Scene7 訓練と預言
まずはアリスが対魔法・物理複合障壁を発動させる
そこに教師が訓練用に刃を潰した両刃の剣で斬りかかる
それを難なく弾き、広域制圧用の焔の波を放つと、教師も手元に対魔法結界を瞬時に展開する
すぐに大気衝撃波を右手にした剣に纏わせつつ、左手に雷撃炸裂球を保持して突進してくる教師に対して、アリスは大地揺動で動きを制限しつつ、愧儡岩石を突撃させ、自分は後退する
間をおかずに足下に炎柱の術が飛んできたため、上昇気流で空中に逃れると、その動きを読んでいたかのように目の前に教師が現れた
反射的に光子炸裂球を放ち、視界から逃れ、草木の絨毯で着地しようとした瞬間
魔法を使用するための魔力が底を尽きた
それに気づいた教師が大気圧力減衰を素早く展開し、ゆっくり着地させた
「うん、そこそこ術のバリエーションはあるみたいだけど、どれも保有魔力に対して魔力をドカ喰いするものが多いね
かと言って防御術中心の戦法だと何か信号弾の代わりになるものを打ち上げても気付ける者が居るとは限らないし・・・
護符の類は持っているのかい?」
「ええ、重力捕縛網と守護者の防壁の術符が5枚ずつ」
「凄い術符だが・・・万が一1人で居るときにその枚数は些か心許ない気がするな・・・
誰か、近所とは言わなくても同じ方向に帰る生徒はいないのか?」
「難しいですね・・・首都の外ともなると送迎係の方が居たり、公共交通機関を使う人ばかりなので」
ふと、隅で気配を消しているジャスミンと目が合った
「そういえば・・・彼女が私の家と同じ方向で、少しだけ遠くにあったような気がしますけど・・・最近忙しそうにしているんですよね」
「ああ、ジャスミンか
そういえば仲良くしているらしいし、一緒に帰ることは出来ないのか?」
「不可能ではありませんが、難しいですよ?」
ジャスミンが此方に近づきながら言う
「だが、アリスは術の制御は結構なレベルだが、保有魔力に問題がある
1人で登下校させるのは不安なんだ」
では私にも考えがあります
私の護法をアリスに憑けるのはどうでしょう」
いつの間にか傍に来ていたエーデンが言う
「護法を打てるのか?」
「ええ、披憑依者の追尾及び防御、危険信号の自動発信程度の機能ならばすぐにでも作れます
私は家の方向こそ違いますが、普段から用事があるわけでもありませんから、危険信号を受け取ればすぐに向かう事も、通報することも出来ます」
「うむ・・・それならなんとかなりそうな気がしなくもないんだが・・・」
「それに、護法が正確な位置を発信できる状況にあれば、そこに込めた魔力を基準に転移させることも出来ます
尤も、1人用という欠点はありますが、そもそも他に誰もいない状況が基本ですし、転移させる前に護法を通して周囲を視ることもできますから、問題はないでしょう」
「わかった、宜しく頼む」
「いえ
ではアリスさん、放課後に護法を憑ける儀式を行いますから、職員室前で待っていてください
・・・不安ならついてきてもいいんですよ、ジャスミンさん?」
「私は別に構わないが
アリスに危害を加える気は無さそうだし」
「では決定ですね」
そうした会話の後、再び自衛法の訓練に入る
といっても、今度はジャスミンが仮想敵の幻影を繰り、それをアリスとエーデンのコンビが迎撃する方式だ
ジャスミンが異形中位悪魔を模した者の群を出現させると、アリスとエーデンに向かって突撃させる
ある者は得物を構え、またある者は火焔放射を使用しながら突っ込んでくる
魔力回復魔法を受けたアリスが瞬時に大地防籠で周囲を囲うと、エーデンは傍から離れながら竜巻放射で群れの中央をなぎ払い、同時に風圧攻壁で長距離系の術を封じつつ、周囲にバラけた個体を殲滅する
一部の個体が長距離の攻術は通用しないことを悟ったかの様に大地揺動を使用すると、アリスの周囲の大地防籠が崩れた
咄嗟に揺れる地面から逃れるように空中歩行を使うと、有翼の仮想敵が飛行しながら圧縮大気弾を放つ
すぐさま火焔槍で圧縮大気弾ごと仮想敵を貫くと、すぐ横に跳ぶ
直後、先ほどまで居たところを竜巻旋風が直撃していた
冷や汗をかきつつも着地し、そこから地砕石流を放ち、同時に余剰となった岩石を寄せ集め、傀儡巨岩を生成すると、固まっていた仮想敵の群れを一気に押し潰した
傀儡巨岩に向かって複数の仮想敵が火焔旋風を放つが、魔力で岩石を繋いで動く人形としている傀儡巨岩には全く意味を成していない
そういった個体は逆に傀儡巨岩に踏み潰され、あるいは蹴り飛ばされていた
そうして殆どの仮想敵を殲滅した頃に再びアリスの魔力が限界に近付いていた
これ以上傀儡巨岩を維持させる意味がないと理解したアリスは、残った群れの近くで傀儡巨岩を維持するための魔力供給を断った
すると人形を成していた岩石が一気に崩れ、残っていた仮想敵は下敷きになり、全滅した
丁度その頃に訓練が終わった
「さて、生徒諸君、これにて午前の部は終了とする
速やかに各教室に戻り、帰宅の準備をすること
以上!」
と拡声用の大気系魔法で校長が指示すると、クラスごとに固まってぞろぞろと教室に戻っていく
アリス等もその流れに乗って教室に戻ったが、いつの間にかエーデンはいなくなっていた
先程の事があるため、先に用意を済まして職員室に向かったのだろうと思ったアリスは、さっさと荷物を纏め、職員室に向かう
すると既に許可が下りたのか、とある教室の鍵を持ったエーデンが居た
「では、これから第3魔法実験室を借りて、護法の生成と憑依を行います
・・・心の準備はいいですね?」
「・・・はい」
やがて借りることのできた教室に入ると、エーデンが素早く防音用の術を発動させた
「これから見た内容は絶対に口外しないで下さいね
私の信用問題にも関わりますので」
アリスが頷くと、エーデンは一瞬微笑み、すぐに表情を戻しながら小声で呪文を唱え始めた
やがて何も無かった床から知らない者の魔力が溢れ出し、魔法陣を描き始める
しばらくすると光る魔法陣の中央から黄金に光り輝く球体が現れ、宙に浮かぶ
「これは、貴女の性質に合わせて護法を調整した結果です
貴女の性質はミドルネームと同じsol、つまり太陽
自ら光り輝く陽の性質、そして周りを惹きつける者
どんな苦難であっても必ず支えになってくれる人が居ることでしょう」
別人の様な口調でエーデンが言うと、黄金の球体は少しずつアリスに光を渡し、最後には消滅した
「これで儀式は終了です
もう帰っても大丈夫ですよ」
とエーデンが言うので、挨拶して教室から出ると、ジャスミンが待っていた
「・・・特に変わりはないか」
「うん」
「なら帰ろう
昼で終わりとは言え、あんまり時間が過ぎるのも問題だからな」
そうジャスミンが言って、私達は久しぶりに一緒に帰路についた