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幸せを知らない令嬢は、やたらと甘い神様に溺愛される  作者: ちゃっぷ


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第30話

 屋敷へ向かうと言っても、神の力で瞬間移動ができるので……瞬きをした間に、イラホン様のお父様が住まう屋敷まですぐに着いた。


 屋敷というか……これはもうお城だろう。


 さすが世界を作りし三大神のお一人……神様にとっては、王族のようなものなのだろう。


 想像してた以上のお方にお会いするのだと実感して、緊張から手が震える。


 けれどそんな手をイラホン様が優しく握りしめてくれて、ニコッと微笑んでくださるだけで少しだけ心が安らぐ。


 出迎えに出てきた使用人らしき人物に促されるまま、私達は城のような屋敷へと入っていく。


 視界に入る豪華な調度品、カツンカツンとどこまでも響き渡る足音……イラホン様の屋敷も十分豪華だと思っていたけれど、ここはそう言うレベルではないと感じる。


 緊張・恐怖に苛まれながら廊下を進むと、玉座の間という名がふさわしそうな部屋の前まで到着した。


 使用人が扉を開けると、そこにはまた見たこともない景色が広がっていた。


 建物内のはずなのに天井には淡く青空と雲が広がっていて、細長い部屋の奥には美しいステンドグラスが陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。


 部屋に入り、奥へと歩みを進めていくと、天井の空がゆらゆらと揺らめき流れていることに気がつく。


 あまりの光景に言葉も出せずに見惚れていると、部屋の奥に人がいることにやっと気が付いた。


 ステンドグラスの前に立っていたその御方は、イラホン様とよく似た長い銀髪に淡い水色の瞳。


 目元や口元の些細なシワからイラホン様よりか年上であることは分かったけれど、それがなければほぼ同一人物に見えるほど、イラホン様によく似た美しい姿の方だった。


 紹介されずとも、この御方がイラホン様のお父様なのだろうとすぐに分かった。


 その御方を見かけるとすぐにイラホン様が隣でザッと片膝をついて跪いたので、私もそれに倣ってスカートの裾を掴みながら深くお辞儀をして、失礼のないように最敬礼する。


「空の神が息子イラホン、只今参上いたしました。父上」


 イラホン様がそう仰ると、あぁ……とどうでも良さそうな、まるで呟くような返事が戻ってきた。


「それがお前の選んだ妻か?」


 そしてすぐに本題である私の話が出て、ビクッと身体が震える。


 そんな私と違って、イラホン様はいつもと違った淡々とした口調で答える。


「はい。妻のアルサです」


 懸命に昔、使用人が教えてくれたマナーを思い出す。


 夫に紹介されたら、妻がそれに続くように自己紹介をする……だったはず!


「……アルサと申します。この度はお会いできて光栄でございます」


 できるだけ流暢に、落ち着いて話したつもりだけれど……緊張から喉が異様に乾くように感じる。


 挨拶が済むとイラホン様が立ち上がったので、私もそれに倣って顔をあげる。


 失礼のないように、イラホン様の動きに合わせて……それに意識を集中する。


 直接お顔を見るのは失礼かと思って、少し俯き気味でいるけれど……見られているのを感じて、どうしても緊張してしまう。


「……大地のところの娘より、秀でたところがあるようには見えないな」


 大地のところの娘……三大神で大地を司っている神の娘である、カティ様のことであろう。


 確かに私はカティ様のような美しい髪も瞳も持ち合わせていないし、地位も自信もない……何も言えず、口をつぐんでいることしかできない。


「……そんな理由で、彼女を妻に迎えたのではありません」


 けれど隣でイラホン様がそう言ってくださった。


 心にほわっと温かいものが広がって、勇気が湧いてくる気がした。


 私には何もないけれど、それでも今はイラホン様の妻だ。


 自分に気合を入れ、できるだけ背筋を伸ばしてイラホン様のお父様を……義父となる人の目をしっかりと見つめる。


 見下すこともなく、蔑むこともない……心底興味がないといった視線で私を見る義父。


「ハァ……妻は人間以外を選べ。それを愛妾にするのは構わんが、妻にするのは止せ」


 義父は息子であるイラホン様が私を妻にしたことよりも、人間を妻に迎えたことに反対しているようだった。


 それはもはや私の努力でどうにかなる話ではないのだろう。


「いいえ、私は彼女以外を妻に迎えるつもりはありません。彼女が人間であろうとも、それは変わりません」


 けれどイラホン様は、悩むことなくそう答えてくださる。


 ここで目を逸らすと、そう言ってくださるイラホン様に申し訳が立たない。


 怖い……不安……色々な感情があるけれど、私は真剣な眼差しで義父の目を見つめる。


 イラホン様の妻として、恥ずかしくない振る舞いを。


 だけど義父の興味がないという視線は一向に変わることがなく、私からイラホン様へと移っていった。

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