⑤ 二度目の訪問
西暦1774年9月1日の15時00分。
サン・ジェルマンは再び、"王妃の避難所"プチ・トリアノン前にある、通称"王妃の村里"と言われている、田舎の村を模した庭園に現れた。
マリー・アントワネットは、村落の家を模した建物の、テラスに据えられた椅子に腰かけて、ぼんやりしていた。しかし、彼の姿に目を止めると、パッと顔を輝かせた……が、次の瞬間、また少し不機嫌な表情に変わった。
なんてコロコロと顔色を変える人なんだ、などとサン・ジェルマンは思ったが、ふと、自分の左後方の視界に入ったモノを見て、彼自身、ギョッとしたのだ。何とそこには、シレっと、黄色いワンピースを着た京子が立っていたのだった。
「伯爵、ようこそお出でになりましたね……ところで、何ですの。その珍妙な服装のオンナは?」
少しプリプリしながら、王妃がドイツ語で彼に尋ねた。
すると、京子自身がソレに答えた。
「初めまして、王妃様。私のような下賤の者が、直接王妃様に話し掛ける事を、どうかお許し下さい。私は伯爵の使用人で、京子と申します。衣装は珍妙に見えるかもしれませんが、遠い異国のジャポンからやって来たので、どうかご容赦下さいませ。」
それは、とても美しいフランス語だった。実はこんな事もあろうかと、英語とフランス語の学習だけは、彼女自身、用心して押さえておいたのである。
それにカチンと来た王妃は、ただちにフランス語に切り替えた。読み書きに多少の不安はあるが、おしゃべりなら得意なのである。
「確かに、使用人が直接話し掛けて来るなんて、非常識だわ。本来なら極刑ものよ?でもアナタが、他ならぬサン・ジェルマンの召使だから、特別に許してあげるわ。こう見えても私、結構寛大なのよ?……それにしても、変わり者の主人には、変わり者の従者が付くものなのね?」
(京子さん、使用人って、一体どういう……?)
(いいでしょ?この際、そういう事にしておきなさい……その方が、今後、何かと立ち回りやすいのよ。)
その間にも、そんな感じに、伯爵と京子はコソコソしゃべっていた。
「……って、ちょっとアナタたち、私の話を聞いてるの?何ゴニョゴニョと、耳打ちしているのよ?失礼でしょ!」と王妃。
「あ、ああ、申し訳ありませんでした。今後、失礼な事を言わないように、今、彼女に注意しておいたんですよ。」と伯爵が言い訳した。




