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この世界で生きる少女  作者: あまね


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20/24

初めて触れた死

私がいつものように勉強していると、出勤中のはずのカイテルさんが気まずそうな顔をして図書室に入ってきた。


「……あれ?カイテルさん?どうしたんですか?」


「リーマ……今からリーマは俺と一緒に病院に行かないといけないんだが……」

カイテルさんは申し訳なさそうに言った。


「病院?どうしたのですか?どなたか病気でも……?」


「……実は、あの十一人の中に――」


カイテルさんが説明を始めた。


「……えっ?よ、四人が亡くなった……?」


「そうだ。だから、お父様がリーマに亡くなった四人の死因について意見を聞きたいそうだ」


医者の診断ではディル薬による副作用とのことだった。


……ちょっと変かも。


ディルは毒性のない植物だ。人によって耐性や免疫に差があるのはよく分かっている。

しかし、麻薬依存症の治療を始めてから一ヶ月も経っている。

今さら副作用が出るなんて……少し考えにくい。


しかも、十一人も同じような症状で、なんて。

さらに、同時に四人も亡くなるのは不自然すぎる。


「リーマにあんなものを見せるのは気が進まないんだが……ごめんね。嫌なら、行かなくてもいいから」

カイテルさんは眉間に皺を寄せた。


「大丈夫ですよ。薬の仕事をするなら、いつかは見ることになりますから」

私はそう言って立ち上がった。


「それに、わざわざ騎士団本部から迎えに来たってことは……お父様も急いでいるんでしょう?」


「まあな……時間を置いたら、遺体が腐敗して余計に分からなくなるから」

カイテルさんはため息をついた。


「リーマ、絶対に無理はするなよ。分かった?……はぁ。じゃあ、行こうか」

再び息を吐き、私の手を取って歩き出した。


人間の遺体を見るのは初めてだけど……


人が寝ているのと、そんなに変わらないんじゃない?


おじいちゃんに薬のことを教わっていた頃から、ずっと見てみたかったんだよね。


余裕余裕〜。


だって私は、おじいちゃんの弟子だもん。




――と、そんなことを思っていた。


カイテルさんと私は馬車に乗り、病院へ向かった。

初めての霊安室に足を踏み入れた瞬間、私は思わずぶるぶると震えた。

思っていたよりもずっと空気が重く、暗く、嫌なにおいが充満していた。


(うぅぅぅぅ……)


無意識に、手で口を押さえた。

カイテルさんは私の肩を抱き、ゆっくりと遺体の方へ導いた。


さっきまで「大丈夫」とか、

「心配ない」とか、


偉そうに言っていたのに……。


実際に遺体が視界に入った瞬間、私はカイテルさんの腕をぎゅっと掴んでいた。

それに気づいたカイテルさんが、さらに強く私の肩を抱いた。


こ、こ、これが……死体?

全然、寝ているみたい……じゃないじゃないの!?


肌も、

唇も、

手足の先も、

瞼も、

青白くて、

もうこの世のものには見えなかった。


想像していたより、ずっと不気味で恐ろしい。


(……うぅぅぅぅ……吐きそう)


「リーマ、帰ろう?……無理しないで」

心底心配そうな目で、カイテルさんが私を見た。


「だ……だいじょう……ぶ、です」


手で鼻と口を覆ったまま、浅く息を吸い、四人の遺体を観察した。

手のひらや首元には、爪で引っ掻いたような傷跡が残っていた。

爪はぼろぼろに割れている。


……死に際、壁やベッドを必死に掴んでいたのだろう。


「発見した時は、目を大きく見開いていたよ」

と、お医者さんが言っていた。


窒息死……。


この人たち、息ができなくて亡くなったんだ……。

きっと、ものすごく苦しかったはずだ。

私はもう一度遺体を見回した。


……あれ?


一人の拳の隙間から、白いものが少しだけのぞいている。

固く握られた指に恐る恐る触れた。力を込めて、一本ずつ開いていく。


白い布の切れ端だった。毛布でも掴んでいたのだろうか。

毛布がちぎれるほど、最後まで息を求めていたんだ。

私はもう一度ゆっくり呼吸して、手袋をはめた。


震える手を伸ばし、できるだけ距離を取ったまま遺体の口を開け、水ぶくれのような腫れが喉の奥に見えた。


念のため他の遺体も確認すると、同じ症状があった。


(……うぅぅぅぅ……最悪)


触覚も、

視覚も、

嗅覚も、

全部がつらい。


ヤバい……本当に吐きそう。


自分を落ち着かせるために、深く深呼吸した。


(……うぅぅぅぅ……)


霊安室の嫌なにおいを思いっきり吸ってしまった……。


こみ上げる吐き気をなんとか押し込めた。


……とりあえず、死因は分かった。


「か、カイテルさん……も、もう、大丈夫です……わかりました……」

手袋を外そうとしても、手が震えてうまくいかない。


「ここを出よう。顔色がよくない」

カイテルさんが手袋を外してくれて、肩を抱いたまま霊安室を出た。


「あ、あの……残りの七人の様子も、見ておきたいです……」


「……わかった」


私たちは七人が治療されている小屋へ向かった。


七人は皆、ベッドに横たわり、明らかに重症だった。

顔色は真っ青で、脈もひどく弱い。

まぶたを開けても眼球はほとんど動かず、反応も鈍かった。

呼吸は浅く、ときどき止まりかけている。


「……た、す……うぅ……」


一人の麻薬団員が小さく呻いた。


……体内に毒が相当蓄積しているはず。

この容態が、昨日今日で生じるはずはない。

それなのに、どうして今まで気づかなかったんだろう……?


……医者でも気づかなかった?

それとも、誰にも気づけなかった?


……いや、決めつけちゃだめ。


調査して判断するのは、お父様たちに任せよう。


七人の小屋を出たあと、私は薬の材料を確認するため、調理場へ向かった。

麻袋に入っていたディルの葉の中に、色の少し違う別の種類の葉が、かなりの量混ざっている。

偶然とは思えない量だった。


……この葉は、屋敷の庭にも咲いている。


私の推測は、ほぼ間違いない。

私はカイテルさんへ視線を送った。


それだけで察したのか、カイテルさんは私の肩を抱き、すぐに調理場から連れ出して馬車に乗せてくれた。


カイテルさんの優しさに甘えながら、私はあの四人の死因について考えた。


遺体の症状は、ガルデやコニファ、ソラル、ターンといった植物の毒によるものに近かった。

これらの植物は、触れるだけなら問題ない。

だが体内に入ると呼吸器官を障害し、免疫を低下させ、最悪の場合は息ができなくなる。


同じ呼吸困難でも、それぞれ決定的な特徴がある。


喉の中の、あの水ぶくれ——

あれは、コニファの毒による症状だった。


コニファは淡い青色の可憐な野花で、いい香りがする。

公園にも咲いているし、メイソン家の屋敷にも植えられていた。

誰かがコニファの葉をディルの葉の麻袋に混ぜたのだろう。


ディル薬作りを担当していた騎士がそれに気づかず、

毒のある葉も一緒に煮出してしまい、十一人に飲ませていたのかもしれない。


コニファは体内に蓄積する毒だ。昨日や一昨日から摂取していたはずがない。

もっと前から、少しずつ毒を取り込んでいた。


「リーマ、一旦屋敷に戻って休もう?顔色がよくないよ。……ね?」


私がわかったことを、一刻も早くお父様に報告しなければならない。

それでもカイテルさんは、ずっと私を気にかけてくれた。


……本当に優しい。


「お父様だって、そこまで急いでるわけじゃないと思うよ」

腕に込められる力が、少し強くなった。


「ありがとうございます。でも……お父様は早く知りたいと思いますし、亡くなった人たちが可哀想です。

すごく苦しんでいたと思います……あの人たちに、何かしてあげたいです……」


カイテルさんは答えず、ただ心配そうに私を抱きしめた。

カイテルさんの腕の中は温かくて、本当に安心する。


私はその胸に身を寄せたまま、王城に到着した。

特に何かをしたわけでもないのに、ひどく疲れていた。



――初めての遺体は、想像以上にきついものだった。


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