帝都ヴィータ案内
ケドニア神聖帝国が、本来の目的地だ。続けてルフィナさんに、何か役立ちそうな物は無いかと尋ねてみた。すると、帝都ヴィータについて資料を貰う事が出来た。渡された冊子には、本紙より厚い別冊が付いていた。
「こちらは、商業ギルドの上級会員向けの(帝都ヴィータを歩きたい)、という冊子でございます。ケドニア神聖帝国の、最新の情報が載っています」
「やっぱりあるんですね。歩きたいシリーズ」
「ハイ、御座います。ですが冊子の販売には制限がありまして、もちろんカトー様は貴族なのでよろしいのですが」
「何か問題があるんですね」
「エェ、イリア王国の王家・貴族・近衛師団・守備隊関係者のみの販売となるのです」
「そうなんですか。そんなに問題があるとは思えないんですが」
「そのことは追い追いと。アァそれと、ご注意ください。出版までの製作期間が有りますので、一部情報が古い場合や異なる事があります」
「それは仕方ないですよ」
「(ケドニア神聖帝国を歩きたい)と(帝都ヴィータを歩きたい)があり、もちろん他のシリーズ本と同じ様に、観光ポイントや人気な食べ物に、ホテルやレストランなども紹介されています」
「やはり定番の紹介記事は便利ですからね」
「軍関係者には人気があります。戦略ポイントに、軍施設や渡河地点等の詳しい地図がついています」
良いのか? 逆に、王国の情報収集能力が分かってしまうんじゃないかと言う位だ。
「この二冊とも、別冊が付いています」
「ウーン」
「商業ギルドには販売した者、購入者、購入日・部数などかなり詳細な書類の提出義務が有るという訳です」
「この内容でしたらもう少し厳格に販売し、イヤ、そもそも販売中止にした方がー」
「購入後も、回覧など許可なく他人に見せてはいけません」
「そうでしょうねー」
※ ※ ※ ※ ※
このシリーズの挨拶文は、皆似たような物だなと思っていた。ところがいきなり、飛んでる話だった。
(帝都ヴィータを歩きたい)
帝都ヴィータは、ケドニア神聖帝国の首都であり、130万の人々が暮らす場所である。学説の一つの説ではあるが、600年前の隕石テロにより壊滅された中央都市ベルト帯の都市群では、防御結界により唯一生き残ったのが、現在の帝都ヴィータであるとされている。
アンベール・ベランジェ・メルシェ・カザドシュ第7代ケドニア神聖帝国皇帝、アレクサンドリーヌ・マドレーヌ・マル・ビュルル夫人。鉄血宰相とも呼ばれる、ナゼール・ローラン・アズナヴール宰相のもと、近年は科学技術に国力を傾注している。また東方交易も、帝国北部で盛んである。南部では、広大で豊かな農地があり豊饒の大地とも呼ばれている。海を隔てて魔獣生息域があると噂されている。
ケドニア神聖帝国は、総人口が3600万人程で領土は65万平方キロ(日本の17倍もあるのか)といわれる強国である。その都市数は240余り、帝都ヴィータは130万の人口を数える。帝国の、治安と防衛を預かる人員は72万人に上る。貨幣単位と価値は、帝国の1リーグでイリア王国の2エキュの為替相場とされている。
ある程度の古代アレキ文明と、隕石テロ前の魔法文明を維持しているが、魔法使いの数は人口に対して減少傾向にある。科学技術に注力しており、紡績・製鉄生産量は、倍々と増加の一途である。最初の、鉄道馬車が試作されてから30年。この鉄道馬車と呼ばれる簡易軌道鉄道は、既に20年前から帝国各地に建設されている。近年、防空気球と言われる、航空戦力の拡充に努めているとの報告がある。
人口は現在、3600万(イリア王国歴155年調査時点)だが急激に増えつつある。帝国南部から中央山脈にいたる平地は水利も良く、土壌も肥えているので大陸でも有数の穀倉地帯と言われる。現在、帝国は数年に渡る豊作、豊漁により食料が過剰に生産され、国家備蓄が格段に増えているのが気がかりである。
貴族の方々には、驚愕される事例が視受けられる。正に衆愚政治、ここに極まると言う愚かな議会が作られ、正当な王権の下、確固たる正義のイリア王国とは相容れない政治体制である。
「ほんとに良いんですか? この冒頭の挨拶文? 誰が書いたんですか?」
「近衛師団の某公爵ですね」
「そのような方がね。フーンですね」
「まあね」
「これらの冊子は、帝国内では持っているだけでヤバそうだね。持って行くかどうか考えないと」
「カトー様、他国へは持って行けませんよ。禁書指定です」
「ウン、分かるわー」
帝国では、帝都も人口50万以上の特別行政都市と指定され、都市基準も同じである。防御施設は、古代アレキ文明と同じ規格である。最初の堀壕が幅30メートル深さ12メートル、第一城壁(胸壁高さ5メートル幅2メートル)、第二城壁(外城壁高さ12メートル幅3メートル)、第三城壁(内城壁高さ21メートル幅5メートル)と決められている。
各城壁との間隔は第一城区、第二城区、第三城区すべて3キロで第三城壁から帝城までは1、5キロある。都市の平均直径は21キロを誇る。(実際は、更に巨大で第一城壁外でも帝都生活圏であり、かなりの過密状態である)尚、設けられた防御施設は、帝国最大級と言われている。
帝都ヴィータの気風
文句を言わないが、文句を言わせない風潮がある。広大な国土と交易を持つため、首都の人種は多様である。大げさに人種の坩堝ともいう者もいる。帝国中から、場合によっては中央大陸の東からも来る者も居るので、服装や食事が違う事もある。わが国では珍しい黒目黒髪も多く、服装に関しては保守的な者が多くいるが、貴族のような恰好は好かれない。
観光用ホテルは、安い物から高い物まで多数ある。宿泊施設が立てられる近隣には、常設市場等の商業施設が多くあり利便性は良い。
旧市街と言われる、隕石テロ以前の建物も多い。古屋が多く、街並みの一部では、王都ロンダの半分ほどの道幅の地区もあり、地元民も迷う迷路となっている。旧市街では、ほとんどが共同住宅で五階以上の建物が多い為か、帝都民は改装を趣味とする者も多い。長い歴史が有る為に、獣人も居住しているが社会的な差別を受けている。
毎日のように、古物市が帝都内のいずれかの広場で開かれている。玉石混合であるが、帝都民の楽しみの一つとなっている。食生活に関しては、帝国の南部の農業生産性は高く、各種の農作物が豊富に収穫でき、外食では実に多様な食文化を誇る。しかし、帝都民はパンとワインとチーズが基本の質素と言ってよい生活を好む。
帝都の商店は月2回、1と13日は休日と決まっている。ほとんどの商店が休むので注意が必要だ。休日は、外での買い物は出来ないと思った方が良い。但し、休日の場合でも、食事については軽食店と酒場で出来る事が多い。
近年、帝都各所に有料ではあるが、広場を改装して柵で囲った公園なる物が作られている。各所に設けられた公園では、帝国軍の見回りも多い為に治安が良い。トイレも比較的綺麗なため(1リーグ必要・14才までの子供と50才以上の老人は無料)公園の利用料(1リーグ・子供と老人は無料)を払っても入りたい人々が多くいる。入り口には、立ち食い店などの屋台が多い。飲食は可なので、ゆったりと一日を過ごす事が出来ると人気の施設である。
役に立つ情報、王国外交官の見た帝都ヴィータ
安心して良い処
帝都各所に、鉄道馬車(簡易軌道鉄道)があり便利且つ適正な料金である。一部路線では郊外まで延長されている。
帝国の補助金制度で、一般市民用の基本的な食品などの物価が安定している。
中央山脈によって、北からの風が遮られているので気候は温暖と言える。
宗都リヨンと比べられる程の美術館がある。音楽活動も盛んである。
(夜遅くなる時は、ホテルの送迎サービスを使おう。止まっているホテルで無くても近くまで送ってくれる)
衛生環境は帝国ではかなり上の方で、宮城の水洗設備は一流品である。
(トイレは駅や商店など各所に有るが、利用料の小銭を忘れない事。軽食店で、飲み物を一品頼むのも良い利用方だ)
気を付ける処
美味しい食べ物やワイン等もあるが、ぜいたく品と見做され飲食税が別にかかる。
鉄道馬車の利用を進めるが、貧民街などへの一部地区の路線は警戒すべきである。
辻馬車も比較的簡単に捕まえられるが、事前の料金交渉を勧める。
(旅行者は、吹っかけられる事が多いので、ホテルなどで下調べをして置くと良い)
辻馬車に関しては、乗っても乗ってなくとも気をつける事。彼らは、スピード優先で交通ルールを守らない。
カバンや財布は人前で出さない。夜はもちろん昼でも警戒を怠らない事。とくに夜の女性の一人歩きは控えよう。
下級の商品購入時は、中身の確認をする事。中身がすり替わっていたり、全く違う物が入っていたりする事が有る。
帝都のトイレは王都ロンダのトイレと同じ、あまり綺麗でなくとも有料(入り口で払う。小銭を忘れない事)である。
帝都ヴィータの治安
帝都ヴィータの治安は、良いとは言えない。帝国の中でワーストに入る。しかし、人が殺されるような重大な犯罪がおこることは少なく軽犯罪か中心である。最も多いのがひったくり。商業ギルドから出る時は、金が有ると思われるので、引ったくりや強盗に気を付ける事。
帝都ヴィータは観光客が多い都市だ。道に不慣れであったり、観光に意識が向いているスキを狙ったり、道案内をしてもらっている間に盗むといった手口もある。ひったくりは、グループで行われる事も有る。また、子供がひったくりをする事も多いので気をつける事。
被害が多い場所・美術館や博物館・鉄道馬車や乗り場・蚤の市・夜の酒場。
帝都ヴィータは、王都ロンダに比べると都市の規模はほとんど同じだが、建物が込み合っているので端から端まで行くのにも鉄道馬車で3時間ぐらいかかる。
帝都ヴィータの鉄道馬車についてはこちら読んで
帝都ヴィータの鉄道馬車、辻馬車をマスター! 切符・乗り方・路線まとめ
(ここら辺から文体が変わっている。複数の筆者を、まとめているのはムック本と同じだな)
帝都ヴィータ観光の、あったら良いな
1、帝都ヴィータの移動は鉄道馬車、辻馬車の路線図
帝都では基本的に鉄道馬車、辻馬車でどこでも行けます。また、鉄道馬車の路線図は訪れる者のために、路線はもちろん観光名所、有名商店、常設市場等かなりわかりやすく図解されています。各駅で1部2リーグにて販売しています。
2、「帝都ヴィータ・ミュージアムパス (美術館共通パス)を購入する
パスを持っていると、入場券購入のために長蛇の列に並ぶ必要がない。特に大行列が予想されるので、帝都国立美術館に行かれる予定のある方は、帝都ヴィータ・ミュージアムパスを購入した方が効率的です。また、複数の美術館を見学する方にもおすすめです。
帝都ヴィータ観光地案内
帝都国立美術館
帝都ヴィータにある国立美術館。世界最大級の美術館で、古代アレキ文明の史跡のひとつです。毎年百万人以上の入場者があります。展示されているものは、古代アレキ文明を中心に、先史時代から現代までのさまざまな美術品、約五万点が展示されています。
もともと帝都は、アレキ文明の中央ベルト帯の都市として建設されました。隕石テロも阻止できました。生き延びた都市の中でも比較的多くの古代彫刻など、歴史ある美術品が保存されていました。
その後一時的に閉館することもありましたが、遺贈、寄贈によりその量を増やしていきました。近年になると、ナゼール政権のもとで実行された文化政策により、今の美術館のシンボルとなっているガラスの彫刻室が完成しました。
部門(古代美術、古代アレキ美術、彫刻、工芸品、絵画、素描・版画)に分類されて展示されています。美術館には、有名な作品が揃っているので、絶対に訪れたいスポットです。館内は広く、作品数も多いため、一日では見切れません。事前に勉強してから行くことをお勧めします。
帝都大聖堂
帝都大聖堂は、シテ島にある聖秘跡教会の大聖堂です。アレキ文明建築の残された傑作とも言われている建物です。
帝政を宣言した初代皇帝のアルベリク・ルネ・コンスタン・フランシ一世の戴冠式が行われた場所でもあります。
60メートルもの高さがあり、内部は、北部の森をイメージし、ステンドグラスが填められて幻想的なそれでいて厳かな雰囲気を醸し出しています。大聖堂の屋上にも上る事ができ、帝都ヴィータが一望できます。
メルシェ塔
メルシェ塔は、アランベール皇帝即位20周年を記念して、帝都ヴィータで行われた第1回産業博覧会のシンボルにするために建てられました。
メルシェ塔には展望台が2つあり、1階は70、2階は200メートルです。いずれも階段でも昇る事ができますが、健脚が必要です。しかし、ゆっくりと塔の錬鉄建築を見ながらなら、変わる景色を満喫して登れるのでおすすめできます。現在、帝都で一番高い所で展望できます。1階には、休憩所とレストランが入っています。
凱旋門
帝都ヴィータの、象徴的な建造物である凱旋門。宮殿前広場を中心に街道が放射線状に延びて、道の起点にもなっています。
「戦勝のアーチ」という意味で、帝国統一最後の戦いの記念に、ブノワ・ギュスターヴ・コンスタン・グラネ二世が作らせたものです。帝都ヴィータ市内には、その他にも凱旋門という門が存在します。有料ですが螺旋階段を上って、凱旋門の屋上(高さは約50メートル)に登れます。帝都ヴィータの素晴らしい展望が楽しめます。
※ ※ ※ ※ ※
「普通の案内書より偏っている付録を以外は、中々面白かった。買おうと思います。しかし、国外へは持ち出し禁止なんですよね」
「禁書ですからね。ただこうした、豆知識もまとめると良いですね。ハイ、何しろ遠いところですからねぇ。旅気分も味わえますからそれなりに需要があります」
「フーン」
「王都にある大学の研究室にはこのシリーズの元になった記録や資料が置かれてますよ。遠い所は伝聞とかになりますけど中には嘘か誠か分からない物も多いそうです」
「へーそうなんだ。このムンデゥスの事が分かるんですね」
「それなりには」
「エバント王国とケドニア帝国は同じ大陸内ですから、別冊付録も割と正確だと言われています」
「別冊付録は軍事的に利用できるかようなですか。別冊は外して持って行くかな? マァ、良いか。ア、今のは独り言。内緒で」
「エェ、もちろんです。お客様の情報は守秘義務誓約書で保障されております。本日は、お買い上げありがとうございます」
荷物も揃えたし、明日の朝には旅立だ。いつもの事だが、期待半分、不安半分の入り混じった気分だ。今回、帝国には魔獣が侵略しているという。見るべき物を見て、やるべき事をやるしかないか?




