第34話 私の愛妹は凶暴です03
警察が去ると今度はマスコミが押し寄せてきた。
時間が時間のため日本のものと日本在住の外国報道官の皆様がた。
「覇王陛下にお目通りを!」
とは、おそらくジョークのつもりなのだろう。
面白がって取り上げるものだから、一過性のブームになっていた。
スマホで確認するに、世界中が騒乱している。
ちょっとインパクトは強いよね。
僕とラピスは教室でその様を眺めている。
「どうする?」
「少し思い知ってもらいましょう」
サクリと言った瞬間に、メギドフレイムが奔った。
熱エネルギーの射撃と転移。
手に持った報道陣のカメラや機材が灼熱で焼き尽くされる。
「「「「「――――――――」」」」」
それがまた混乱を呼ぶ。
「暇人が多いですね」
それを君が言うのかい?
ほとんど暇潰しも同然に世界に喧嘩を売った世界制覇王国の参謀長……いや宰相閣下です。
「帰りましょ。兄さん」
「はいはい」
そんなわけで蜘蛛の子を散らすようなマスコミさんの夢の跡を踏みしめる僕ら。
「ガチ?」
「じゃね」
とは付き添っている四谷と久遠。
こっちもこっちで混乱は……それはするよね。
「あんまり近寄ると格好の餌食になるよ?」
「いや、まぁ、ドン引きするところだけど司馬さんがやったんなら笑い話だよな。さすがにこんな技術革新は一種のビジネスチャンスじゃないか?」
久遠は納得しているらしい。
「何で司馬を巻き込んだし?」
四谷の方はラピスの行いに不満そうだ。
たしかにつるし上げられるのは僕だから、ラピスの軽挙妄動に不満を持つのは友人として当然かも知れない……なのだけどラピスに通じるはずもなく。
「兄さんを世界で一番幸せにするためです」
「……………………」
半眼で睨まれても飄々とするラピス。
その精神性は賞賛の的かも。
「正気?」
「無論」
そこは確かだ。
少なくともラピスは理性を失っていない。
妄執はしていても視界は広い。
やってることは極端だけど、そこに善悪の意がないのだ。
「兄さんを幸せにする」
言ってて当たり前の家族愛で、世界に喧嘩を売る豪傑。
「何やったか分かってる?」
「多分ビッチより」
「…………!」
ビッチと呼ばれたことと理性ある反論への対抗がせめぎ合って一瞬言葉で喉が詰まる四谷さんでした。
「世界に喧嘩売ったんだよ!?」
「はあ」
ぼんやりと。
本当に今更だ。
ラピスと僕にとって再認以上では無い。
――未来の修正ってどうなるんだろう……?
少し時間の矛盾性について考える。
「暗殺されたらどうするのよ!」
「セーフティ掛けてるので心丈夫」
「国際的な犯罪者でしょ!」
「王国の発言力は国際法より上位に位置しますので」
本当に、心底から、四谷の懸念を、「どうでもいい」と思っている口調だ。
巻き込まれる僕も僕だけど。
ラピスが可愛いから許してしまうのは、兄さんとしてどうなのか。
場合によっては戒めた方が良いのかも知れないけど、何故か憎む気にはなれなかった。
何に起因するかならシスターコンプレックスだと高らかと宣言できるけど。
「白い髪の……!」
逃げなかった記者の一人が此方を見つける。
遠くからでもラピスの御髪は綺麗に映るから、まぁ認識は容易い。
「覇王陛下でいらっしゃいますか!」
僕に言葉を突きつける記者。
「ですけど」
「邪魔」
熱塊が空から降った。
記者の四方に落ち、地面を抉る。
「次は当てる」
冗談にしては凪の声質だった。
「は……おう……へいか……」
灼熱。
光条が落ちた。
ソレは記者の足の甲を撃ち貫いて霧散する。
「――――――――!」
悲鳴が上がった。
「自重と反省を求めます」
サクッと言って僕の腕に抱きつくラピス。
「マジか~」
久遠が感慨深げに納得していた。
「ありえんし」
四谷も同じ御様子。
「兄さん。今日の夕餉は何です?」
「買い物しながら考えよう」
そして帰路につく。
「世界覇王が買い物するのか?」
久遠が首を傾げたけど、
「相手方に問題がなければ無闇に煽る気はありませんよ?」
ほんと~に今更。
説得力皆無。
「別段ワンワールド主義でもないので、各国の文化とルールには理解を示します。お金は王国の財政裏付けにも為りますので金銭授受は裏切れません。ぶっちゃけ金銭取引が破綻すると、経済のシステムが根こそぎ破壊されて世界制覇王国の軍事力をもってしてもコレばっかりは修復不能です」
もはやそういう問題でも無いような……。
 




