第1話 全日空国内線XXX便不時着大破事故
20XX年の年末年始の羽田空港は大変混み合っていた。
通路を通っても、周りを見ても人の顔が必ず視界に入る。
俺は実家に帰省するためにここに来ているのだが...エンジントラブルでまだ搭乗ができない。
だから、こうして通路で彷徨っているわけだ。
1時間待っても治らないのかよ...そう思った直後、空港内にアナウンスが流れた。
『大変お待たせいたしました。全日空国内線XXX便 羽田空港発新千歳空港行きの搭乗を開始いたします』
これでリラックスできる...と思ったのも束の間、約200人以上の人が動き出した。
こいつら全員新千歳行くのか...こりゃリラックス出来なさそうだな。
◇◆◇
飛行機に乗り込み自分の座席を探す。
J-4ってどこだよ。座席数多すぎてわからんわ!
迷子になった俺は、客室乗務員さんに聞き、自分の座席を見つけた。
窓側の席を取ったので、知らない人が横に来るのは一人だけ。
ここで、あたりを引くか、ハズレを引くか...さあ、どっちだ!
隣にやって来たのは美少女...ではなくサラリーマンのおじさんだった。
はずれだ。約1時間30分のフライトを我慢すれば自由だ!我慢我慢!!
◇◆◇
『まもなく離陸いたします。シートベルトをお締めください。【Ladies and gentlemen, we will be taking off shortly. Please make sure that your seat belt is securely fastened.】』
すごいな、客室乗務員って英語もペラッペラ。
TOEIC800点越えなのでは?と思うほどすごかった。
アナウンスが流れて、数分後。飛行機が離陸した。
『皆様、シートベルト着用サインが消灯いたしました。皆様の安全のため、お座席にいる間は、常にシートベルトをお締めください。【Ladies and gentlemen, the captain hasturned off the fasten seat belt sign. For your safety, pleasekeep your seat belt fastened at all times while seated.】』
何度聞いてもすごいと思う。
そんなことより、朝早かったんだから今のうちに睡眠をとっておこう。
◇◆◇
どのくらい眠っていただろうか。アラームをかけていたのだがその時間ではない。
俺が目覚めた理由は、機内が慌ただしかったからだ。
詳しく言うと、空港を出る前に直したエンジンがまた故障してしまった。
つまり、《《エンジントラブル》》が起きている。
客室乗務員は、
『皆様落ち着いてください!もしもの時に備えていつでも頭を下げられるようにしておいてください』
と冷静に伝えているが、顔から先ほどのような笑顔が消えていた。
『何でもしものことが起こる前提で話を進めてるんだよ!!安全なんだろう?会社のスローガンにあったじゃないか、【皆様を安心安全の空の旅へと誘います】とな!どうなんだい??』
と声を荒げたのは隣のサラリーマンだった。
『俺は今日の17時から大事な会議があるんだよ!こんなところで死んでたまるか!俺の昇給と昇進がかかってるんだ!ああああ!まじでもう!何でこんなオンボロ飛行機に乗っちまったんだ俺は。クソクソクソクソ!!!!』
ずっと声を荒げるサラリーマンは、精神的に参ってしまっているようだ。
『お客様!落ち着いてください!当機はエンジンの修理のために青森県三沢空港温泉に向かっております。ですので墜落の恐れは...あ...』
というと客室乗務員は倒れ込んだ。
なぜなら飛行機自体が揺れているからだ。
すると、機長からのアナウンスがなった。
『乗客の皆様にお知らせいたします。当機は一つのエンジンが止まってしまったため三沢空港で修理を行います。ご不便とご迷惑をお掛け致します』
機長からのアナウンスが終わったあと、客室乗務員は受話器を取った。
多分機長と会話をしているのだろう。
数分後、受話器を戻した客室乗務員がこちらに戻ってきた。
『皆様、落ち着いて聞いてください。当機に搭載されている二つのエンジンがどちらとも停止いたしました。胴体着陸に備え、頭を下げてください』
これはかなりやばそうだな...今のうちに実家の方に連絡入れとくか。
そしてポケットからスマホを取り出し、こう打った。
【ごめん。多分そっちの方行けないわ。何だったら、今後一生会えないかも。遺言みたいだけど、今までありがとう。】
送信ボタンを押そうとした瞬間、また飛行機が揺れた。
その弾みでスマホが飛んでいってしまった。
スマホを取るために席を立とうとすると、
『お客様!!危険ですのでお席に座ってください!!』
「で、でもスマホが...」
『スマホなんかよりご自身の命を大切にしてください!!』
客室乗務員にそう言われ渋々席に戻った。
き、きっと大丈夫だよな?生きて帰れるよな?急にそんな言葉が頭をよぎった。
無理もないか。
今の自分は死の崖っぷちにいるのだから。
数分後、プルルルル!と受話器のコール音がなり、客室乗務員が受話器を取った。
だが、話しているうちに客室乗務員の顔色が悪くなっていき、挙げ句の果てには...
『皆様。当機は胴体着陸を試みます。そのため、頭を下げてください!着陸場所は青森県の三沢空港です。三沢空港は3000mの滑走路を持っており緊急着陸に対応している空港です!なので皆様、落ち着いてください!!』
客室乗務員の目には涙が浮かんでいた。その顔を見た瞬間こう思った。
「《《この飛行機は墜落する》》」と。
◇◆◇
数十分後、
『胴体着陸を開始いたします!頭を下げてください!!!』
と客室乗務員が告げた瞬間、飛行機全体が激しく揺れた。
そして、金属の擦れる音が機内に響き、その音は子どもの悲鳴を書き消すほどだった。
『皆様!!頭を下げて!!絶対に頭を上げないでください!!』
何度も何度も客室乗務員は叫んでいた。
俺は心の中で「助かる!絶対に助かる!」
と唱えていた。
だがそれも虚しく...飛行機は3000mの滑走路を越え、コンクリートの壁に衝突。
そして、乗客乗員合わせて269人全ての人が飛行機の爆発によって一瞬にして亡くなった。
もちろん、俺も...爆発した後少しだけ意識が残っていた俺は状況を理解するために周りを見ようとした。
だが、全身が折れているのか体の上に何か乗っているようで、体が動かせなかった。
唯一動かせる頭を回して周りを見る。
辺りには...元々人のものだったとされる肉片や血が散らばっていた。
嫌だ、嫌だ、嫌だ!!!こんなところで...こんなところで死にたくねぇよ!
そう思ったがもう手遅れだった。
現実を受け入れられなかった俺はそのまま瞼を閉じた。
これが、《《全日空国内線XXX便不時着大破事故》》だ。




