第十一話「桜の戦い①~一度その手を取ったのならば最後まで責任は取れ~」
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「・・・そんなことに、なっていたのですね」
「ああ、キジマっていう子から聞いた話と、ベアトリクス様から聞いた話、そして、団長が会った【渾沌】とかいうヴィネ家直属の部下の話をまとめると、この森にあるエルフと魔族が手を組んで、森一帯に霧を張って、森に入ってきた人たちを迷わせているってことだけは分かったわ」
「・・・まさか、魔族と手を組んで、悪企みをしようなどと思いつくなんて・・・」
「まあ、今のところでは、どういうつもりでそんなことをやっているのか、目的が何なのかまでは分からないけど、ものすごく嫌な予感がするわ。団長たちの記憶を、影で読み取っていたら、渾沌と誰かが話している話の中に【ハイドラの書】とかいう、禁書が出てきたからね」
「ハイドラの書、ですって!?グリちゃん、それは本当なんですか?」
「うん、間違いないよ。確か、四大禁書の一つだったよね?大昔に、セブンズヘブンの大陸で大暴れしていた、四体の邪神【土塊のネフティス】、【水脈のハイドラ】、【陽炎のクトゥグア】、【風塵のハスター】の魂と魔力を封じ込めていると言われている、歴史からも封印されたとされる伝説の魔導書のことよね?」
「・・・ええ、大昔に封印されたと聞いていましたが、一体、そのようなものを、どこから手に入れたのでしょうか」
アレクシアさんが首をひねる。
しかし、僕にはある一つの考えが思い浮かんだ。
「・・・もしかして、それ、古代図書館に封印されていた、魔導書だったりしませんか?」
「え?さあ、そこまでは分かりませんが、古代図書館ならば、古今東西の魔導書や禁書が封印されていますから、収められていても、おかしくはないのですが・・・」
「・・・それって、まさか、カグラの神官が、こっそり裏で横流ししていた、図書館の本の中に、その禁書が混じっていた、なんて言わないわよね?」
「・・・厳重に封印されていたはずの魔導書が、世界中に流れて、まだ行方が分からない本もあるんでしょう?」
そう、もしかしたら、その可能性もあるのだ。
何せ、カグラの神官や文官というのが、図書館に勤務しているくせに、魔導書や禁書の価値や危険性というものに、全くと言っていいほど無知だったのだから。
そもそも、魔導書や禁書を、どこの誰が手に入れるか分からない、闇オークションなんかに出品して、荒稼ぎをするような連中だ。邪眼一族とか、世界征服を企んでいる魔族やどこぞのバカの手に渡ったら、どうするつもりだったのだろうか。
とにかく、そのうちの一冊が、この森に住んでいる、エルフたちの手に渡っているということだけは、確かのようだ。
その時だった。
「ひぃ、ひぃ、こ、こっちか!?」
「ああ、間違いねえ!この道をまっすぐ行けば、村に着く!」
行商人らしき、大きな荷物を持っている二人の中年の男性が、青い顔をして森の奥から出てきた。
「あ、あの、すみません!何かあったんですか?」
「お、おお!お嬢さんたち、今すぐに、この森を出るんだ!この先の河原で、見たことのない怪物が出たんだ!」
「勇者様が、俺たちを逃がしてくれたんだ!今、たった一人で、3つの首を持つ巨大な蛇の化け物と、戦っているんだ!俺たちは、村のギルドに、応援を頼んでくる!」
三つの首を持つ巨大な蛇の化け物・・・ヒュドラのことか!
そして、そのヒュドラと戦っている勇者って、まさか・・・!
「急ぎましょう!!」
「・・・このまま、放っておくわけにもいかないわね。ルシア、こいつらの説教とお仕置きは、一旦置いといてもらってもいい?」
「・・・仕方がありませんわね~。それでは団長と、皆さま?もし、この騒ぎをひと段落させることに成功したら、お仕置きは・・・始末書と反省文を100枚書くことと、トーマちゃんに対するセクハラ禁止令で許して差し上げますわ♥」
「それは、私に死ねと言っているのと同じだろうが!?」
「嫌だぁぁぁっ!トーマ君の唇、トーマ君の平たいお胸、トーマ君のスベスベとした肌、揉み応え抜群の丸いお尻、うなじ、ふくらはぎを愛でられないなんて、嫌だい、嫌だい!ノーエロ、ノーライフ!」
「・・・・・・鬼、悪魔、ヤマンバ、死神、巨乳」
最後の巨乳って、悪口なのだろうか。
つーか、皆さん。
それって、僕の尊厳とかまるっきし無視しまくっていますよね?
「・・・セクハラでなくて、接近禁止令にしても、よろしいのですよ?」
「「「「すみません、ごめんなさい、それだけはマジで勘弁してください」」」」
大アネキたちが一斉に土下座をして、必死になって許しを乞いている。
とにかく、この事件が終わったら、この人たちには、僕からも説教をした方がよさそうだ。
「それじゃ、行くわよ!」
グリゼルダさんの一声で、僕とアレクシアさんが、森の奥に向かって走り出した。
「・・・いででで!あ、あ、足が、しびれて・・・!」
「・・・た、立てない。ちょっと、タンマ・・・」
もう放っておこう。僕に対するセクハラの罰だい。
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【三人称視点】
「はぁっ・・・!はぁっ・・・!」
桜は、満身創痍の状態で、ふらふらと立ち上がった。
全身に纏っている甲冑にはもはや無数のひびが入っており、所々が欠けて、ボロボロになっていた。
兜の頬を覆っている部分が砕けて、顔の右半分が、露わになってしまっている。
両手に装備している鉤爪は、もう何本か折れてしまっている。
『ギシャアアア・・・ッ!!』
対して、ヒュドラもかなりのダメージを負っていた。
赤いワニのような頭部の右目が閉ざされて、固い鱗が何枚かそぎ落とされて、赤い肉の繊維が露出している。青色のカメレオンの頭部は、頭部がへこんでおり、首には無数の傷がついてた。
一番重傷なのは、黄色のヤモリの頭部を持つ首は、打撃と斬撃を受けてボロボロになっており、呼吸も弱々しくなっている。無数の傷口から、紫色の毒液と混じり合った黒い血液が流れて、地面に溜まっている。
「・・・お前らは、オレが絶対に止めてやる。それが、リーダーとしての、けじめだからな・・・!」
ギリリ、と歯を食いしばって、もはや限界を迎えそうになっている身体を奮い立たせて、魔力を爪に集中させていく。
血管が膨れ上がり、視界がチカチカしていく。
呼吸もまともに出来なくなり、酸素が脳に上手く届かない。
身体中に刻まれた、打撲や切り傷の痛みで、気を失いそうになるのを必死でこらえる。
「お前たちを、よそのヤツに・・・化け物として、倒させるわけには、いかねぇんだよぉぉぉっ!!」
地面を勢いよく蹴り飛ばす。
思い切り爪を振りかぶり、ヒュドラの心臓部に向かって、狙いを定める。
金色に光る風を集めて、螺旋を描き、まるでドリルのようにヒュドラの心臓部に突き刺さった。
肉を裂き、骨を砕き、臓物を破壊する、嵐の一撃を受けて、ヒュドラが、大きな口を開いて、森一帯に響き渡るような絶叫を上げた。
「・・・お前ら・・・すまねぇ・・・!!」
荒れ狂う竜巻の中に飛び込み、桜の爪がヒュドラの心臓に突き立てられて、そのまま高速で回転する。
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアーーーッ!!』
ヒュドラが狂ったように暴れ出して、黄色の首と青色の首が、桜の身体を思い切り吹き飛ばした。
しかし、赤色の首が、限界を迎えた。
黄色の首をかばって、超硬質のうろこで覆われた首を突き出して、とっさにかばったのだ。
「・・・仁美・・・!」
赤色の首がちぎれて、地面に落ちた。
そして、青色の首が口を大きく開いて、紫色の猛毒のガスを吐き出した。
とっさに桜が、猛毒の霧をかわした。
「・・・くそっ・・・逃がすかよ!」
霧を振り払うと、もうそこには、ヒュドラの姿はなかった。
重い身体を必死で引きずって、奥に逃げて行った跡が地面に刻まれていた。
「・・・くそっ・・・!!」
桜が変身を解除すると、身体がついに限界を迎えた。
身体から、力が抜けていく。
地面に膝をついて、立ち上がろうとしても、力が出ない。
呼吸も上手くできず、視界がぼやけていく。
そんな彼の視界に、映ったのは・・・。
「・・・仁美・・・!!」
赤色の首が一瞬赤く光ると、そこには、ボロボロになった、和田仁美が横たわっていた。
目を閉じて、意識を失っているようだ。
そして、彼女の身体からは、赤い光の粒子が、ゆっくりと溶けていくように、出ていた。
身体にひびが入っていく。
それは、彼女の【崩壊】を意味していた。
身体が粒子となって、この世界から、姿さえ残さずに消滅していく・・・。
「・・・仁美・・・!!」
「・・・リーダー?」
桜が身体を引きずるように、仁美に近づいていく。
「・・・リーダー・・・すみません・・・オレ・・・また・・・ドジこいちゃって・・・」
「・・・もういいよ。しゃべるな、今すぐに、助けてやるから!!」
今にも消えてしまいそうな仁美に、桜が必死で叫ぶように呼び掛ける。
その時だった。
「・・・・・・梶?」
仁美が、桜の後ろに視線を送って、驚いたように口をぽかんと開いてつぶやいた。
桜が振り返ると、そこには・・・。
「・・・斗真?」
「・・・幕ノ内」
梶斗真の姿があった。
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(斗真視点)
一体、何がどうなっているんだ!?
慌てて駆けつけてみると、そこには桜が、ボロボロになった和田さんを抱き上げていた。
和田さんの身体からは、赤色の光の粒子が噴き出して、身体が今にも透明になって、消えてしまいそうになっていた。
「・・・梶・・・よかったぁ・・・生きていたんだな・・・」
「・・・和田さん!!」
僕が駆け寄ると、和田さんは、安心したように微笑んだ。
「・・・梶・・・済まねぇ。オレたちの・・・せいなんだ。オレたちのせいで・・・リーダーは・・・お前に・・・あんなことを・・・」
「・・・仁美、もういい。もう、それ以上、何も言うな!」
「・・・そうはいかねえよ。・・・オレたちを、人間に戻すために、ずっと、セルマに命令されて・・・オレたちを、助ける方法を、ずっと、探してくれていたんじゃねえか・・・」
え・・・?
「・・・で、でも、もう、オレ・・・ダメみたいだ」
そういって、震える手で、首につけていた、赤色のワニのシルバーアクセサリーを外すと、強く握りしめて、桜に差し出した。
「・・・・・・リーダー・・・・・・ごめんなさい。・・・親に・・・捨てられて・・・居場所のなかった・・・オレたちを・・・家族って言ってくれて・・・学校にも行かせて・・・もらって・・・何も・・・恩返しが・・・出来て・・・ないのに・・・こんな・・・ことに・・・なっちまって・・・!」
「ふざけんなよ、消えるんじゃねえよ!オレがお前たちを、元の人間に戻してやるって、言っただろうがよ!!死ぬな!!お前がいなかったら、誰が、オレと麗音の喧嘩の仲裁をしてくれんだよ!!誰が・・・ここ一番の時に・・・気合いを入れてくれるんだよ・・・!!死ぬな・・・仁美・・・!!」
「・・・アハハハ・・・だから・・・心配だなぁ。・・・”桜”は、オレたちのリーダーなのに・・・オレたちがいなけりゃ・・・何もできないんだから。・・・でも・・・きっと・・・もう・・・大丈夫・・・」
そう言って、和田さんは僕に真剣な表情で見つめてきた。
「・・・梶・・・お願いだ。・・・桜を・・・許して・・・」
「・・・和田さん」
「・・・オレたちのせいなんだよ。・・・オレたちが・・・ドジ踏まなければ・・・桜は・・・お前を・・・追放したりなんて・・・しなかったんだ・・・そんなことが・・・出来る人・・・じゃ・・・ないんだ・・・!」
限界を迎えた。
粒子の量が大きく噴き出して、和田さんの身体が、さらさらと灰になって崩れ落ちていく。
「仁美・・・!!」
「・・・桜・・・こんな・・・オレ・・・たちを・・・ずっと・・・面倒・・・みてくれて・・・・・・」
-本当に・・・ありがとう・・・ございました・・・!-
和田さんが大粒の涙を流して、優しく微笑みながら・・・。
彼女は、桜に抱かれて・・・。
消滅した・・・。
赤く光る粒子が、天に昇っていき、やがて見えなくなった。
「・・・仁美・・・?」
桜はさっきまで、和田さんを抱きしめていた腕を見て、呆然とつぶやいた。
まだ、温もりが残っている。
さっきまで、そこにいたのに。
和田さんの姿は、もうどこにも、なかった・・・。
「・・・仁美・・・仁美・・・!!・・・う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーっ!!!」
桜が狂ったように叫び、和田さんを抱いていた腕で自分を抱きしめるようにして、喉が裂けるような、悲痛な慟哭を上げた。
灰となった彼女の亡骸をかき集めて、胸に仕舞い込んで、うずくまったまま・・・。
桜は、涙を流して、ずっと叫び続けていた・・・。
大事な仲間を失い、悲しみと絶望のどん底に叩き落された桜。
しかし、彼の悲劇は、まだ、終わらない・・・。
残り二人も、他の誰かを襲う前に、自分の手で決着をつけるために戦います。
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