは寂しいよ」
湯飲みで茶を飲みながらそう言う。
「ですか」
「ですね」
遺産でもある。
母さんとの……約束。
『僕』を賭けて守る物。
「では遊ぶ場所は此方で選んでも?」
「予定は久遠と折衝して」
「相分かりました」
湯飲みをコトンと置くラピス。
そしてスマホでカシカシ。
予定を組んでいるらしい。
いいんだけどね。
テレビを付ければ世界制覇王国についてのニュース。
世界覇王こと司馬軽木は世界基準でのテロリストのようで……ある種でヒトラーすら超える悪役と相成っていた。
ちなみに……ラピスは何時ものように不敵でした。
無明なのか無無明なのか。




