第十三話「桜の戦い③~さよなら、ありがとう~」
本日、二回目の投稿となります。
桜組、最後の戦いとなります。
スピタルの街につながる、城門が閉じられて、かけてあった橋が静かに上がっていく。
「・・・・・・トーマの話によると、もう、こっちに向かっているらしい」
「・・・しかし、聞けば聞くほどに、気分が悪くなる。クロスの勇者というのは、ろくでもないヤツばかりだな」
「・・・この気配は・・・お出ましになったようですわ」
アレクシアたちの前に、獣のように荒く呼吸をしながら、おぼつかない足取りで、フラフラと近づいてくる神谷麗音が現れた。
「・・・ハァーッ・・・ハァーッ・・・ウ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ーーーッ!!」
右半身が肥大化して、巨大な鉤爪を生やし、アンバランスになった身体を揺らして、麗音が雄たけびを上げた。もはや人間としての理性は、残っていなかった。
「・・・これが、エルフたちの人体実験を受けたものの、末路ですって・・・?」
「・・・やり切れないわね。アイリス、一気に、仕留めるわよ!」
アイリスたちが動き出そうとした時、麗音の前に、一人の人物が立ちはだかった。
それは・・・ボロボロになった、桜だった。
頭や身体中に包帯を巻きつけて、今にも倒れそうになりながらも、右手には、無数のひびが入った鉤爪を装着して、麗音の前に現れた。
「バカ!!お前は、大人しくしていろと、いったはずだ!!」
「どうして、アイツが、ここにいるのよ!?」
「・・・悪ィけど・・・コイツは・・・オレの・・・身内だ。身内のけじめは・・・オレが・・・つけなくちゃ、いけねぇだろ・・・!」
これ以上、無理をしたら、身体が持たない。
アレクシアが、治療を施して、絶対に安静にしていなくてはならないと判断するほどに、桜は重傷を負っていた。
それでも、必死で、重い身体を引きずって、桜は麗音の前にやってきた。
「・・・麗音、何、やってんだよ・・・!お前・・・エルフだか何だか知らねえけど・・・そんな実験なんかで・・・身体を弄られて・・・オレのことまで・・・忘れちまったのかよ・・・!」
麗音は、息も絶え絶えになって、呼び掛けてくる桜を見つめたまま、動かない。
「・・・お前が、これ以上、誰かを襲うっていうなら、オレが・・・お前を・・・止める・・・!」
「無理しないでください!貴方だって、このままじゃ、無事じゃ済まないですよ!?」
「・・・それでも、コイツらのリーダー、張ってンだからさ・・・。身内のけじめは・・・きっちりと・・・親がつけないで・・・どうするんだよ・・・!!よその他人に・・・コイツらの・・・生き死に・・・を・・・任せちまったら・・・親失格だろうがよ・・・!!」
桜は、麗音がこれ以上誰かを傷つける前に、命を投げ打ってでも、止めようとしていた。
「・・・仁美は・・・オレのせいで・・・死んだ・・・!オレが・・・コイツらから・・・一瞬でも・・・目を離さなければ・・・!!」
震える腕を上げて、身構えると、桜は鉤爪の刃を、麗音に向けて、つぶやいた。
「・・・許してくれ・・・麗音・・・!」
-・・・許シテ・・・クレ・・・桜・・・!-
「・・・え?」
一瞬だけ、麗音の表情が、人間の表情に戻ったかと思った刹那ー。
「ウ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ーーーッ!!」
鮮血が飛び散る。
桜の身体が吹き飛ばされて、地面を転がっていく。
赤黒い生命の源が飛び散り、桜は、左目があった場所を抑えて、うめき声を上げた。
「ぐぅ・・・!がぁぁぁぁぁ・・・!!」
そして、麗音が雄たけびを上げて、爪を払うと、べちゃりと音を立てて塊が飛び散る。
「アレクシア!」
「ええ、アイリス、グリちゃん、ビビちゃん、お願いしますわ!!」
アレクシアが慌てて桜を抱き上げて、掌をかざすと、緑色の光が優しく、桜の顔を包み込んだ。
(・・・左目が・・・完全に・・・!!)
桜の左目があった場所には、何もなかった。
「・・・アイツ、胸に、爪が突き刺さっている!?」
一方で、グリゼルダが、麗音の胸には、桜の鉤爪の折れた爪の一本が、深々と突き刺さっているのを見つけた。致命傷を負ったのか、麗音は、もはや腕を見境なく、大きく振るっているが、その動きが徐々に遅くなっていく。
「グリゼルダ、今だ!!」
「・・・御免!」
風を切る音。
グリゼルダの双剣の刃が、一閃、走る。
そして、麗音の胸から、暖かいものが迸る。
「・・・あ・・・り・・・が・・・と・・・う・・・」
そう言い残して、麗音は、その場に崩れ落ちた。
弱々しい呼吸をしているが、もう、麗音は助からない。
光を徐々に失いつつある瞳。
その瞳に、ぼやけて、まぶしく光る金色の光が見えた。
「・・・麗音・・・!」
「・・・さ・・・く・・・ら?」
「・・・本当に・・・すまねえ・・・!!」
左目を抑えて、桜は、麗音に向かって、涙を浮かべて、謝罪する。
「・・・お前・・・その・・・目・・・!」
「・・・片目が、残っている。・・・このぐらい、何てことねえよ・・・!・・・やっと・・・元のお前に・・・戻ったんだな。・・・よかった・・・!」
「・・・どうして・・・いつも・・・そんなに・・・自分のことは後回しに・・・するんだよ・・・!」
麗音の瞳に、涙が浮かび、嗚咽交じりで言葉を紡ぐ。
身体から、青色の光が、粒子になって噴き出し始める。
「・・・桜!」
そこへ、忍を背負った、斗真たちがやってきた。
忍も、身体から黄色の光の粒子が噴き出して、うっすらと透明になっていた・・・。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
急いで駆けつけたけど、一歩、遅かった・・・!
神谷さんは大量の出血をしていて、胸には、折れた爪が深く突き刺さっていた。
何とか、治療をしようとするが、神谷さんが拒否した。
二人を、近くの大岩にもたれるようにして、座らせる。
「・・・桜ちゃん・・・ごめんなさい・・・!あたしたち・・・桜ちゃんの・・・役に立ちたかった」
「・・・お前には・・・いつも・・・迷惑ばかり・・・かけて・・・しまって・・・いるな・・・」
「もういいよ、迷惑なんて一つもかけてない!だから、死ぬなよ。お前らがいなくなったら、オレ、本当に、一人ぼっちに・・・なっちまう・・・!!」
桜は左目を、応急手当て用の包帯を巻かれたまま、ボロボロと涙を流していた。
「・・・梶・・・本当に・・・済まなかった・・・」
「・・・神谷さん?」
「・・・桜が・・・お前を・・・追放したのは・・・私たちの・・・せいなんだ・・・」
「・・・あたしたちが・・・魔人に改造されて・・・セルマやアイザックに・・・いつでも・・・力を暴走させて・・・人を襲わせるって・・・脅されて・・・」
言うことを聞かなければ、人としての理性や記憶を奪い、凶暴な魔物として、人間を襲わせる。
そうなれば、和田さんたちは、魔物として、勇者や冒険者たちに狙われて、命を落とすことになる。
桜は、セルマや王族だけではなく、鳳たちからも、脅されていたのだ。
大陸の支配国の王族、世界最高位の王宮魔導師、そして、勇者に選ばれた4人から脅されて、桜は・・・彼らの命令に従うしかなかった。
「・・・それに・・・アイツらが・・・やろうとしていることは・・・それだけじゃなかった」
神谷さんが、懐から、スマホを取り出した。
矢守さんもそれを見て、ポケットから、スマホを取り出して、震える手で差し出してきた。
「・・・これは?」
「・・・あたしたち・・・クロスが何を企んでいるのか・・・気になって・・・色々と調べてみたの」
「・・・私たちには・・・何が何だか・・・分からなかったが・・・梶たちになら・・・何か・・・分かるかも・・・しれない・・・」
血まみれのスマホを、僕と桜の手の中に収めると、二人の腕が力なく、垂れ落ちた。
「・・・たまげるよ。クロスの王宮の中にある、立ち入り禁止になっている、封印の間に忍び込んで・・・セルマが書いた・・・記録の中身を・・・全部・・・写真に撮ったんだ・・・」
「・・・私たち・・・の・・・召喚についても、色々と、書かれていた・・・」
「・・・お前たち、そんな無茶なことをしやがって・・・!!」
桜が、神谷さんと、矢守さんの腕を握りしめた。
しかし、身体の限界を迎えて、彼女たちの身体がそれぞれ、青色の光と黄色の光に包まれた。
消えていく。
世界から、何ひとつ残さずに、泡となって・・・。
「・・・もう、桜ちゃんは、本当に・・・泣き虫なんだから・・・」
「・・・お前に・・・悪人など・・・向いていないな・・・。でも・・・そんな・・・お前だから・・・私たちは・・・一緒に・・・いて・・・楽しかったんだ」
「・・・麗音!・・・忍!!」
-・・・ひーちゃんも・・・レンちゃんも・・・かおりんも・・・ずっと・・・桜ちゃんの・・・ことを・・・見守って・・・いるから・・・ね・・・!-
-・・・いい人生だった。お前に会えて・・・お前の家族になれて・・・本当に・・・良かった・・・お前に会えて・・・本当に・・・よかった・・・!-
ー・・・ありがとう、ございました・・・!!ー
二人の声が重なったと思った瞬間、神谷さんと、矢守さんの姿が・・・完全になくなった。
神谷さんと、矢守さんが最後に、桜に渡した、青色の目を持つカメレオンのシルバーアクセサリーと、黄色の目を持つヤモリのシルバーアクセサリーが、まるで、彼女たちの涙であるかのように、月明かりを反射して、光っていた。
恨み言など、一言も言わなかった。
本当に、心から慕っていたから、最後に彼女たちは、笑っていた。
桜が、彼女たちを守るために、ずっと、戦っていたということが、本当だったのか・・・。
「・・・仁美・・・麗音・・・忍・・・!!・・・すまねぇ・・・助けてやれなくて・・・本当に・・・すまねぇ・・・!!すまねぇ・・・すまねぇ・・・すまねぇ・・・!!」
桜は、その場でうずくまって、彼女たちの形見のシルバーアクセサリーを握りしめて、ずっと、わびの言葉を繰り返していた。
「・・・う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーっ!!!」
壊れてしまうのではないかと、思ってしまうほどの、激しい慟哭。
僕は、そんな桜にかける言葉が、どうしても、思いつかなかった・・・。
仲間を失い、恋人から裏切られて、全てを失った桜の運命は・・・。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
次回もよろしくお願いいたします!




