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幸せを知らない令嬢は、やたらと甘い神様に溺愛される  作者: ちゃっぷ


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第31話

 義父の興味のない視線が、私からイラホン様へと移された。


 あの視線で見つめられる事自体、恐怖と緊張があったが……その視線がイラホン様に向けられると、自分に向けられていた時以上の恐怖が襲いかかってきた。


「……聞き分けのない息子だな」


 義父が呆れたように、興味がなさそうにそうこぼす。


 ドクドクと……イラホン様と一緒にいるときとは違った感触で、心臓が強く脈打つ。


「私の言うことが聞けぬのなら、お前はもう不要だな」


 ドクンッと胸が鳴って、不安が全身に広がる。


 不要……散々言われてきた言葉が、今、イラホン様に向けられている。


 心配でチラリとイラホン様の方を見やるが、彼は義父によく似た冷たい顔をしながら答えていた。


「私を消そうとするならば……全力で抵抗いたします」


 この二人の間に親子の情はないのだろうかと思うほど、お互いに冷めた受け答えをしている。


 けれどチラリと義父の方を見てみると、その方は少しだけ目を開いて驚きの表情を浮かべていた。


 先程まで無感情な表情だったのに……どうしたのだろう。


「……昔、言うことを聞けと言った私に、気に食わぬならば消せと言ったお前が……抵抗するか」


 イラホン様、昔はそんなにやんちゃな感じだったの!?


 義父とは違ったところで驚いていると、イラホン様はフッと笑って答えた。


「そんなこともありましたね。けれど今は守るべき妻や、戻るべき教会もある身ですから」


 義父の目がまた少し開かれた。


 無感情な人だと思ったけれど……いや、表情自体は確かに無なままなのだけれど、目だけが開かれていく姿は少しばかり異様だが、無感情なようには見えなかった。


 それにイラホン様の答えも、先程までの冷たさがない。


「戻るべき教会……お前が?」


 義父は心底不思議そうにたずねている。


 どこにそんなにも驚くところがあるのか、私は分からずにただ静かに彼らの会話を見守る。


「はい。参拝者や信者がおりますから」


 イラホン様が淡々と答えると、また義父の目が開かれる。


「人間がキライと言っていたお前が?」


 そう言われて、そういえば初めて神の仕事を手伝った時に、人間がキライだったと話していたっけと思い出していた。


 今のイラホン様からは全く想像できないことだけど。


「今は教会に来る人間を愛しております」


 イラホン様がそう答えると、義父の目はもう開きようがないほど上下に広がり、驚きのあまり唖然としているようだ。


 確かに昔のイラホン様がそんな様子だったのであれば、今のイラホン様は正反対……驚くのも無理はないだろう。


 私にとってはこちらのイラホン様の方が当たり前なのだけれど、義父にとっては目の前にいるイラホン様が本当に自分の知っている息子なのか信じられないと言った様子だ。


 ただ静かに親子のやり取りを見守っていると、突然、義父の視線がこちらに移った。


「……お前を変えたのは、この人間か?」


 突然、私の話に戻っていて驚いていると、イラホン様は淡々と答えた。


「はい。彼女のおかげで人間を愛することを知り、神として成長することができました」


 その答えを聞いた義父は私をまじまじと見ながら、ふうむ……と何やら考え事をしている。


 そこに畳み掛けるように、イラホン様が真っ直ぐに義父を見ながら言い放った。


「私は彼女を妻にします。それ以外の選択肢はありません」


 力強くそう言い放つイラホン様は、キラキラと輝いているように見えた。


 その姿に危うく見惚れそうになったが、ハッと気が付いて義父の方に顔を向ける。


「神の妻として精進いたします。だから、どうか結婚をお許しください」


 そう言って、バッと頭を上げる。


 私にできるのはこれくらいだ……何の足しにもならないだろう。


 でも義父の結婚の許しがなければ参拝者の住む土地が荒れ狂うかもしれない……かと言って、イラホン様との結婚を諦めるという選択肢は私にはもうない。


 神の妻として……私にできる精一杯のことを。


 懸命に頭を下げていると、イラホン様も隣で頭を下げ始めた。


「……お願いします。父上」


 イラホン様の話し方は変わらず淡々としていたけれど、その声には温かみが増しているように感じた。


 ……参拝者や信者のためというのももちろんあるかもしれないけれど、イラホン様にも結婚を認めてもらいたいという想いが、少なからずあるのではない。


 二人して頭を下げているから、義父の表情は見えない。


 この願いが、どうか義父に伝わりますようにと心から祈ることしかできない。


 しばらくそうしていると、また義父のため息が聞こえた。

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