第64話 パールハーバーを蹴っ飛ばせ03
浮き輪に座ってホケーッと。
人並みに泳げるけど、どちらかと云えば不精者。
ハワイの上空浮かぶ太陽のかんかん照りと、寄せては返す波の奥……海の潮風を感じながら無常を得る。
ザパン。
海面が跳ねました。
現われたのはアート。
銀色の髪が日光にテカる。
さすがの美少女性は、アートの獲得するところ。
実際にその水着姿は劣情を呼ぶ。
システムメギドフレイムが怖いので態度には出さないけども。
地球の演算程度は、ラピスもやってのけるだろう。
「ども陛下」
「どうも」
「泳がなーので?」
「一休憩」
「ですかー」
「ですよー」
「地球で一番偉いてどぅな気分でしょ?」
「自覚はないよ」
そもシルバーマンと違って帝王学も修めてないしね。
ぶっちゃけるなら視界に映る物が僕の世界だ。
征服したと言われても、別段誇らしい気にも為らないし、無茶を通す気にもならない。
けれどもラピスの思惑を止める気にもならないので、其処の塩梅は難しいところ。
「そなものでっか」
「そんなものです」
「シルバーマンを追従させのですど?」
「それは宰相閣下に言って」
こっちに言われても決定権がない。
いや決定権はあるんだけど、僕の一声で世界情勢が変わると胃が痛くなるのです。
「きょーみなしの御様子」
「だろうけどさ」
別にラピスも権力ほしさに宰相になっているわけじゃない。
単なる僕の補佐で落ち着いているだけだ。
その僕が、「どうしろと?」と思っている限り世界は平和だ。
「世界征服で世界が平和になるですね?」
「それもどうかなぁ」
「ワンワールド主義で?」
「まぁ経済市場が国際的になったのは否定しないけど」
「おかげで貧富の差が更に」
「シルバーマンが言いますか」
「反省」
コツネンと拳で自分の頭を軽く叩く。
可愛いけど却下で。
「アートは面白いね」
「恐悦至極に存じま~す~」
「僕よりラピスと話す方が有益と思うけど」
「でしょか?」
「口利きを頼んでいるなら意味ないと思うよ?」
「将を射んと欲すれば~」
世界覇王ですか。
主従が形式と実力で違うって言うのも何だかね。
太陽を見上げる。
浮き輪でプカプカ。
世界覇王とて、出来る事は限られる。
結局マジョリティが居ないと王の意味も無いわけで。
その点で言えば、実質的な王はラピスかも。
御本人は全面的に否定するだろうけど。
でも僕を世界覇王にするのは本気っぽいし……。
「アートは……」
「ははっ」
敬礼。
「というかシルバーマンなんだけど」
「?」
「インタフェースを集めてどうしたいの?」
「人類を次の世紀に」
「陰謀論に聞こえるのは僕の耳が腐ってるんだろうか?」
「無理も杓子もありませぬ」
ですよね。
話が遠大すぎていまいち感覚で捉えづらい。
ラプラスレコード。
その一端を、僕はラピスを通して知っている。
だから何……って言われれば、まぁその通りなんだろうけども。
「こと」
とはアート。
「閣下は突出しまーす」
それは同意。
システムメギドフレイムはある種のオーバーテクノロジーだ。
現代では有り得ない。
おそらく未来世界でもまだ足りないだろう。
どうやって過去に渡ったかは論じられないけど、ぶっちゃけその演算能力は既にして防衛省の戦争用スパコン以上だろう。
「そういえばハワイは米国の領土だけどシルバーマンはそれでいいの?」
「ぶちゃけ王国にとては属国し~」
「形式上ね」
「財閥とては気に入りませぬが」
「嫌いだからって喧嘩を売るのも違うよね」
「ですです~」
うんうんとアートは頷く。
そこら辺は何だろう?
政治的配慮?
いいんだけどさ。
浮き輪プカプカ。
日差しが照りつけ、良い天気だ。
日焼けはしないので、その辺の心配はないけど、司馬セーフティは万能論。
「泳ぎもせんか?」
「いいけどさ」
「せかくのハワイですもの」
「折角ね」
「です~」
ま、属国を思案してもしゃーないか。
「とう」
僕は浮き輪から海中に飛び込んだ。
バシャンと海面が跳ねる。
ハワイ旅行にこんなに簡単に行けるのがジョークのようで、でも現実で。
「永遠しませんか?」
「遠泳ね」
「でしたー」
そんな感じの僕らです。




