第十二話「桜の戦い②~歪んだ正義~」
いつも、拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます!新作が書き上がりましたので、投稿します。どうぞよろしくお願いいたします。
「まだ、そんなに、遠くには、行ってないはずだ!」
僕は、ヒュドラが引きずっていった跡を追いかけて、森の奥に飛び込んだ。
「トーマ、魔力の匂いが濃くなってきた。この先に、いるぜ!」
「油断は禁物だよ、トーマ君!」
大アネキと、ヴィルヘルミーナさんが、僕についてきてくれた。
木の根っこに足を取られないよう、茂みをかき分けていくと、爽やかで甘い匂いと、さらさらと流れる水の音が聞こえてきた。
そして、茂みを抜けると、僕たちは、河原についた。
その時だった。
『ギャアアアアアアアアーーーッ!!!』
耳をつんざく、断末魔の声が飛び込んできた。
駆けつけると、そこには、ヒュドラの首が、地面に落ちていた。
黄色い瞳と表皮を持つ、ヤモリのような首が、黄色い光を放つと、矢守さんの姿に戻った。
そんな矢守さんに、近づいていく人物がいた。
「・・・ごめんね、矢守さん。でも、もうボロボロになっちゃったし、そろそろ楽にしてあげたほうが、いいかなって・・・」
そいつは、松本千鶴だった。
藍色の長槍を振り上げると、そのまま、無表情で、彼女は矢守さんの背中を・・・貫いた。
「・・・ぐっ・・・!!」
「・・・苦しいよね?痛いよね?でも、大丈夫。私が楽にしてあげる。だって、私は、英雄になるから」
その時、唯一青い首が残ったヒュドラが、怒り狂ったように、絶叫を上げて、千鶴に襲い掛かった。
「邪魔だよ。神谷さんは、もう少し、頑張って欲しいかな」
千鶴は、手から勢いよく水流を噴き出して、ヒュドラの巨体を吹き飛ばした。
ヒュドラの巨体が、宙を舞い、森の奥へと消えていった。
「・・・松本!!お前、何をしているんだ!?」
そして、僕の横を素早く通り抜けて、紫色の風が吹き抜けたかと思うと、ヴィルヘルミーナさんが矢守さんの身体を抱きかかえて、戻ってきた。
「・・・随分と、ひどいことをするものだね」
ヴィルヘルミーナさんが、千鶴を睨みつけて、冷たく吐き捨てた。
フェミニストである彼女でさえも、千鶴のやったことは、不愉快に思っているようだ。
「・・・私が英雄になるために、必要だと、思ったから」
「はぁ!?何が言いたいか、さっぱり分からねえぞ!?」
「貴方たちには、私の理想や信念なんて、分からなくていいよ。英雄というのは、孤独なものじゃないといけないから」
「・・・松本、一つだけ答えて」
僕は、湧き上がる怒りを必死で抑えて、質問する。
「・・・和田さんたちを、ヒュドラに改造したのは、お前たちなの・・・?」
「そうだよ」
あっさりと肯定した。
その瞬間、怒りで頭が真っ白になる。
和田さんたちを怪物に変えて、和田さんが命を落として、矢守さんまでが今にも死にそうになっている。
それだけのことをしておいて、彼女は、平然と答えた。
「・・・どうして・・・そんなことを・・・したんだ・・・!」
「・・・桜くんのために、役に立ちたいって、言っていたから。それなら、怪物にして、大勢の人間や魔物を救済するのに、手伝ってもらえば、いいかなって・・・」
「・・・救済、だって?」
「・・・うん、人間や魔物の戦いを終わらせるには、どうすればいいのかなって、ずっと思っていたんだけど・・・。私はね、こう思ったんだ。人間と魔物の戦いを終わらせるためには、人間も魔物も全て滅びてしまえばいいんじゃないかなって」
・・・・は?
ちょっと、待て。コイツは一体何を言っているんだ?
「・・・人間も魔物も、生きている限り、誰もが、罪を背負って、苦しみ続ける運命を強いられているんじゃないかなって。だから、お互いに分かり合えない。分かり合えないから、争い続ける。だから、戦いはいつまでも、終わらない・・・。その運命から、解放してあげることが、本当の救済なんじゃないかなって・・・」
「・・・つまり、それで、この子たちを魔物に変えて、人間を襲わせて、死なせてやることが、君にとっては救済だって、言いたいのかい?」
「・・・生きていたって、苦しいことや、辛いことでいっぱいだもん。長生きしても、ただ、苦しむだけなら、私が終わらせてあげようかなって。そのために、役に立ってくれるなら、和田さんたちも、本望かなって・・・」
ああ、もう、コイツ、ダメだ。
ある意味、これなら雁野の方がまだマシだ。
コイツは、さっきから平然と話している。それが当たり前であるかのように。
自分の思想に酔っているようなら、まだ、人間味を感じるのだが、彼女は、あくまで無表情のままで話し続けている。
人間としての感情や、心というものが、全く感じられないんだ・・・!
「お前、訳分からねえけど、ものすごく、腹が立ってきたぜ・・・!!テメエに、人様の人生をどうこう言われる筋合いなんざ、ねーんだよっ!!」
「もう無理だよ、団長。ここまで来たら、バカは死ななきゃ治らないってね」
「・・・世界は滅びたがっているんだよ。私は、そのお手伝いをするだけ。それが、英雄としての、使命だと思うから・・・」
「・・・そんな理由で、桜を、裏切ったっていうのか・・・!!」
「・・・桜くんには、悪いことをしたかもね。でも、私の理想の、英雄になってくれなかったから、仕方ないかなって・・・」
「ふざけるなっ!!」
僕と、大アネキ、ヴィルヘルミーナさんが一斉になって飛び出した。
大アネキの大剣、ヴィルヘルミーナさんの剣が、千鶴を挟み込むようにして斬りかかる。
僕は、千鶴の上空から、カットラスを振り上げて、彼女目掛けて、振り下ろした!
ぱしゃんっ!!
「え?」
「うわっ!」
彼女の身体が、透明になったかと思うと、水の塊になって爆ぜた。
僕たちは、バランスを崩しそうになって、何とか態勢を整える。
「・・・貴方たちに構っている時間はないかな。もっと、大勢の人たちや、魔物、エルフたちを、救済しなくちゃいけないから・・・」
後ろを振り返ると、遠く離れた場所に、千鶴は立っていた。
彼女は、青色のクジラのような姿をした魔獣『ケイトス』の能力を体現した、甲冑を全身に纏い、青色の刃を持つ長槍を手に持っていた。
あれが、千鶴の変身した姿か!
「はい、そうですかって、逃がすわけねーだろ!!」
大アネキが飛び出すと、千鶴が槍の刃を、川の方に向かって突き出した。
すると、川の水がまるで生き物のように、大きくうねりながら、巨大な触手のようになった。
そして、勢いよく、大アネキに向かって、突っ込んでいく!
「ゲッ!?」
「大アネキ!」
「ヤバいよ、レベッカ君、確か泳げなかったぞ!?」
水流に飲まれて、大アネキが必死になって抵抗するが、そのまま勢いよく、地面に叩きつけられた!
「・・・チックショウ!!この程度、どうってことねえ・・・て、もう、いねえ!?」
僕たちが大アネキに気を取られている間に、千鶴の姿は、どこにもいなかった。
「大丈夫かい!?」
「・・・ぺっぺっ、あー、チクショウ!!身体の炎が消えて、力が出ねえ・・・!」
「まさか、川の水を丸ごと操るとはね。相当の魔力の持ち主だね」
「ああ、魔法を使った戦いに特化したタイプって感じだな」
その時、僕は、千鶴が言っていた言葉を思い出した。
「・・・アイツは、もっと大勢の人たちを、救済しなくちゃいけないって、言っていたよね?」
「・・・さっきのヒュドラが、飛んでいった方向って・・・!」
「・・・街の方だよ!」
まさか、アイツ、ボロボロになった神谷さん・・・ヒュドラを使って、街の人たちを、襲わせるつもりなのか!?
そんなものが、救済!?
冗談じゃない!!
「急ごう!!」
「ああ、全員、戻るぞ!!」
ヴィルヘルミーナさんが、瀕死の矢守さんの身体に、薬草を調合した薬を塗りつけると、背中におぶさって、走り出した。
「大丈夫だよ、君の仲間は、ボクたちが必ず止めてみせる!」
「・・・桜・・・ちゃん・・・ひーちゃん・・・レン・・・ちゃん・・・」
許せない。
桜の信頼を裏切って、桜にとって大切な仲間をこんなに傷つけて・・・!!
僕の頭の中は、千鶴に対する怒りでいっぱいになり、怒りのあまりに頭がキーンとなっていくのを感じた。
アイツは、絶対に、許せない・・・!!
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「ハァッ・・・ハァッ・・・ハァッ・・・!!」
神谷麗音は、獣のように荒い息遣いで、森の中を、一心不乱に走っていた。
ヒュドラの姿から、元の人間の姿に戻った・・・いや、彼女の身体は、異形の身体に変わっていた。
右腕は、巨大な爪を三本生やして、ヌメヌメとした光沢のある、緑色の腕に変わってしまっている。
首には、無数の血管が太く浮かんでおり、顔の右半分は、黒いカメレオンのような顔に変わってしまっている。右目だけが爛々と輝き、ひたすら、獲物を追い求めて、せわしなく瞳孔が動き回っている。
欲しい。
お腹すいた。
喉が渇いた。
血が、肉が、欲しい。
ホシイホシイホシイホシイホシイホシイ・・・!!
「・・・さぁ・・・く・・・らぁ・・・助けて・・・グアアアアアアアアアッ!!」
一瞬、理性が戻ったかと思いきや、すぐに、本能に支配される。
森を抜けると、明かりが見えた。
暖かな光、多くの家が集まっている。
そして、そこからは、美味しそうな人間の匂いが、漂っていた。
「・・・アハァァァ・・・ガアアアアアアアアッ!!」
もう、彼女には理性や知性は残っていない。
彼女には、スピタルの街が、多く積み上げられたご馳走の山にしか見えなかった。
誰でもいい。
早く、肉を食べたい。
生き血を飲みたい。
彼女は、獣のような咆哮を上げて、森から飛び出した。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
もうすぐ、スピタルの街は、神谷さんによって、大騒ぎになるだろう。
これで、たくさんの人が、救済される。
何て、素晴らしいことだろう。
これが、勇者として、本当にやるべき正義なのだ。
魔王や悪人を、何人倒しても、それは、根本的な解決にはならない。
喧嘩両成敗。
どちらを滅ぼすのではなく、両方、滅びればいい。
滅亡こそが、最も美しく、平等な救済なのだから。
千鶴の信念「世界中から、争いをなくしたいなら、世界中の人間や魔族がいなくなれば、争いがなくなる」
彼女にとっては、魔物を退治することも、クラスメートを魔物に変えて、人を襲わせることも、正義だと思い込んでいます。人間としての情緒や常識がないため、雁野よりも危険な人間です。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!次回もよろしくお願いいたします!




