第71話 祭りの後の祭り04
昼飯をルリと食べてから市立図書館に向かう。
何時もの平服だ。
待ち合わせは図書館内部のカフェ。
四谷が待っていた。
「なんとまぁ」
とは驚きの御様子。
主に僕。
「気合い入ってるね」
「他に言うことなし?」
「可愛いとか?」
「先にソレ言えし……」
難しい要求です。
素面で「可愛い」とか女子に言えるか。
実際に四谷は可愛いし、嘘を吐くにはクオリティが高いのも事実。
カフェの客がこっちを見つめていたけど、どうやら四谷は目の保養に相成るらしい。
気持ちはわからんじゃないけども。
「エスプレッソ」
ウェイトレスに注文して宿題を広げる。
「もしかして夏祭りも此処から直行?」
「だし」
四谷は浴衣姿だった。
気合いが入っているとは正にこの事。
赤を基調とした生地に花が彩られ、腰の辺りにホトトギスが刺繍されてある。
根性バリバリだ。
茶髪も今日は纏めてリボンで結んである。
元から可愛い女子ではあったけど、「仲の良い友達の意外な一面」は少しばかりショックもある。
――もちろんポジティブな意味でね?
「良いけどさ」
「花火見るし」
「花火ね」
市内なら何処からでも見えるだろうけど。
「あたしと夏祭りは嫌?」
「別に」
「迷惑?」
「別に」
「むぅ」
言わなくても分かるだろうけど一応忠告。
「真面目に付き合ってると疲れるよ? 僕とは」
道化を演じるのは僕の悪癖だ。
「知ってるけど」
まぁそこそこの付き合いだ。
その辺の事情も分かってはいるのだろう。
別段、平均値から外れてはいても、四谷や久遠がいるから助かっている側面はまま在る。
「そりゃ重畳」
エスプレッソを飲みながら宿題を片付けていく。
時折意見交換。
「浴衣で宿題って疲れない?」
「そういう身も蓋もないこと言う普通?」
「空気は読めないので」
「読まないんでしょ?」
「そ~かな~?」
読めないと読まないじゃ大分違う気もするけど。
「司馬は天然ってタイプじゃないし」
サラサラと問題を解いていく。
「ほんと古文に関しては無敵だね君」
「ま、趣味だから」
大和撫子。
茶髪だけど。
出も華やかなりしは確かで、美少女には分類される。
ピンハネ援交から助けて懐かれたけど、それにしてはよくよく縁が続くモノだ。
袖擦り合うも多生の縁ならば、なにかしら多生にファクターがあったのだろうか?
「仮面恋人は人前で演じればいいんじゃない?」
「一応ツイッターに写真付きで載せたいし」
「掣肘?」
「牽制」
「大変だね」
「…………」
半眼で睨まれました。
だから何故よ?
「で、巻き込まれる僕の塩梅は?」
「コーヒーもう一杯」
「ちゃんと目くらいは隠してね」
「世界覇王陛下ならバレるんじゃない?」
「あー……」
今更っちゃ今更か。
僕の顔は国連のブラックリストに載っている。
別にソレが全てじゃないけど、たしかに顔は売れていた。
もっとも久遠のようにイケメンでは全く無いんだけども。
「そすると四谷の顔までツイートで拡散する羽目に?」
「別に良いじゃん?」
「面倒に巻き込んだことはゴメン」
「そういうところだし……」
呆れ顔。
けれど少し嬉しそう。
たまに四谷はよく分からない。
「司馬のせいじゃないし」
「ラピスの責任は僕も共有する処だけど」
「司馬ならそうだろね」
分かられちゃってるらしい。
愛妹の責任はお兄ちゃんの責任。
愛妹が罵られるならお兄ちゃんが庇う。
っていうか経済的には僕がラピスに庇われているけど。
そこら辺がなぁ。
罪悪感恐るべし。
「だからお祭りで借りを返して」
「承りました」
慇懃に一礼。
「コーヒー美味しいね」
「それはプロの仕事だしね」
「四谷の奢りだからまた一段と」
「…………」
「何の意味が……ってツッコむところじゃない?」
既聞スルーですか。
「嬉しいなら……まぁ良かったりして」
「じゃあ恒常的に四谷に奢って貰うか」
「世界覇王が情けないこと言うなし」
ご尤も。
その気になれば、地球を滅ぼせる戦力だ。
あくまでラピス有りきで。
パールハーバーの一件も、ソレに根拠を与えるだろう。
何にせよ世界にとって敵には相違ない。
僕はエスプレッソに口を付けた。




