第三話「異変~桜side①~」
今回から幕ノ内桜視点の話も書いていきます。
どうぞよろしくお願いいたします!
おかしい。
3日前から仁美、忍、麗音と連絡が取れなくなった。
メッセージアプリで送っても、既読がついていない。
こんなこと、今までに一度もなかったのに。
千鶴とも連絡が取れなくなった。
オレが雁野との戦いで負傷し、傷の手当てをしている間に何かあったのだろうか?
そういえば最近、セルマと千鶴が二人で何やら話し込んでいるところを目撃したと忍から話を聞いた。
千鶴は【青の水騎士】のリーダーだから、勇者たちの管理を任されているセルマと魔王軍の対策について話し込んでいたと言っていたけど、セルマが自分から千鶴を呼びつけて二人きりで話がしたいと言い出したことにはオレは疑問を感じていた。
そもそも、オレはこのクロス王国における人間の全てを一切合切信用などしていない。
魔王軍を討伐し、世界に平和を取り戻せば元の世界に帰してやると言っていた約束でさえ、アイツらが守るとは到底思えない。魔王軍を討伐したとしても、おそらくあれこれと理由をつけては、クロス王国にとって都合の悪い存在を排除する暗殺者として利用するつもりだ。
だって、勇者って結局は国のパシリであり、魔王を殺すためだけに差し向けられた暗殺者みたいなものだ。
世界の平和?無償で犠牲を省みずに笑顔で弱者を救う正義の味方?
そんなもん、この世のどこにもいるわけねーだろ。
むしろ、そんなもんいたら、そいつは確実に頭がイカレている。
対価を支払うために働き、その働きに見合った見返りを求めるからこそ対等な関係を保つことが出来るんだ。そんなものをまともに信じていられるのは、せいぜい5歳までだ。
ちなみにオレは5歳で、この世にはアニメや漫画に出てくるような正義の味方なんてこの世にはいないということを理解していた。5歳の子供にしては、かなり冷めた考えを持っていることだろう。
でも、そんなものなんてこの世のどこにもいないから、オレの母親はオレの目の前で死んだ。
うちの組と敵対していた他所の組との間で起きた抗争に巻き込まれて、あの人はオレをかばってチンピラに背中を撃たれた。オレが5歳の誕生日を迎えた日のことだ。最後まで自分のことを省みずに、オレのことを気遣って、優しく宥めながら息を引き取った。
本当にもしこの世に神様とか、正義の味方とかがいるのだとしたら。
どうしてあの時、母さんを助けないでオレのようなクズを生かしておいたんだ?
仲間を守りたいなんて綺麗ごとを抜かして、クラスメートの一人を殺そうとするようなクズなんかに成長するぐらいなら、オレがあの時死んでいれば、あの人はもしかしたら助かっていたのかもしれない。
「桜様?」
「・・・えっ?あ、ああ、ごめん。ちょっと考え事をしていた」
オレは現在、セルマから頼まれた【緑の大陸バーディネ】にある【シャルトリューズの森】に住むエルフたちからの魔王軍討伐に向けての同盟を結ぶために、ある一つの依頼を引き受けている。
『シャルトリューズの森で魔力によって作り出された濃霧が発生して、旅人や木工師、園芸師が行方不明になっています。あの森はエルフの加護を受けていてこれまでにそんなことは一度もなかったので、濃霧を発生させている原因を突き止めて、濃霧によるこれ以上の被害を食い止めるよう完全に消滅させてください。そしてこの騒ぎには、四凶と呼ばれる魔界でも悪名の高い強力な力を持つ魔族の一人が関わっているかもしれないという報告がありました。もしこの騒ぎを起こしているのが四凶の一人であるなら、必ずや討伐するのです』
四凶ね・・・。
わざわざそういう風に言ってくるってことは、おそらくは魔王軍とは別の組織の連中のことだろう。
そこで、オレは【冥界の猟犬】のメンバーたちに頼んで、現在【シャルトリューズの森】で起きている騒ぎについて出来る限りの情報を集めてもらっていた。
「シャルトリューズの森で発生している霧はどうやら方向感覚を失わせるだけではなく、強烈な幻覚を見せる効果のある霧でした。今はスピタル付近の東のエリアにとどまっていますが、霧の勢いが徐々に強くなっていて、このままではあと10日もすれば森全体が霧に覆われてしまう可能性が高いです」
フォグライトさんは魔法関係の知識に詳しく、霧に飲まれないように外から霧の性質を分析してここまで調べ上げてくれた。そして、この霧を発生させているのが四凶の一人ならば、水属性の魔法を自在に操る【激流の渾沌】と呼ばれる魔族である可能性が高いというところまで分かった。
「渾沌を含む四凶は、ヴィネ家に仕えている魔族です。もし今度の事件の犯人が本当に四凶が関わっているのならば、ヴィネ家が地上界に乗り込んできたということになります」
「魔王軍とは別の組織が動いているってことか」
魔王軍や、斗真たち【彩虹の戦乙女】だけでも厄介だっていうのに、これ以上場をかき乱す勢力が増えるって言うのはさすがにヤバいよな・・・。
「・・・それとこれはさっきクロス王国で入手した情報なんですけど、どうやら【黄の風騎士】と【青の水騎士】は先発隊として、すでにシャルトリューズの森に向かったみたいよ」
「はあ?ちょ、ちょっと待て。それって本当か?リーダーのあたしには何の連絡もなかったんだけど?」
そんなこと、普通あり得ないだろう。
けがの治療をしていたとはいえ、面会謝絶になっていたわけではないのだから。
「セルマ様がシャルトリューズの森で起きている霧の調査と、事件に関する情報収集ということで青の水騎士のリーダーのチヅルと一緒に向かわせたそうです。ですが、本当に何も連絡がなかったのですか?」
あり得ない。
セルマは今確か国王と一緒に、ハニーベルに謝罪に向かっているところだ。
多忙のあまりに、リーダーであるオレに千鶴の引率で仁美たちを連れていったことを伝えるのを忘れたのか?いや、アイツの性格上ではそういったミスはないだろう。それならなぜオレに命令をしたとき、千鶴たちに先に向かわせたという連絡をしなかった?どうして、千鶴たちと連絡が取れなくなったんだ?
もしかすると、シャルトリューズの森で何かあったのか?
オレははやる気持ちを抑えて、フォグライトさんたちから話を聞き終えると、とにかくまずはバーディネに向かわなくてはならないと思い、ギルドを出て行こうとした。
しかし、その時オレにはフォグライトさんたちの顔色が妙に優れないことに気づいた。
彼女たちの表情というか、空気がいつもと違っていたのは確かエルフたちと同盟を結ぶという話をしてからだったな。フォグライトさんたちは【ダークエルフ】で、エルフ族とは対立している種族であることは知っていたけど、どうやらそれだけではなさそうだ。何て言うか、彼女たちは平静を保っているように見えたが、その瞳には困惑、怒り、そして底知れない憎悪の炎が燃え上がっているように見えた。
普通ならわからないかもしれない。
でも、オレには分かる。
極道の息子として育てられて、表面上では人のよさそうな顔をして、その裏では相手をどう嵌めようか、陥れることに相手の動きの一つ一つを注意深く観察して一瞬のスキを見逃さないハイエナのような連中を見て育ってきているからな。
笑顔には騙されるな。
優しい言葉には耳を傾けるな。
その裏を常に伺い、さらにその裏をかけるように神経を研ぎ澄ませ。
本当に信じられるもの以外は、全てどうでもいいと割り切れ。
そうして他人を信じずに10数年間も生きていれば、人の表と裏に嫌でも気づくようになる。
オレは出ていく途中で、何かを話したそうにしていたカーミラを呼びつけて、こっそり店の陰に呼んだ。
「どうかしたの?カーミラちゃん、あたしに何か話したいことがあったんじゃないの?」
「・・・でも、私が勝手にこういうことを言ったらだめだと思って」
「それは、クロス王国や他の人に迷惑がかかるかもしれないから?大丈夫だよ、今から君のいうことは、全部あたしの胸の中にとどめておくから。君が何かを言ったってことは、皆には内緒にしてあげる」
オレがそう言って安心するようにお菓子を渡して優しく話しかけると、カーミラは誰も聞いていないか辺りを見回してから、小さな声でぽつりぽつりと話し始めた。
「・・・あのね・・・」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「・・・ええ、こちらは予定通り、順調に進んでいます。はい、あとはこれで桜くんがバーディネにやってくれば、あとは彼らが計画通りにやってくれるでしょう。引き続き、何かありましたらセルマ様に連絡を取ります」
『お任せしますよ、チヅル。エルフたちとの同盟が上手く結ぶことが出来ればクロス王国にとっても今後の国の命運を左右すると言っても過言ではないのですから。エルフたちとの条件を出来る限り飲んで、クロス王国と同盟を結ばせるのです』
「かしこまりました」
『・・・サクラは確かに優秀な頭脳を持っていました。しかし、彼女はあまりにも頭がよすぎる。私たちの思惑やクロス王国の計画に感づいたかもしれません。金づるとして生かしておこうかとも思いましたが、獅子身中の虫は早めに潰しておいたほうがいいでしょう』
「・・・そうですね。桜くんは私の理想の英雄になってくれる人ではなかった。仲間の為に命を懸けて守ろうとする、頭が良くて戦闘が強くて誰からも慕われる勇者ではありますけど、私が理想としている英雄になるには彼は・・・優し過ぎます。真の英雄なら、たとえ仲間を犠牲にしても世界の平和を守るために戦う、強靭な意志と信念を持っている孤独な存在でないといけないから・・・」
世界を守るためなら、家族や友人、恋人であろうと平気で切り捨てられる非情さを持つ、誰からも理解されることのない孤独な存在でなくてはならない。
自分の理想である勇者のイメージから大きくかけ離れてしまった桜は、もう千鶴にとっては不要な存在・・・それどころか邪魔な存在になっていた。
「和田さんたちを犠牲にするぐらいの事が出来ない人には、勇者はやってほしくないかなって。勇者になる資格のない人間は、私が倒さなくちゃいけないかなって思うんですよ。それに、桜くんはいずれ私の手で、最初から倒すつもりでしたし・・・」
千鶴はあくまでも普段と変わらない穏やかな声で、感情を読み取らせない不気味な雰囲気のまま離しを続ける。セルマも、彼女のトーンが普段話をする時と全く変わっていないことに得体のしれない気持ちが湧き上がった。
(気持ち悪い)
『・・・どうしてそう思いますの?桜は貴方の恋人だったのではないのですか?』
「大事な人だからですよ。今でも、これからもずっと桜くんは私にとっては大事な人です。だから、そんな大事な人を自分の手で殺せば、もう失うものなんて何もない。つまり、私が最強の勇者になるためには、桜くんには悪いけど・・・死んでもらうしかないかなって。まあ、これが正しいかどうかは分かりませんけど・・・とりあえず殺した後で考えてみればいいかなって」
『・・・そろそろ仕事に入りますので、一旦連絡を切ります』
そういって、セルマは通信を切った。
もうこれ以上、彼女の話を聞いていると頭がおかしくなっていくような気がしたからだ。
(チヅルは危険だ。おそらく、ミヅキよりも遥かに狂っていて、そして、理解できない)
そんな彼女が自分に忠誠を誓い、共に行動をしてくれていることは彼女は自分を裏切ることはないと思っていたが、彼女の得体のしれない狂気にセルマは何百年かぶりに湧き上がる恐怖に身体を震わせていた。
しかし、もう動き出してしまった以上、これ以上の失敗は許されないのだ。
今は千鶴の言葉を信用して、彼女の働きに期待するしかない。
(私の願いにもうすぐ手が届くというのです。絶対に、失敗は許されません。そうです、最後に笑うのはこの魔の勇者セルマなのですから!クロス王国も、あの忌まわしい【七人の獣騎士】も、【邪眼一族】も、私の野望の踏み台に過ぎないのですから!誰にも邪魔はさせるものですか!!)
しかし彼女はこの判断が、クロス王国滅亡の引き金となってしまったことにはまだ気づいていない。
【彩虹の戦乙女】だけではなく、【邪眼一族】の怒りに触れてしまい、さらにはこの時点で千鶴を切り捨てなかったことがクロス王国にとって地獄への片道切符を手に入れてしまうことになろうとは夢にも思っていなかった。
クロス王国の破滅のカウントダウンが、始まった。
今回のまとめ(ネタバレ含む)
1:桜の実家は関東でも名が知られている老舗の指定暴力団【龍桜会】で、【龍造寺組】の組長の義理の息子(妾に産ませた子供で、幕ノ内は母親の姓)。女装が好きなのは、実家で「男らしくしろ」「家の恥になるようなことはするな」と言われ続けていることと、世間体を気にして引き取ったが親としての愛情を向けてもらったことがないため、父や義理の家族に対する反発心から女装をするようになった。金稼ぎが得意なのは極道の世界で食っていくためには金を稼ぐ方法が必要不可欠であることを知り、必死で勉強をしたから。
千鶴、やっぱりまともではなかった。
これで勇者の中でまともなのは・・・ある意味桜だけだったのかもしれません。
次回は斗真視点の話に戻ります!




