第105話『クローアイと予感』
ガーキマイラの合同討伐の日。
日の出前に冒険者ギルド南門支部に集まった冒険者の数は二百人を超えていた。壁に張った地図をかがり火で照らして、ギルド幹部と南門守備隊隊長ベテルドさんによる作戦の最終確認が行われている。
今回の合同討伐は相手に不明な点が多いため守備隊も参加していた。
「いいか、手柄を焦って先走るなよ、ガーキマイラの相手は一ツ星ランクのチームを主力に構成した三つの討伐隊だ、十字線ランク以下の冒険者はここサウスナンの防衛が主目的だからな」
ギルドが編成した三つの討伐隊「焼肉の宴バーグナゲット」「蒼天」「教導団ベルガーズ」それぞれを主力とし、三角線ランクのチームがサポートに加わっている。
戦闘力はあるが探索能力の低い焼肉の宴バーグナゲットには探索の得意な二チームが。
人数が少ないことを理由に蒼天には三チームが補佐に加わっているけど、本音は冒険者ギルドも蒼天の実力を疑っているような雰囲気で、三角線の中でも強そうなチームがサポートに付いている。
教導団ベルガーズは、人数が多いため補佐のチームは配置されていない。
この三チームが同時に三方に出発して、ガーキマイラ配下の魔物を殲滅後、ガーキマイラを誘きだし三方から攻撃をする。これが今回の作戦。
低ランクの冒険者たちはガーキマイラ配下の魔物がサウスナンに逃げてきた時の迎撃要因として南門を中心に班に分かれて配置される。俺たちシルバーファクトリーも低ランクなので南門近辺の守備だ。
「説明は以上、討伐の成功を心から願う」
作戦の確認が終わると、集まった冒険者やギルドスタッフに見送られ、主力の討伐隊が南門をくぐっていく。
「よし、気合入れていくぞ、ガーキマイラを倒して盛大に宴会だ」
「我々の伝説をまた一つ増やすとしよう」
「焦るなよ、命を大事に味方の背中を守れ、そうすれば味方が自分の背中を守ってくれる」
それぞれ個性的な号令で三つの討伐隊は出発して行った。
「暇だぞー!」
俺たちの班は予定通り南門近くに配置された。
班の構成はシルバーファクトリーにウルフクラウンそして獣人族三人娘のベルノヴァと、アクティブを装備したチームがまとめられている。
主力討伐隊が出発してから三時間、すでにバーグナゲットとベルガーズはサーチバイザーのレーダー範囲(三キロ以内)の外まで行ってしまって状況がわからない、蒼天だけがゆっくりとした足取りでいまだレーダーに補足できている。
「暇だぞーー!!」
「いい加減黙れダラス、うるさいぞ」
「だってよテルザー、これは暇すぎるぞ、せっかくウルフバンカーもキレイにしたのに」
「わかっている。だからこの依頼も無事にこなして早くランクを上げようとしてるんだろ。今回はいるだけで昇進ポイントが貰えるんだ有難く思え」
念の為の防衛だからね、南門のすぐ近くだし魔物がやってくるなんてそうそう無い。
「これでは機体のテストはできませんね」
「せっかく活躍できると思ったのに」
「残念」
ダラスさんのように騒いでいないが、何もすることが無いことにムギ、ミケ、クロエのベルノヴァも手持ちぶたさのようだ、真面目なムギは約束の機体のテストができないことが歯痒い様子。
俺は魔物が来ない方が楽できていいと思うけど、サーチバイザーを製図モードにして新しいアクティブの素案を書き溜めていく。
「こちらも異常はないようだな」
そんな俺たちの元に、数人の部下を引き連れた南門守備隊長べテルドさんがやってきた。もめ事が起きないように班は冒険者と守備隊で分かれているが、守備の統括はベテルドさんがしていた。
アクティブを装備した三チームを一纏めに編成したのもこの隊長さんだ。
「こっちは平和そのものですよ、ホーンラビット一匹見かけません」
「けっこうなことだ」
「討伐隊の情報は入っていますか」
「バーグナゲットがコモドバーンの群れを倒したと魔法通信が届いている。ガーキマイラの姿は無かったそうだ」
魔法通信、伝えたい言葉を魔法に乗せて特定の人物に送る魔法。会話ができるわけではなく、吹き込んだ言葉を送るので、言葉によるメールみたいなもの。サーチバイザーの通信の方が便利なのでアクティブには組み込んでいない魔法だ。
「隊長、ベルガーズもコモドバーンの群れと遭遇、戦闘に入ったようです」
「ガーキマイラは」
「姿は見えないとのことです」
俺たちがコモドバーンの群れを退治した時、ガーキマイラは姿を現した。群れを率いる能力を持つ個体、おそらく群れの近くで指揮をしており殲滅すれば怒り姿を現すとギルドは考えてこの作戦を実行しているが、群れを二つ見つけたのにガーキマイラが発見できていない。
群れを分けているのか、そうするとガーキマイラの配下は相当な数ってことになるけど。
「考えてもわからないから、直接見てみよう」
「突然どうしたのだ」
「ガーキマイラの動きがわからないので探ってみようかと」
俺は戦略家でもないし魔物生態に詳しくもないので推理しても答えは出ない、ガーキマイラは個体ごとに行動パターンが違うらしいのでSOネットの情報も参考程度にしかできない。だったら直接見るしかないでしょう。
「シルヴィア、地図を出してくれ」
「了解しました投影します」
流石だシルヴィアさん、短い言葉だけで俺がして欲しいことを正確に実行してくれる。こんなこともあろうかと、壊れたスカイシールドを修理したついでに、映写機能も付けておいたのだ。
「な、なんだそれは」
「地図です」
「いや、地図なのは理解できるが」
スカイシールド前方の空間に地図を投影したらべテルドさんが驚く、ムギ、ミケ、クロエも驚いてくれたけど、ファーやウルフクラウンの人たちはすでに慣れてますといった表情なのが少しだけ残念だった。
「サーチバイザーのレーダー範囲は直径三キロ、これはそのレーダー範囲内を映し出しています」
「さ、三キロだと」
「すごい、こんな魔道具聞いたこともない」
ありがとうベテルドさんにムギ、二人のその新鮮な反応はとても心地よくて顔がニヤけてしまいそうだ。
「二代目マスター、顔がゆるんでいてみっともないわよ」
「そ、そんなことはないぞ」
どうしてサーチバイザーをしてるのに気が付かれた。
「シルヴィア、魔力反応も映してくれ」
「了解しました」
サーチバイザーにリンクしているので、レーダーで捉えた反応は地図上に反映させられる。三キロ以内にいる魔物の反応といまだに、のろのろ動いている蒼天チームの反応が現れた。わかりやすいように蒼天の反応には名前も一緒に映し出した。
「こ、こんなことまでできるとは、これが本当なら蒼天のヤツら、いまだにあんなところにいて、やる気があるのか」
あらら、ベテルドさん驚きよりも蒼天ののんびりした行動に怒りが増さってしまった。
「クロエ、クローアイの使い方は覚えたか」
「うん、昨夜、マニュアル三回読んだ」
ベルノヴァに渡した三機のヘッドギアにはそれぞれの機体のマニュアルがデータとして入れておいたけど、たった一晩で三回も読んだのか、俺が大雑把に書いた原稿をシルヴィアとファーが親切丁寧に清書してくれたので短めの小説一冊分の文字数はあったのに。
「そうか、それならこの地図とクローアイをリンクさせて、ベルガーズの様子を見に行かせてくれ」
「わかった。飛んでクローアイ」
クロエの声に反応してレオライラック・スナイパーの左肩にある黒いユニットが鴉型のアクティブビーストに変形して空へと飛び立った。
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■製造番号AB-200・機体名『クローアイ』
◇軽量級烏型 ◇カラー「ブラック」
◇素材 フォルテ合金
◇機体構成
「コア」中級魔結晶
「タイプ」カラス
◇武装
・メインウェポン
:ウィングブレード
・オプション
:クローアイ
◇補足
カズマが狙撃補助を目的として製作したアクティブビースト2号機。外見は一つ目のカラス、目が望遠レンズになっている。リンクしたアクティブアーマーに映像や狙撃に関するデータを収集して送り狙撃を補助してくれる。
翼はブレードになっており、飛ばして敵を切り裂くことも、変形させ腕に装備することでブレードクローとしても使用できる。
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狙撃補助用だけど偵察用としても使える。
クローアイはまっすぐにベルガーズの向かった方角に飛び、レーダーの範囲から出ると、自機の周辺データを送ってきた。範囲はそれほど広くないけど、カメラ映像はリアルタイムで見ることはできる。
ほどなくしてベルガーズを発見、戦闘の様子が確認できた。
群れは報告の通りコモドバーン、数は十匹前後のようですでに半数以上を倒している。数の多さを最大限に発揮する戦いかたで、ベルガーズはケガ人はいるけど死者はでていないようだ。
「これが一つ星ランクの実力か、アクティブを装備しないでコモドバーンを狩ってる」
「ちくしょう、俺も活躍したかったぜ」
ダラスさんが悔しそうにつぶやく、この様子ではここまでお零れがくることはないだろう。
「クロエ、周囲にガーキマイラがいないか探してくれるか」
「わかった」
クローアイがベルガーズの周囲を飛びガーキマイラを探していると、森の奥に潜んでいるマーダータイガーの群れを発見、それも二十頭近くの群れだ。
「これって待ち伏せか」
戦闘場所が徐々にマーダータイガーの方へ移動している。
マーダータイガーはコモドバーンよりも討伐レベルは低いけど、火魔法が使えるんだ。
「まずい、ベテルドさんこのことをベルガーズに――」
知らせて欲しい。と頼もうとしたけど間に合わなかった。
潜んでいた二十頭のマーダータイガーが一斉に火魔法をベルガーズに放った。
「な、何と言うことだ」
爆炎があがり視界が悪くなった。それでもクローアイで確認できた重症者は多数、このままではベルガーズが全滅する。
「俺たちが行く、救援に」
「なんだと」
「俺たちウルフクラウンが行くって言ってるんだ、いいだろ」
「ここは坊主たちだけで戦力は十分ある。足の速い俺たち以上の救援は存在しないぞ」
ここぞとばかりにダラスさんが救援に名乗りを上げ、珍しくダラスさんに同意したテルザーさんが自分たをアピールする。
「……わかった、正直その魔導甲冑は理解できないが、ここはお前たちしかいないだろう。防衛班の指揮官としてウルフクラウンにベルガーズの救援を許可する」
短い試案の後、ベテルドさんがウルフクラウンに許可を出した。
「おっし、まかせろ、ばっちり活躍してきてやるよ、ウルフクラウン出撃だ!!」
ダラスさんを先頭に六人のウルフクラウンが教導団ベルガーズ救援のために出撃した。
まさか魔物がここまで周到な作戦を立てるなんて嫌な感じだな、この合同討伐はすんなり終わらないかも。




