第104話『三輪のライラック』
「やりとげたぜ」
今日はムギたち三人娘と約束した日。
徹夜をしようとするとファーを味方につけたシルヴィアに怒られるので、昨夜もちゃんと寝て早起きして何とか間に合った。
広くなった工房に並ぶ完成したばかりの三機のアクティブアーマーは朝日を浴びてとても絵になる。さっそくサーチバイザーのカメラモードを起動していろいろな角度から写した。
「おはようございますマスター」
「「「おはようございますオーナー」」」
「シルヴィアに皆もおはよう」
一人撮影会をしていると、シルヴィアとこの前引き取った七人がやってくる。メイド姿のシルヴィアに引き連れられた作業着姿の七人の光景はシュールだけど、ここ数日で慣れてきた。
もう皆が起きる時間になってたのか。
「オーナー、いつから起きていたんですか?」
「太陽が昇る前から」
早くアクティブを仕上げたくて、ベッドに入って三時間くらいで目が覚めてしまった。寝たことは確かなのでシルヴィアとの約束を破った訳ではない。
「オーナーは働き者ですね」
これは半分以上趣味なので仕事に入れていいのかな。
「我々もオーナーに負けないように頑張ります」
「ほどほどでいいよ、ウチはブラック運営は絶対にしないから」
七人は俺のことをオーナーと呼ぶ。最初はご主人様と呼ばれたんだけど、リアルで呼ばれると背中がむず痒くなってしかたがなかったので、やめてもらい、いくつかの候補の中からオーナー呼びで落ち着いた。
「それでは皆さん、朝のお勤めをはじめてください」
シルヴィアの号令で動き出す七人、彼ら彼女らの最初の仕事は工房の掃除である。
予期せぬ出来事で工房メンバーが増えたので、さらに隣接する二軒の空き家を買取、一つの工房として増築した。シルヴィアとファーの二人だけでは管理が大変な広さになったけど、スペースもあったので一人一人に個室をあげたらものすごいやる気を出して管理してくれている。
庭付き宿屋サイズになった二階建て工房の内装は、一階にアクティブを整備、清掃、展示するハンガーを作り二階に居住区をまとめた。そして地下にはアクティブの製造工房と試作機保管庫を設けた。まだまだ数が少ないのでハンガーも保管庫もガラガラだが、これからコツコツと増やしていく予定。
現在一階の24機並べられるハンガーには、俺のフゥオリジン、シルヴィアのヴィアイギス、ファーのチェイス・ゴールドキングに加え完成したばかりの三機だけ、まだまだこれからだ。
まずはムギたちにこの機体を気に入ってもらい活躍してもらう。そうして少しずつ顧客を増やしていこう。今日は約束の日、早く三人が来ないかな。
二階には食事スペースも作ったけど、いつムギたちが訪ねてきてもいいようにハンガーで待っている。朝食も運んでもらってここですませた。
「二代目マスター、お客さんよ」
「来たか!」
俺はアクティブを装備したままでも余裕をもって出入りできる入り口へと全速力で走っていく、そこには――。
「よう坊主、明日は待ちに待った合同討伐だからな、機体のチェックと整備を頼む」
ウルフクラウンの人たちがいた。
「なんだダラスさんたちか」
「なんだとはなんだ、こっちは客だぞ」
「これは失礼しました。機体の整備ですね」
いかんいかん、最近はストレスが無い充実した生活に気が緩んでいたかも、表情をあらためて営業モードに切り替える。
「十三番から十八番ハンガーに機体を置いてください」
「すげーでかい工房だな、たった数日でここまで作ったのかよ」
入り口から入って右側に一番から十二番ハンガー、左側に十三番から二十四番ハンガーとなっている。ダラスさんたちは指示の通り、左側ハンガーにそれぞれの機体を固定させた。
「それじゃ清掃を頼む、足回りの泥は入念に落として」
「かしこまりましたオーナー」
従業員となった七人がハンガーに備え付けられている。水や風を切り替えて出せるホースを持ち手際良くウルフバンカーの汚れを落としていく。
「彼らは、先日の奴隷たちだよな」
あまりの無駄のない動きに驚きの感想を口にしたのはテルザーさんだ。
「やるきがすごいある人たちで、成り行きでしたけど、彼らが来てくれて大助かりですよ」
清掃を終えた機体からチェックしていく、稼働ログを見ると別れてから連日依頼をこなしていたようだけど、大きい問題はでていない、前衛の得にダラスさんのウルフバンカーのバンカーが使い過ぎで少し摩耗している程度だ。これなら部品交換しなくても『変形』で繋げて仕上げにヤスリをかければ元通りだな。
「すみませーん。ここは魔導工房シルバーファクトリーですか」
機体を整備しているとついつい夢中になって他のことは一切忘れていた。入り口から若い女性の声が聞こえ三人娘との約束を思い出した。そうだよ今日の本命は彼女たちだ。
「マスター、お待ちかねの人たちです」
「聞こえてる。これで終わりっと」
最後の機体が丁度終わった所だ、俺は素早く魔導ヤスリを腰の道具ベルトに差し込むと駆け足で入り口へ。
「すごい、大きな工房ですね。サウスナンにこんな所があるなんて知りませんでした」
「一昨日完成したばかりですので」
入り口ではシルヴィアが三人娘を出迎えてくれていた。
「ようこそ魔導工房シルバーファクトリーへ、君達にあげる機体はこっちだ、ついてきてくれ」
「あげる?」
不思議そうな顔をしてどうしたんだろう。
この前の食事時に聞いた好みや特技に合わせて製作した機体の前へと連れて行く。
「一機ずつ説明していくな、まずはムギの専用機」
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■製造番号AW-03-L01・機体名『レオライラック・ウォーリア』
◇中量級汎用型 ◇カラー「パープル&ホワイトのツートンカラー」
◇素材 メゾフォルテ合金
◇機体構成
「コア(C)」上級魔結晶
「ヘッド(H)」ライラックヘッドギア
「ボディ(B)」レオアーマー
「ライトアーム(AR)」ロックオンアーム
「レフトアーム(AL)」ライラックアーム
「レッグ(L)」ホバーブーツ
「バックパック(BP)」飛翔ユニット
◇武装
・メインウェポン(AR)……ハイパーマギライフル
〃 (BP)……雷鳴アウルソード
・サブウェポン(L)……マジックガンソード
〃 (AL)……ウィンドスカイシールド
◇補足
まだ設計段階のAW-03をムギ、ミケ、クロエのために改造した量産機、当初は同一の量産機を渡すつもりでいたが、カズマの製作魂に火が付いた結果、それぞれの個性にあわせた改修がおこなわれた。
L01型は三人のリーダーであるムギ専用機。遠近両方の戦闘ができる彼女にあわせた汎用機となっている。メイン武装はハイパーマギライフル。MMライフルと違い実弾は撃てないが、代わりに魔力弾を、フルオート、三点バースト、セミオートに加えチャージショットが撃てるようになっており、アタッチメントとして魔力剣が付いている。
ウィンドスカイシールドはAW-02ヴィアイギスのスカイシールドを発展させた盾で、風の魔法が使うことができ、背中の飛翔ユニットと接続することで、自在に飛び空中戦闘も可能。
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「専用機ですか?」
「そう、これはムギの専用機だ。大切に使ってくれると嬉しい、設計段階で三人に似合う花を考えていたらライラックが浮かんだから、ベースをパープルにして各部に引いたラインの色を変えてみた」
なぜライラックなのか説明は難しい、ピーンとひらめいたことだから。
「は、はー?」
「次はミケ専用機だな」
「これが、わたし用なのか、かっこいいじゃん」
「そうだろう、そうだろう」
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■製造番号AW-03-L02・機体名『レオライラック・ファイター』
◇中量級近接型 ◇カラー「パープル&レッドのツートンカラー」
◇素材 メゾフォルテ合金
◇機体構成
「コア(C)」上級魔結晶
「ヘッド(H)」ライラックヘッドギア
「ボディ(B)」レオアーマー
「ライトアーム(AR)」ライラックアーム
「レフトアーム(AL)」ライラックアーム
「レッグ(L)」ホバーブーツ
「バックパック(BP)」突撃ブースター
◇武装
・メインウェポン(BP)……炎アウルソード
〃 (BP)……岩アウルソード
・サブウェポン(L)……マジックガンソード(×2)
〃 (AR・AL)……パイルバンカー
・オプション(B)……マジックバリア
◇補足
L02型は近接戦闘が得意なミケ専用機。ウルフバンカーにコンセプトは似ているがコアに上級魔結晶を使用しているので出力は数倍になっている。メインウェポンに二本のアウルソード、それぞれに『火』と『土』属性が付加されているので魔法が苦手な獣人族でも剣を振りながら魔法が仕えるようになっており、さらに『操作』までも付加されているのでグライダーナイフのように飛ばしてコントロールもできる。
パイルバンカーも装備しているので近接戦闘に高威力を発揮できるが銃器はマジックガンソードのみとなっている。
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「近接戦闘は三機の中で一番強いぞ」
「おおーすげー、まさにわたし好み!!」
「最後に、これがクロエ専用機だ」
「うん」
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■製造番号AW-03-L03・機体名『レオライラック・スナイパー』
◇軽中量級狙撃型 ◇カラー「パープル&ブラックのツートンカラー」
◇素材 メゾフォルテ合金
◇機体構成
「コア(C)」上級魔結晶
「ヘッド(H)」ライラックヘッドギア(スコープ付き)
「ボディ(B)」レオライトアーマー
「ライトアーム(AR)」ロックオンアーム
「レフトアーム(AL)」ロックオンアーム
「レッグ(L)」ホバーブーツ
「バックパック(BP)」弾丸製造ユニット
◇武装
・メインウェポン(AR)……シャドーパンサー(スナイパーライフル)
・サブウェポン(L)……マジックガンソード
〃 (AL)……AB-200クローアイ
・オプション(BP)……ミュラージュマント
◇補足
L03型は狙撃特化のクロエ専用機。カズマにシャドーパンサーと名付けられた魔力内包実体弾を撃つことができるスナイパーライフル、バックパックの弾丸製造ユニットはいろいろな弾丸が製造でき、新アイディアの結界破壊弾も製造可能。
シャドーパンサーの射程は約2キロあり、レフトショルダーに装備されているAB-200クローアイの遠隔望遠と併用することで視界が届かなくても狙撃を可能としている。
バックパックに内蔵されているミュラージュマントは、使用すると周囲の景色に溶け込み隠れることができ、マントを一杯まで広げると三人が余裕で入れるテントとしても使用可能。
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「気配を殺した狩りが得意って聞いたからスナイパー型にしてみた。こいつは相手に気づかれない距離から一方的に攻撃できるぞ」
「うん、これなら二人の役に立てそう」
クロエも口数は少ないけどミケ同様喜んでくれているようだ。
「あ、あの、カズマさん」
「どうかしたかムギ、気に入らない箇所でもあったか、それなら明日の討伐までにできる限り改修するけど」
「そうじゃありません、私たちが頼まれていたことって魔導甲冑のテストですよね、それがどうして専用機が用意されているのですか?」
あれ、そうだっけ?
「はい、助けた恩を返したいと言うムギ様の願いをマスターは機体のテストで返して欲しいと約束されていました」
「細かいなムギは、食事の時に機体をあげるみたいな事言われてただろ」
「明言はなかったけど」
ムギ以外の二人は専用機が用意されると気が付いていた様子。
「で、ですが、見るからに高価そうな魔導甲冑、これを頂いては、受けた恩がさらに増えてしまう」
受けた恩は絶対に返す。ムギの性格からこのままあげると言っても素直に受け取ってくれなさそうだな、だったら。
「そんなことはないぞ、これを受け取ってくれたら十分恩返しになるんだ。俺はある人との約束で最強のアクティブアーマーを作ろうとしている。この三機にはその機体に乗せる候補の武器が装備されているんだ。思いっきり使って感想を聞かせて欲しい、それが何よりの恩返しになる」
「そうなのですか」
「そうなのです!」
まだ悩むムギに俺は力強く断言した。嘘ではない、この機体のナンバリングAW-03はリンデ専用機の番号なのだから。
評価やブックマークありがとうございます。今回はアクティブの説明が三つ分あり少し長くなりました。