第二十二話「古代図書館の戦い⑥~永久凍土の獣王・アイスキマイラ~」
いつも拙作を読んでいただき、ありがとうございます!!
新年最初の投稿となります。どうぞよろしくお願いいたします。
「このデカブツ、なかなかやるじゃねえか・・・!300年のブランクのリハビリにはちょうどいいかもな!」
「油断するなよ。その油断が命取りになるからな」
「しかしまあ、身体は固いねえ!固くて太くて大きくて精力があるとくればなかなか立派じゃないか」
「お前はこういう時にもよくそういったことが言えるな」
アイスキマイラも毒蛇の頭部が潰されて、山羊と竜の角がへし折れて重傷を負っているが、ライオンの身体は艶やかな毛並みに覆われて傷一つついていない。アイスキマイラの口から青白い炎があふれ出して、大きく口を広げて吐き出す。
青白い火炎に見えるのは、極寒の冷気を極限まで凝縮させて生み出された”冷気の炎”であり、触れただけで一瞬で全身が凍り付き、細胞が死滅して、痛みを感じることなく身体が消滅していくという恐ろしいものであった。
「お前ら、ビビるんじゃねえぞ!ここが正念場だ、気合入れやがれ!!」
「・・・ふっ、そうだな。トーマにこんな情けない姿を見せるわけにはいかないからな」
「この程度の相手に負けているようでは、最凶最悪の名を返上しなくてはならないからねえ」
レベッカ、アイリス、そしてヴィルヘルミーナが武器を構えてアイスキマイラと向き合った時。
「だぁぁぁっしゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」:
レベッカとアイリスの間をすり抜けて、威勢のいい掛け声とともに飛び出した影がクルクルと回転しながらアイスキマイラの脳天目掛けて渾身のかかと落としを放った!!
ゴシャアアアッ!!
アイスキマイラの頭部がへこむほどの強烈なかかと落としを食らい、目が白目をむいて、ヨロヨロとよろめくとバランスが保てなくなり、前脚を投げ出してアイスキマイラが倒れこんだ。
「・・・えええっ!?」
「う、嘘だろっ!?」
「私たちの神器でさえも歯が立たなかった相手を、蹴り一発で気絶させただと!?」
そして、アイスキマイラの頭部にかかとをめり込ませていた人物は地面に降り立って、ゆっくりとレベッカたちに向き直った。
「・・・お待たせしました!【彩虹の戦乙女】の梶斗真!無事合流しました!!」
「トーマァァァーーーッ!!」
「ひゅう・・・!可愛いだけじゃなくって、やる時にはやるじゃないか」
「それでこそ私の弟だ!愛しているぞ、トーマァァァァァァッ!!」
「オレの弟分だろうがぁぁぁっ!?」
アイスキマイラにも臆することなく、渾身の蹴りをお見舞いさせた艶やかな黒髪を持つ美しき猛者が、レベッカたちの元に駆けつけてきた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
無事間に合った・・・!!
とりあえず、レベッカさんたちが危なさそうだったからまずは頭蓋骨を砕くつもりで全力のかかと落としを放っておいたほうがいいかと思ってやっちまったけど、これで終わったとは思えない。アイスキマイラが目をグルグルと回しているが、いつ意識を取り戻すか分からない。
この透き通るような美しい毛並みでダメージを半減させてしまっているんだ。
レベッカさんの炎の大剣や、アイリスお姉ちゃんの電撃にヴィルヘルミーナさんの斬撃さえもつるつるとした光沢のある毛並みで滑るように弾いてしまうとは・・・なかなかのものだ。
しかし、魔法裁縫師である僕なら、この「艶々としていて、摩擦を極限まで軽減させることが出来る毛並み」を使えば、もしかすればすごい防具や衣類を作れるかもしれない・・・!!
今後の冒険や戦いに備えて、レベッカさんたちの防具を強化するためにもこの素材は放っておけない。
「アイスキマイラさん、その体毛・・・いただきます!!」
僕が左手をアイスキマイラの身体に触れて、右手に現れた糸車を回転させるとアイスキマイラの毛並みが糸になって糸車に紡がれていく!よかった、レギオンの時には魔力で出来た身体の一部を布に変える事が出来たから、多分できるかなぐらいにしか考えていなかったけど、何とかできるみたいだ!
クルクルクルクルクルクル・・・!!
体毛がどんどん糸に代わって大きな糸の塊がいくつも出来上がっていく。
いつ起き上がってくるか分からないから、急がないと!!
「あ、あ、アイスキマイラの体毛を糸にしちまってやがるーーーっ!?」
「・・・あ、あのさ、過去に魔獣の体毛を糸に変えて根こそぎ奪うなんて偉業をやってのけたヤツなんて、聞いたことある?」
「・・・私は少なくとも聞いたことはないな。相変わらず規格外というか、ムチャクチャというか・・・。私も目の前の状況がどんなことになっているのか、さっぱり分からない」
「・・・ていうか、あの子、アイスキマイラに触れて作業をしているよね?怖いとか、そういった感情はないのかい?」
「んー、でも、アイツこの間レギオンの身体に直接触れて身体の一部を布に仕立ててすげえアイテムを作ったことがあるからな。トーマだったらやってのけちまうのかもしれねえな。目の前にデカい竜がいようと、化け物がいようと、アイツは恐れることなくあくまでも自分の仕事を最後まできっちりこなすことしか考えてないんじゃねえかな・・・」
「・・・ふーん、これはひょっとしたら、とんでもない才能を持つ逸材を見つけてしまったかもしれないねえ」
その時だった。
アイスキマイラの身体から何やら黒い靄のようなものが噴き出てきた。何だろう、見ていると睨まれている感じがするというか、冷たくて嫌な感じがする。
「おい、あれってもしかして邪気じゃねえか!?」
「ああ、間違いない。何者かがキマイラに呪術を施して精神を凶暴化させていたのか!?トーマ、そこから逃げろ!!それは邪気と言って、強力な魔力を持つ原因不明の代物で魔物やモンスターの理性を奪い、凶暴化させる魔力のオーラだ!!それに触れたら、普通の人間だったら正気を失ってしまう!!」
まあ、いいや。
とりあえず、邪魔だから払っちゃおう!
「てい」
ペシッ!!←邪気とか言う靄を手で払った音。
シュウウウウウウ・・・←靄が消滅していく音。
「あ、なんだ、簡単に消えるんじゃん」
「「「ハイイイイイイーーーーーーーーーッ!?邪気を簡単に消し去ったぁぁぁっ!?」」」
なぜだろう、レベッカさんたちが僕の後ろで何か分からないけど目ん玉が飛び出しそうになるほど驚いているような大声を上げているけど、何かあったのかな?まあ、あともう少しで体毛を全て糸に変える事が出来るから、あとで聞けばいいか。
「え、え、S級ランクで大陸の支配者とも呼ばれるほどの魔物を操るほどの強力な邪気だぞ!?それをあっさりと手で払うだけで消えるなんて、そんな高度な術、よほどの魔法能力者でない限り無理だぞ!?」
「ああ、実力だけで言えばセルマよりも強い魔力を持っているよ、トーマ君は!!」
「・・・すっげええええええーーーーーーっ!!さっすが、オレ様の弟分!!何だか分からねえけど、とにかくすげえーーーっ!!」
「よしっ、これで素材の回収は成功っと!!」
大量の糸が回収できて、いや、本当にこれは大収穫だ!!
目の前にはタテガミだけを残して、身体中の毛を綺麗に刈り尽くされて横たわるアイスキマイラの姿があった。例えて言うと、バリカンで羊毛を刈られた羊のような姿になっていた。
「・・・ありえない・・・大陸の支配者と言われた魔獣の体毛を根こそぎ奪い・・・裸に剥いてしまうなど・・・そんな芸当が出来る能力者など聞いたことがない・・・わ、私の目は壊れてしまったようだ」
「アイリス君、現実逃避はやめておいたほうがいいよ。ボクだって何が起きているのかさっぱり分からないけどさ、とにかくこれであの攻撃を全部跳ね返すツルツルした体毛はなくなったってことだろう?」
「トーマァァァッ!お前、やるじゃねーか!!」
ムニュウウウ(レベッカさんが抱き着いて、おっぱいに頭を押し付けてくる音)
「れ、レベッカさん!?あ、あの、その、いきなり何ですか!?」
「アネキ、だ!アイリスのことはお姉ちゃん、ビビのことはビビ姉って呼ぶくせに、いい加減オレのこともお姉ちゃんって呼びやがれ!いいか、これは隊長命令だからな。今からオレのことは大アネキと呼びやがれ!!」
「お、おお、あねき・・・?」
「そうだよ!!トーマはいい子だなぁ♥アハハハ、これでオレもトーマの姉ちゃんだ!!」
豪快に笑い、僕の髪の毛をくしゃくしゃに撫でまくりながら大姉貴は嬉しそうな顔をしていた。
「大」をつける辺りは、自分が一番偉いってことを強調したいらしい。そういう子供っぽいところも、何というか大アネキらしいというか・・・。
僕はレベッカさんでもいいんだけど、どうしても本人は不満らしい。
その時だった。
『・・・誰だ?』
どこからか、舌足らずだけど、威厳に満ちている声が聞こえてきたような気がするけど?
振り向くと、僕たちの後ろにいつの間にか目を覚ましていたアイスキマイラが僕たちをじっと見ていた。黄色くらんらんと輝く瞳はさっきまでの殺気にあふれていた猛獣のそれではなく、生まれたての子供のようなあどけないものを感じる。
僕は近づいて、アイスキマイラの頭を優しく撫でてあげる。
すると、気持ちよさそうに目を細めていた。
うわー、この魔獣、まるでネコみたいで可愛いな。
『・・・人間の女か。我の邪気を、払ってくれたのか?』
「・・・もしかして、さっきのあのモヤモヤのこと?」
『・・・そうだ。ある日邪気を浴びてしまってな。それからずっとずっと身体の中に溜まっていた。あれのせいで、理性が時折保てなくなり、とにかく何でも壊したくなってしまう。しかし、邪気がなくなったおかげで気分がスッキリした。礼を言おう』
「どこかで邪気を浴びて凶暴化したということか。そしてそのまま封印されてしまったということなのだろうか」
「おそらくね。でも、そんな強力な邪気なんて一体どこに・・・?」
「その、かかと落としとかしちゃってごめんなさい。痛かったよね・・・?」
『・・・デッカイたんこぶが出来てるな。・・・しかし、我よりも強い人間がいたとはな。不思議と腹ただしくない。むしろこんなにも高揚とした気分は初めてだ』
そういうと、アイスキマイラの身体が光り出して見る見る小さくなっていく。
そして、光が晴れて再びアイスキマイラだったものがさっきまでの巨大な獣の姿ではなく、人間の姿になって現れた瞬間、僕たちは飛び上がるほど驚いた。
青みがかかった銀髪、猫のような大きな耳を生やし、瞳の色ははちみつ色をしている・・・陶磁器のような真っ白な肌を持つ僕よりも頭一個分ほど背丈が低い男の子が・・・生まれたままの姿で立っていた。お尻からは蛇の尻尾を生やし、身体の右腕と左足は黒い装甲のような竜の鱗で覆われており、左腕と右足は山羊のような真っ白な毛並みで覆われている。
もしかして、この子・・・あのアイスキマイラなの!?
ー人間の姿に、なるのは、初めてだが、こんな感じで、いいのか?-
男とも女とも取れない、あどけない片言の言葉がとぎれとぎれに頭の中に直接響いてくる。
「ブウウウーーーーーーッ!(アイリスが鼻血を噴き出した音)」
「ヒィッヤッホォォォーーーッ!!ごはっ!!(ヴィルヘルミーナが狂気の叫びをあげて、吐血した音)」
「だあああーーーっ!!ふ、服!!なんで何も着ていないのっ!?」
ー我、服、知らない。服とは、何だ?-
女の子のような可愛らしい顏できょとんとしながら、アイスキマイラは首を傾げた。
ああ、そうか!!この子、きっと服を着る習慣とか知らないんだ!!
このままじゃ風邪をひいちゃうし、一旦、僕が着ているジャケットとパンツ、下着のスペアを魔法で彼のサイズに合わせて小さくしてから素早く着せてあげることにした。初めて着た服の感覚にアイスキマイラはきょとんとして、自分の身の回りを見回している。
-・・・ふむ・・・これが服か。なるほど、悪くはない。魔力を帯びていて、すごく落ち着くな。-
ドオオオオオオン!!
突然図書館全体が大きく揺れて、僕はとっさにアイスキマイラを抱きかかえると転ばないようにもう片方の手で壁にかかっているパイプを掴んだ。
「大丈夫!?」
-ああ、問題ない。ありがとう。-
一体何があったの!?建物中のサイレンがけたたましくなり出したかと思うと、スピーカーから女性の冷静な声がアラーム音のように無慈悲に、この異常事態の原因を告げた。
『起爆システムが作動しました。このシステムは解除することは出来ません。ただちに職員は退避して、地下のホームから魔導列車に乗り込んで脱出してください』
「マジかよ!?」
レベッカさんが思わず叫んでいた。そして、アイリスさんの通信機に連絡が入った。
「ビビアナ!これは一体どういうことだ!?」
『・・・・・・バイロンのヤツ、遠隔操作の魔法を使って起爆システムを作動させた。10分以内に地下の魔導列車に乗ってここを出なくちゃ、爆発に巻き込まれる!!私たちごと心中するつもりだ!!』
マジか!?あのバカ神官、何てことをやらかしてくれたんだ!?
最下層のプラットホームまで、階段を駆け下りてギリギリセーフといったところか!!
僕たちはもう悩む間もなく、最下層に向かって走り出した!
アイスキマイラの邪気を払ったことで、斗真の舎弟(予定)となるアイスキマイラの男の娘が新しい仲間となりました。背丈は150㎝ほどで、斗真にベタベタ甘えまくる素直クール系の猫耳男の娘にしてみましたがいかがでしたか?次回、古代図書館編が決着いたします。
今年一年、どうぞよろしくお願いいたします!




