両監督のインタビュー
試合は終わった。まさに「死闘」と呼ぶに相応しい一戦が。
是が非でも勝利したかったサポーターたちも、死力を尽くしきった選手を見て野暮なブーイングは一切なし。激闘を讃える拍手を送り、次節以降へのゲキを込めたコールを送っていた。
その最中、メインスタンド下に設けられた放送ブースに、解説者として試合を見守った高橋一明は、マイクを持ってテレビカメラの前に立ち、インカム越しに放送席のアナウンサーとやり取りをしていた。ここにいるのは両チームの監督にインタビューするためだ。
この手のインタビューは、まずアウェーチームの監督からだ。試合会場で行うゲーム後の記者会見もアウェーチームから始まるからだ。
現れたバドマン監督は、目つき鋭く険しい表情で現れたが、高橋が会釈するとにこりと頬を緩めがっちりと握手を交わした。ここでインタビューが始まった。
「えーそれでは和歌山のバドマンに来ていただきました。まずはお疲れ様です、そして勝利おめでとうございました」
「ありがとうごさいます」
マイクを向けられたバドマンは、穏やかな笑みを浮かべながら会釈した。この対応を見て、高橋はバドマン監督の人の良さを感じた。こういうインタビューは広報になってからだが、仕事上数を多くこなす中で、最初の挨拶で相手の人となりがわかるようにはなった。チームの勝敗にもよるが、感情が露骨に出たり不遜な態度をとってくる人も中にはいるので、そういう日はハズレだと思っている。水沢監督やこのバドマン監督は、大当たりの部類だ。
「まず試合のほう振り返っていただきたいのですが、非常にしびれる展開が90分続きましたが、率直な感想をお願いできますか」
「まずこのような試合で勝利を挙げられたことに、心からホッとしていますね。ホントに選手たちがよく踏ん張って、自力でゴールをこじ開け、それを最後まで守りきった。今日の勝利はチームがよりチームらしくなる上で重要な勝利だったと思います」
「先制点を奪われ、その他何度もピンチがあってと、なかなか主導権を握れないなかでの逆転勝利でしたが、先程監督がおっしゃったように個の力が光りましたね」
「そうですね。剣崎、竹内、友成…そして猪口と、自分の発揮できる技量を出し切ってくれましたね。ただやはり一人の力ではなく、チームとして『ゴールを決める』『守りきる』とその場その場の意志統一ができていたことが何より大きくて、個の力が光ったというのは、たまたまその時があった。それだけだと思います」
「これでリーグ戦は20試合負けなしとなりました。ここまでの好調の要因、監督はどう分析されてますか?」
高橋の質問に、バドマン監督はうーんと唸った後、ゆっくりと言葉を探すようにして答えた。
「要因…ですか。まあたくさんの要因があって今の結果があるわけですが。あえて一つ答えるとしたら、選手たちがメンタルタフネスであることと思います」
「メンタル、精神力の強さであると」
「やはり勝ちつづけるということは、心身ともにストレスがかかります。また、すぐ下の大阪がなかなか負けませんので追われるプレッシャーも加わっています。その状況下で持てる力を常に発揮すること、これをやってのけること、これがこのチームの一番の持ち味だと思います」
「次節は剣崎選手と大森選手抜きで神戸戦、そしてその次はいよいよ大阪との直接対決をアウェーで控えています。昇格へのラストスパートへ意気込み、お願いします」
「えーこれから先、どういう状況であっても、一戦必勝であることに変わりありません。繰り返しになりますが持てる力、技術、それをぶつけて、最後は笑顔でその時を迎えたいと思います」
「ありがとうございました。バドマン監督でした」
別れ際、バドマン監督はもう一度笑みを浮かべながら、両手でがっちりと高橋の手を握った。
しばらくして、水沢監督もやってきた。直前までは神妙な面持ちだったが、昨シーズンまで長く苦楽を共にした高橋に悟られまいと、険しくも穏やかな表情でインタビューに応じた。高橋は少し気を使いながらマイクを向けた。
「まず監督お疲れ様です。えー試合のほうは主導権を握りながらも悔しい結果となってしまいましたが、今日の試合、振り返っていかがでしたか」
「まあ、今おっしゃったようにね、我々がペースを握って先制点もとれたんですけど、ちょっと後半は地力の差が出てしまったかなと。ここ三試合よりはまともな試合ができたっこと…ぐらいですね今日は。はい」
「前半からチャンスを作って先制もできた。後半も何度かゴール前で戦えていたんですが、なかなかゴールを割れませんでした。たらればなんですけども、どこかで決めていたら…という気が放送席から見ててしたんですが、そのあたりどうですか」
「そうですね…。まあさっきもいいましたけど、ゴール前で戦えた分まだマシかなという気はしますね。ただPKにしてもコーナーキックの混戦にしても、決めるときに決めれないとこうなるってこと、改めて実感しましたね」
「その中で竹田選手が今日は光りましたね」
竹田の話題になると、手応えがあったのか、水沢監督の口調がポジティブになった。
「そうですねえ。まあ前節の熊本戦じゃ戦犯レベルのポカをやらかしたんで、取り返してやるって気概もありましたけど、今日のプレーでプロとして生きていく上でのきっかけというか、自分の持ってるスピードの活かし方、これをもっと学んでもらえればなと思いますね」
「まあ今日は悔しい結果に終わりましたけど、試合後サポーターの皆さんは拍手で選手を迎えてくれましたね」
「ホントそうですね。やっぱり不甲斐ない試合ばかりここんとこ続いて今日の逆転負け。ブーイングがあってもおかしくなかったんですけど、あれだけ暖かく迎えて頂いて…もう、感謝しかないですし、応えるためにもこのチームをJ1に昇格させなきゃいけないと感じましたね」
「残り9試合、厳しい試合が続きますが、それにむけてサポーターの皆さんに一言お願いします」
「そうですね。まあここまできたらどんな相手もみんな負けられない相手なので、絶対にプレーオフの出場枠を取るんだという気持ちを持って、選手、サポーターの皆さんと最後まで戦いたいと思います」
「ありがとうございました。以上水沢監督でした」
この二週間近く、もっとも楽しく試合が書けました。
沼田さんにはお歳暮贈らないとなぁ。チームを貸してもらってありがとうございました!




