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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
920/920

曹奏四季日々 50


ふと見上げた空を見詰めながら思い出す。

今日という日までに色々な事が有ったと。

長かった様で、短かったと。


人生百歳と考えれば、まだ五分の一にも満たない。

此処から先の方が遥かに長い。

……まあ、これは自分達の場合に限った話にはなるが。

百歳で寿命が尽きるのかは怪しい所だ。

特に俺なんて押し付け──ゴホンッ、受け継いだ物が色々有るから自分でも終わりが見えていない。

華琳は勿論、皆も多分…………考えるのは止そう。



「何? また変な事でも気にしていたの?」


「……顔に出てたか?」


「貴男の雰囲気で何と無くね」



そう言って笑う華琳。

う~ん……そんなに判り易いか?

いや、隠せる時は隠せているから、種類の問題か。

俺自身の事だから、華琳には丸判り、と。

愛だな。

そう思ったら、肘鉄を入れられた。

照れ隠しにしては過激だな。

まあ、確かに痛くもないんだが。


真冬だが、今日は暖かく、陽射しが心地好い。

だから、華琳と東屋で日向ぼっこ。

明日が予定日なので、何時、陣痛が始まってもいい様に、こうして一緒に居る。

外に出ているのは気分転換の為だ。

いざとなれば、抱き上げて部屋に戻るだけだからな。


──とは言え、多少なりとも緊張はする。

何しろ、俺にとっても最初の子供だからな。

出産に携わる事には慣れているが、自分の子供は初めて。

未経験が故に、こればかりはどうしようもない。



「だけど、何だかんだで、あっと言う間だったわね」


「そうだな……再会してからは特にそう思う」


「あら、思春達を侍らせて楽しそうだったじゃない」


「まだ言うか……」


「ふふっ、一生言えるネタだもの」



不可抗力とは言え、事実は事実。

俺にとっては一生涯の弱点になったな。

勿論、皆との出逢い等は大切な事には違い無いが。



「だけど、貴男と再会出来る様な気はしていたわ」


女の勘(・・・)か?」


「そうだと言えば、そうかもしれないわね

この世界に貴男が出現したという日にね

私は久し振りに貴男の夢──昔の思い出を見たわ」


「何故言い直す?

あと、何気に初めて聞く話なんだが?」


「そうだったかしら?

まあ、その夢が再会を予感させたのよ

そう思ったのは、女の勘と言えるのかもしれないわ

まあ、だからと言って私も直ぐに貴男を探そうと動いた訳ではないけれど……」


「下手に動くよりは俺が来るのを待つ方が確実だしな」


「ええ、本当に貴男なら、そうするだろうと思ったもの

実際には手土産(・・・)が多かったのだけれどね」



そう言って揶揄う様に笑う華琳。

……可愛いから襲いたいが、今は出来無いからなぁ……

…………俺、十日も我慢出来るだろうか?

氣を扱えるから、翌日からでも大丈夫だろうが。

初産だからな。

無理はさせたくはない。

…………まあ、華琳自身が我慢出来るかも判らないが。

御互いに積もり募っている(溜まっている)からな。

何処まで自重が出来るのかは怪しい。

自分自身の事だから、自重し難いからな。



「結局の所、私を含めて貴男が繋いだ縁が全てよね」


「流石に俺だけではないと思うが……」


枝葉(・・)や末端に行けばね

だけど、根幹(・・)は間違い無く貴男が成しているわ

貴男が存在しなければ、今の世は無かった

そう誰よりも私が理解しているもの」



「買い被り過ぎだ」と言いたいが……反論し難い。

時代(・・)という意味でなら、華琳は台頭した。

俺が、“天の御遣い”が居なくても、それは変わらない。

そう言い切れる程に、華琳だけは抜けている。

──が、華琳だけでは勝ち切れなかった。

そう言える程度には、天の御遣いというのは影響する。


ただ、天の御遣いの役割を考えたのなら。

俺が居なければ、この世界は消滅していただろう。

そう言い切れるから……反論出来無い。



「そういう意味では今の形は最適解(・・・)でしょうね

可能性という意味でなら、天の御遣いが三人居るという事自体は何も可笑しくはなかったけれど……

役に立たない者を招く理由が解らなかったわ

だけど、こうして敵対者(役割)を当て嵌めれば納得ね

誰もが手を取り合える世界は理想的ではあるのだけれど、人の世が正しく発展・成長する為には大罪(・・)も必要……

それを担うべき存在こそが、天の御遣い(役立たず)

よく考えられた事だと思うわ」



そう言いながら、遥か彼方を見詰める様に。

華琳が空を見詰める。


……どうしようか。

「華琳、それは違うから」とは言い難い。

俺が劉備──と序でに北郷を、そう位置付けただけ。

龍族の召喚の儀術には、そんな意図は無い。

無いんだけど……もう龍族が居ないから弁明も不可能。

誤解ではあるが、結果としては、そうなった。

何より、今の俺は龍族の力を有しているから、後継者だと言っても間違いではない。

つまり、完全には否定し切れない訳だ。

……いや、そんな訳は無いがな。

単に華琳一人の誤解ではないから面倒臭いだけだ。


だから、誤魔化す訳ではない。

沈黙を以て、「肯定した」と勘違いして貰う。

その為に、華琳と同じ様に空を見詰める。


──と、華琳が胸に凭れ、頭を預けてくる。

腕を回し、肩を優しく抱き寄せる。

視線が重なれば自然と唇も重なるもの。

愛し合っていればこそ、求め合うのだから。






──二月十四日。


未明に華琳が産気付き、特に何事も無く出産。

元気な男の子が産声を上げた。


そして、生まれたと同時に逸話を残した。

その産声が響いたのが夜明けと同時だったからだ。


まあ、実際には生まれたのは少し前の事。

身体を拭いたりした後、産声を上げた。

だから正確には違うが……盛り上がっているからな。

今更、冷静な訂正は興醒めだろう。

俺は空気が読める男。

水を差す様な真似はしない。


取り敢えず、個人的には出産自体が、あっさりとしていた事に安堵する。

氣を使え、健康で丈夫でも華琳は小柄だからな。

言うと不機嫌になるが。

俺としては自分の膝の上に座った時に少し目線が高い位の華琳の身長が好みだったりする。

下から突き上げた時に乱れる表情が可愛らしいからな。


話が逸れたが、現実逃避ではない。

うん、違う。



「親として、あまり背負わせたくはないんだけどな……」


「仕方が無いわ

私達の子供という事だけでも既に背負っているもの

だから、名の事位で気にしていたら持たないわよ」



事前に性別の判断はしていなかった。

だから、男女共に五つずつ名の候補を考えていたが……

俺達の長子・長男は“曹照”と決まった。

候補の中から華琳が推し、俺も頷いた。

頷くしかなかった。

まさか、俺達の知らない所で、あんなに盛り上がっていたなんて想像もしていなかったからなぁ……

済まないな、照。

無力な父を赦してくれ。



「この子一人で、そんなに悩んでどうするのよ」


「いや、自分の名だぞ?

一生関係する事なんだから親としては悩むだろ?」


天の国(彼方等)でも名を変えられるのでしょう?

この世界でも成人後に名を改める者は居るわ

この子が嫌なら、そうすれば良いだけよ」


「いや、それは…………」


「……何よ?」


「絶対、そうすると言ったら不機嫌になるだろ?」


「当然よ

私達が込めた想いを拒否する訳だもの

それ相応の覚悟はして貰わないと困るわ」



そう言う華琳の腕の中で眠る照。

身震いしてないよな?

……よし、大丈夫そうだ。



「それに今から何れだけ名付ける事になると思うの

被らない様にするだけでも字を使い果たすわよ」


「流石にそれは…………」



「無いだろ」とは言えなかった。

いや、漢字の数は膨大ではあるが、名に相応しくはないと弾いたりして除外していけば……と考えるとな。

勿論、それで尽きたりはしない筈だ。

ただ、華琳にしろ、皆にしろ、多分、一人十人は最低でも産むだろうから……子供だけで千数百人。

一字の名だと、ネタ切れは必至。

早い者勝ちみたいな事はしたくないからな。

“平仮名”を早めに定着させられる様に頑張ろう。



「……まあ、何にしても漸く(・・)よ」


「そうだな……」



何気無い、何処にでも有る様な夫婦の、家族の姿。

そんな有り触れた形でさえも、実現するのに苦労する。

そして、これで終わりではない。

寧ろ、此処からの方が長いのだから。

まだまだ感慨に浸るには早過ぎる。

……いやまあ、子供が生まれた感動には浸るけど。

それはそれ、これはこれ、という事で。



「孫だけで数万人になるわね」


「其処まで行くと大家族という規模じゃないな」


「まあ、実際には一万を越えるかどうかでしょうね

私達とは違って、子供達は、ある程度は家族計画(・・・・)が必要な状況には有るでしょうから」


「子供達からは「御母さん達こそ家族計画をして!」って講義されそうだけどな」


「あら、考えて(・・・)の事よ

本能の侭に成せば、一人二十人では足りないわよ」



そう言い切る笑顔の華琳。

「確かに……」と思った時点で反論は不可能だな。


照を──我が子を腕に抱いた感動は特別。

勿論、これから生まれてくる子供達の事もだ。


しかし、そんな感動に感化される様にギラついているのが妻達だったりする。

うん、まあ、アレだ……華琳には既に襲われた。

「産後直後だから無理は──」という正論は口封じ。

文字通りに唇で塞がれました。

応じた時点で合意な訳ですが……自重しようよ?

……無理? そうですか。


照、御腹に居る子供達。

父さん、頑張るからな。




華琳が照と共に部屋に戻り、俺は仕事の為、城に向かう。

「せめて、今日は……」と思うかもしれない。

しかし、少し仕事が滞れば容易く影響が拡大する。

社会というのは、人々が働く事で成り立っている。

だから、責任の有る者である程、自由は少ない。


地位や権力や財力が有るから好きに出来る。

そんな身勝手な考えは間違いだ。

──と言うか、そんな者の下に居たいと思うだろうか?

正面な思考が出来れば、そうは思わない筈だ。

「そうするしかない」状況は異常なのだから。

だから、反乱だの内部告発だのが起きる。

野心家の大臣や将軍や貴族がクーデターを起こすにしても民衆の反意を扇動出来る要因が無ければ不可能。

つまり、そうなるという事は、理由が有るという事。

そうはならない様に。

そうはさせない様に。

自分達は責任を負い、責務を果たさなければならない。


自分で選んだ道、背負うと覚悟した事だが……

我ながら面倒臭い人生だな、とも思う。

まあ、その分、遣りたい事も遣れてはいるがな。


廊下で足を止め、街並みを眺めながら思う。

この景色は永久不変ではない。

自分が生まれ育った世界、時代でも街は変わっていた。

老朽化や過疎化といった悪い印象の理由が多かったが。

それは仕方が無い事でもある。

しかし、その一方で残り続ける物や景色も有る。

だから、全てが不変である必要は無い。

人々が居るから街は賑わい、栄えるのだから。

その変化もまた、必要な事だと言える。

……感情としては色々と有るだろうが。

その多くは、その街で歳を積み重ねた者だろう。

だから、老害とならない様に未来を思い、託して欲しい。

変わる事は悪い事ばかりではないのだから。


──なんて事を考えるのは流石に早いのかもしれないが。

こういう事は早い方が良かったりする。

心の準備(・・・・)には時間が掛かるから。


まあ、俺達よりは子供達──孫達の代での問題だろう。

乱世の時代が風化し、治世の中で変わってゆく。

それを見詰めるのは、この時代を生き抜いた人々が中心。

だからこそ、其処には色々な思いが有るのだろうから。

それらを軽んじたり、雑に扱うと揉めるし拗れる。

その結果、“社会老害”等と呼ばれるのだから。

本当の老害とは、そういう事ではないからな。

本物の老害は社会を蝕む癌の様な存在だから。



「……それも歴史(・・)から学んだ事、か……」



これからも俺達の人生は続いてゆく。

この世界も、国も、人々もだ。

その命が、その志が、繋がり続ける限り。

本当の意味での終焉(・・)は無いだろう。


ただ、一つの区切りとしては、これが終端。

同時に、新たな始端でも有るのだが。

それはまた似て非なる物語。

或いは、第一部と第二部の様な物だろうか。

ページを捲る様な物なのかもしれない。

もっと身近な所で言えば、四季の移り変わりか。

年が、月が、週が、日が変わる様なものか。

……それは流石に極端か。


まあ、何にしても、そういう風な区切りが来た訳だ。

世の中にとって、世界にとって。

それは意識はされない物だろう。

一部の、限られた者にとっては、という物だ。


だから、この区切りは歴史には残り難く、判り辛い。

遠い遠い未来の世で。

“歴史”として見れば、自分達の生きた時など一瞬の事。

僅か数ページで纏められてしまう事だろう。


しかし、だからこそ。

自分達は細々とした事も書き記し、後世へと残す。

歴史とは“世の中の流れ”ではない。

人々が生き、営みを繋げた“日々の足跡”。


自分達が主役である必要は無い。

……まあ、俺達は自分達で切り開いてきた訳だが。

それはただ、そういう立場に有ったというだけの話。


歴史上では名も無き一兵卒、商人、農民かもしれない。

しかし、確かに存在し、生きていた人々が居る。

自分達は、その代表者というだけの事。

歴史とは、決して自分達だけの物ではない。


だから、軈て歴史を繙こうとする者に伝えたい。

真実を知る覚悟は有るか?


真実は求めている物とは違い、地味な物かもしれない。

しかし、其処にこそ当時の人々の息遣いが宿っている。

果たして、その価値を理解出来るだろうか。

歴史を繙くという事の意味を考え、知って欲しい。

その為に、俺達は未来へと記し、残すのだから。


この蒼天が、遥か未来でも曇らぬ事を願い。

俺達は今日も日々を生き、歩んで行く。

小さくも大切な足跡を積み重ねてゆく為に。




                      完



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