プロローグ:和平条約は砂糖のために
わが国キャルトナータ帝国は、周辺各国にケンカを売りまくり、長きにわたり戦争と停戦をくり返してきた。
今は停戦中とはいえ、隣国と一触即発の状況下。物流は滞るし、農業は衰退していく。その影響として、最近では砂糖が市場に出回らなくなった。
「砂糖が入手できない……?ふむ。やはり、グリンロッドと和平条約を結ぶ必要がありそうだな」
国の現状を聞いた屋敷の主様は、そう言うと本当に和平条約を結んで帰ってきたわ。
え?
えええ??
教科書にのるレベルの歴史的快挙を、本当に砂糖のためだけに……!?
なんという有言実行。あまりの行動力に、尊敬よりも正直こわい。
グリンロッド王国との関係が解消すれば、きっとまた砂糖がたくさん輸入されるようになるわ。
だけど本当に、砂糖のために……?
満足気に帰ってきた屋敷の主、ディノアマト様は、今日もずらりと並んだ山のようなクッキーをむさぼっている。
「うむ。あまい!!この突き抜ける甘さ、拷問訓練の鞭打たれた衝撃を思い出す」
ほめ言葉なのかどうか微妙な感想を述べながら、彼はばくばくとクッキーを食べ進めているわ。
集中しているのか、眉間にしわを寄せながら甘味を味わう姿。それは怒っているようにも見える、いつもの光景。
最近は慣れてきたけれど、最初は怒鳴られやしないかと不安になっていたの。
だってそもそもの顔がこわいのだもの!険しい表情をしていたら、より心配になるってものだわ。
その後の「あまい。うまい」という呟きから、気に入ってくれた様子は伝わってきた。
私はほっと胸をなでおろす。
何を出しても怒られたことなんてないのだから、きっと喜んでくれるだろう、ということはわかっているけれど。
やっぱり言葉にしてくれたほうが安心するわ。
「追加の紅茶もございます。熱々をご用意しますので、お申し付けくださいね」
この屋敷で専属パティシエとして働き始めて1ヶ月と少し。
まさかこんな恐ろしい軍人様のもとで働くことになるなんて、私・ロロメルテは少し前まで考えてもみなかった。




