第十九話「シャルトリューズ森林戦②~お披露目、一夜城!~」
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新作が書きあがりましたので、投稿いたします。
「・・・クックック、今日という日をどれだけ、待ち望んだことでしょう。あの、スピタルに巣食う、汚らわしい魔族や亜人種、人間を皆殺しにして、世界屈指の医療技術を、私たちエルフが手に入れる日が、ついに、きたのですね・・・クックック!」
オラドールの里。
里長の、オリガ・オラドールは、端正な顔を醜くゆがめて、悪鬼のような笑みを浮かべていた。
その様子を、渾沌は、冷めた目で見つめており、千鶴は、どうでもよさそうな顔で、そっぽを向いていた。
「渾沌、そして、チヅル。この度の働きぶり、感謝いたしますわ。スピタルを支配した暁には、我がエルフ軍と、邪眼一族、そして、クロスの勇者軍とも手を組んで、手始めに、この大陸の全てを支配しましょう!そして、私たちが、バーディネ大陸の真の支配者となるのよ・・・オーッホッホッホッホッホ!!」
(・・・ハッキリ言って、小者ですね。まあ、今のうちだけは、いい夢でも見ていなさいな)
「・・・支配とか、私は、どうでもいいかな。私は、大勢の人間や魔族を、救済したいだけだし」
「救済?」
「・・・うん・・・どうして、みんな、死ねば、病気で苦しむこともなくなるのに、医者に治療を受けてもらったり、薬を飲んだりして、長生きしたいと思うのかなって。人間も魔族も、いつかは、死ぬんだし、早く楽にしてあげることが、勇者としての、やるべきことなんじゃないかなって」
(・・・そして、クロスの勇者は、何を考えているのか、さっぱり分からない。ただ、死ねば楽になれるなんて、随分と、独善的な考えですこと。貴方は、自分の理想の勇者に酔っているだけに過ぎないわ)
この二人など、所詮、捨て駒に過ぎない。
自分の本当の目的は、四大禁書の一つ【ハイドラの書】を手に入れることにあるのだから。
オリガの配下が、先走って、禁書の力を手に入れようとして持ち出したと、窮奇から聞かされたときには、怒りのあまりに、頭が真っ白になった。
その配下を見つけ出して、殺し、禁書を取り返した。
どうやら、ここのエルフたちは、スキがあれば、自分が里長に成り代わって、里を支配しようと企む輩が多く、いつ、誰が裏切るか分からない状態のため、まとまりがほとんどない。
スピタルを手に入れるための、この戦争でさえも、オリガを亡き者にして、自分こそが、里長になろうとするために、茶番にしか過ぎないとさえ、思っているものまでいた。
(烏合の衆に過ぎない。軍の統制も、あったものではない。まさに、この里長は、お飾り程度の存在としか思われていないということですか)
まあ、どうでもいい。
どのみち、スピタルを占領してしまえば、あとは、オリガ達など、始末してしまえばいいだけだ。
世界屈指の医療技術を持つ医師や、薬剤師を、邪眼一族に取り込むことができれば、戦力の強化につながる。さらに、禁書を手に入れてしまえば、もはや、こっちのものだ。
そう思って、渾沌は、エルフたちに持ち上げられて、調子に乗って、もうすでに勝ったつもりでいる、オリガの滑稽な姿を後ろから見て、ほくそ笑んだ。
「皆の衆!剣を振るえ!槍を突き出せ!汚らわしい魔族や、家畜にも劣る亜人などと共存しようとする、愚かな人間が支配する万魔殿、スピタルを、必ずや、我らのものにするのだ!!人間も、魔族も、一人残らず、殺してしまえ!!我が声は、この大陸を支配する、バーディネの頂点に君臨する、覇王の言葉と思え!!全軍、突撃ーーーーーーッ!!」
「「「ウオオオオオオーーーーーーッ!!」」」
オリガの号令に、大気が震えるほどの、エルフたちの咆哮が響き渡る。
そして、進軍を開始し、ものすごい勢いで、スピタルに向かっていく。
この先にある、小高い丘を越えて、まっすぐ進めば、スピタルの国は目の前だ。
各小隊の部隊長が指揮を執って、進んでいくうちに、丘が見えてきた。
「・・・?おい、何か、様子が変だぞ?」
「・・・え?」
「どうかされたのですか?」
「ああ、いや、その、あそこって、確か、スピタルに通じている丘のはずなんだけど、何て言うか、いつもとは違う雰囲気がするっていうかさ・・・」
その時、部隊長が妙な違和感を感じて、一旦、部隊を停止させた。
朝もやで、視界がよく見えないが、影の形で、いつもの丘の雰囲気と違うことが分かった。
そして、靄が晴れていくと、徐々に、丘が姿を見せ始めてきた。
「・・・はあああああああああっ!?な、何じゃ、あれはっ!?」
「ど、ど、どうして、あんなものが!?昨日までは、あんなもの、なかったのに!?」
目の前に起きている異常事態を目の当たりにして、部隊長が、冷静さを失って、思わず叫んだ。
「何事ですか!?」
渾沌が、先行していた部隊の進撃が止まったことに驚いて、部隊長が、見つめている先を見た瞬間、驚きのあまりに、渾沌も、思わず声を上げた。
「・・・ど、ど、どうなっているのですか、これはっ!?」
そして、エルフ軍の目の前に、靄が晴れて、彼らを動揺させたものの正体が、はっきりと飛び込んできた。
丘に設けられた通路には、無数の柵が敷かれていて、たいまつの炎が揺らめいていた。
そして、その上には・・・昨日までは、少ししか開けていない、草地があったはずの場所には、巨大な大木がそびえ立っていた。
その大木の形は、まるで、城塞のようにも思えた。
さらに、城壁のように横に並んだ、太い枝の上には、魔導大砲がいくつも並んでいて、いつでも、真下にいるエルフ軍に向かって砲撃出来るように、準備されていたのだ。
「・・・まさか、一晩で、大木の城を作り出すなんて・・・!!」
渾沌は、この時、レベッカたちを逃がしてしまったことを、激しく後悔した。
甘く見過ぎていたのだ。
いくら、かつては最凶最悪の傭兵団と呼ばれていた凄腕の戦士たちであろうと、自分は、邪眼一族の中でも選び抜かれた四凶の一人である驕りが、彼女の目を曇らせていた。
そして、梶斗真という、異世界人の実力を計算していなかったことが、大きな誤算となった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「おー、おー、敵さん、焦っているみたいだぜ?」
「そりゃそうだろうな。一晩で、丘の上に、いきなり城が立っていれば、誰でも驚くだろう」
「まあ、城といっても、崖の上に、生えていた木々を集めて、一本の巨大な大木を作り出しただけなんだけどね。崖は城壁の代わりに利用させてもらっただけ」
「しかしよくもまあ、思いつきましたわね~。”一夜城”だなんて」
双眼鏡で、慌てふためいているエルフ軍を見て、大アネキたちは、楽しそうに話していた。
僕が考えた作戦というのは、丘の上に、周りに生えている木々を集めて、巨大な大木を魔法で作り、その大木を城として利用して、エルフ軍を迎え撃つというのはどうかといったものだった。
これなら、元々生えている無数の木を利用すればいいだけだし、周りに生えている木の迷路が、曲輪の代わりをしてくれている。
大木の枝は、僕たちが全員乗っても、ビクともしない。
アレクシアさんが、植物と意志を通わせて、操る事が出来る能力で、丘の周りに生えていた木々を集めて、あっという間に、巨大な要塞のような大木へと作り変えてしまったのだ。
アレクシアさん一人だけでは大変だったため、ベリス姉さまが寄越してくれた、魔導師の人たちも手伝ってくれたおかげで、一晩のうちに、想像以上に堅牢な城塞が完成してしまったのだ。
「ビビ姉、エルフ軍が動き出すみたい。準備はいいかな?」
「・・・・・・任せて。トーマの頼みには、全力で、結果を出して、応えてみせよう。その代わり、上手くいったら、添い寝プリーズ。そのまま、子作りタイムに発展してもOK。子供は何人欲しい?」
すみません、ちょっと、何を言っているのか、理解できません。
「・・・今度、安眠できる枕や、お布団、全部、仕立ててあげますから」
「やる気全開!!トーマが作ったお布団!トーマが作った枕!トーマが作ったシーツ!それだけで、気持ちよすぎて、一生、眠っていられる!!」
「永眠しないでくださいね!?」
ふんすー、と鼻息を荒くして、ビビ姉が、仕掛けて置いたトラップを発動させるために、魔法陣が描かれた紙に魔力を通して、準備を整えていく。
「・・・やれやれ、団長だけでも大変なのに、このままじゃ、団長と、ビビちゃんの両手に花といったことになりそうだねぇ?」
「・・・ほどほどにしなさいよ?あと、避妊はちゃんとしなさい」
ヴィルヘルミーナさんと、グリゼルダさん、なんだか、さっきから様子がおかしいけど、どうかしたのかな?
まさか、大アネキとのことが、バレた・・・とか?
いや、それは、多分、ないだろう。
もしバレていたら、今頃、僕は墓の下にいることになっているかもしれないし。
とにかく、今は、目の前の戦いに集中しよう!
さてと、よくも、散々好き勝手、やってくれたな・・・?
和田さんたちの仇、これまで犠牲になってきた人たちの仇、しっかりとここで討ち果たしてやらぁっ!!泣いても、謝っても、もう、許さないからな!!
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「こ、こ、こんなもの、こけおどしですわ!!全員進め!!後退は許さん!!我がエルフ軍の悲願を果たすために、その命を散らせてもいいから、進むのだぁぁぁぁぁぁっ!!」
オリガが、目の前の異常事態に混乱して、怒鳴りつけるように指示を出す。
自分たちのことを、捨て駒程度の扱いでしか思っていない、オリガの物言いは、彼らに対して不信感と怒りを抱かせるだけの、悪手でしかない。しかし、そんなことにも気づかず、オリガは、一番後ろの安全な場所で、感情のままに、怒鳴りまくっているだけだ。
無能。
彼女に対する、全兵士の評価が、これに尽きる。
それでも、もう、こうなってしまったら、命令通りに、与えられた仕事をこなすしか、生き延びる道はない。
「す、進めぇぇぇっ!!」
命令通りに、丘に向かって、進撃を開始する。
丘の周りに設けておいた道を進んでいけば、三方向に分かれて、同時に進撃すれば、どっちを止めればいいか、相手も迷うことだろう。獣道など、エルフたちにとっては、何のこともないのだから。
毒の沼がある場所も、足を取られやすい木々が生い茂る場所も、すべて把握している。
ましてや、この森で生まれ育った自分たちが、後れを取ることなどない。
そう思っていた。
そして、先行していた兵士の足が・・・前触れもなく、沈んだ。
「へっ?-あぎゃあああああああああっ!?」
「おいどうしーあひゃああああああああっ!?」
ズボッ!!
ズボッ、ズボッ、ズボッ!!
小隊の隊員が、次々と、突然、悲鳴を上げて・・・消えた。
そして、その理由は、地面に空いている無数の穴が原因だった。
「・・・お、落とし穴、だと・・・?」
「おのれぇっ、コケにしおって!!」
兵士の一人が這い上がろうとした瞬間、どこからか、何かが落ちてくるような音と、影が、兵士の頭を捕らえた。
バーーーーーーンッ!!←(巨大なタライが、兵士の頭を直撃した音)
「・・・な・・・何・・・これ・・・?」
兜をつけているところに、予想していなかった一撃を食らい、兵士はそのまま、穴の中へと落ちて行った。よく見ると、穴に落ちた兵士たちが、穴から出ようとすると、どこからか、金タライやら、巨大な氷で作られたハンマーやら、拳骨の形をした氷の塊やらが落ちてきて、兵士の脳天を直撃していく。
どこに穴が空いているか分からない。
一度落ちたら、二段構えの攻撃がきて、確実に戦闘不能に追い込まれる。
それでも進もうとするが、次々と、落とし穴に落ちていき、兵士の数が減っていく。
「ギャアアアアアアアアアッ!?こ、この、穴の中、毒蛇がいっぱいいるぅぅぅっ!?」
「く、く、くっせぇぇぇっ!!穴の中に、牛糞や馬の糞が、いっぱい・・・!!臭くて、鼻が曲がるぅぅぅっ!!」
「い、い、嫌だぁぁぁっ!!ポイズントードが、こんなに、いっぱい!?助けてくれぇぇぇっ!!コイツらに触れたら、オレ、死んじまうーーーっ!!」
エルフ軍の兵士たちの絶叫が響き渡り、阿鼻叫喚の地獄となった。
そして、部隊長も、自分の足が、急に地についている感覚を失い、身体が、地面に飲み込まれていった。
「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」
穴の中には、どんな恐ろしい罠が仕掛けられているのか。
想像するだけでも恐ろしい。部隊長は恐怖のあまりに、涙を流して、絶叫した。
大木を城に仕立てて、斗真たちの反撃、ついに始まりました。
そして、落とし穴や罠を無数張り巡らせたゲリラ戦を展開して、オリガ達を追い詰めていきます!
斗真も、レベッカたちも、一切合切、容赦なしでやります。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
次回もよろしくお願いいたします。




