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第9話 スーツの仕様

 当然のことだが。


 適合者がいないの正規品など、基本的に制作されない。


 七瀬が使うことになった戦闘スーツ、『ジャスティスヒーロー』は試作品である。

 のだが、オタクのこだわりと言うのだろうか、かなり性能は高く……。


「グオオオオオオオオッ! ゴッ、ガアアッ!」


 身長三メートルで、金棒を持った赤鬼に、次々と銃弾を叩き込む。


 何発か、金棒で防ごうとしているが、弾かれず、金棒に傷をしっかりつけている。


 何発も打ち続けていると、赤鬼が倒れて、魔石を残して塵となった。


「……Aランク、天才が挑むような場所に出てくるモンスターなのに、なんかあっさり倒せたな」

「威力が凄いですね! アクアマグナムとは比較になりません!」


 森の中で話しているのは、ジャスティスヒーローを身に着けた七瀬と、そのスーツの取扱説明書を手についてくる美鈴だ。


「スライムの応用か。それでここまでの性能を出せるって、いったいどういう階層のスライムを使ってるんだろうな」

「スライムの擬態には『変色』と『増殖』が含まれますからね! そこに膨大な、『特定の波がある魔力』を流し込むことで、スーツを作ることができるという発想。言われてみればそこまで難しい話ではないですけど……」

「端的に言えば、必要な魔力量が尋常じゃないな。魔法と言うより、錬金術の話だ」

「む?」


 魔法ではなく錬金術。

 このフレーズを聞いて、美鈴は首を傾げた。


「魔力を使って現象を引き起こすのが魔法。魔力を練りこんで物体の性質を変えるのが錬金術だな。砂に魔力を練りこんでから精錬してマナシリコンにするのが一般的だが、これも錬金術の一種らしい」

「おおっ……スマホ一台分のマナトランジスタを作るのに、凄い量の魔石が必要になると聞いたことがありますし、やっぱり錬金術って魔力消費が凄いんですね」

「ああ、ただ……このスーツ。常に魔力を消費し続けてるな。スライムの擬態に含まれる『増殖』と『変色』を途切れさせないために、すさまじい量の魔力を今も使ってる」

「ふむぅ……」


 美鈴はまた首をかしげる。


「なんで、『スーツを作る魔法』ってないんですかね? 魔法でも物質は作れますよね? 地属性魔法なら、石とか岩とか出せるわけですし」

「理論上はできるはずだ。ただ、最適化や軽量化をどれだけやっても、『マナトランジスタの許容限界を超える』ということだろう。だから、スライムのコアと言う、有機的な仕様に頼ってるんだ」

「……え、どんな魔法でも、魔力量が足りていれば使えるんじゃないですか!?」

「んなわけないだろ。スマホや腕輪みたいな大きさの端末に搭載されたマナトランジスタじゃぁ、一度に処理できる魔力量に限界があるさ」

「むむっ……」

「変色の方は『軽い』からいいけど、増殖の方は、すごく処理が重い。だから、マナトランジスタで再現できないから諦めて、こういうデバイスを作ったんだろう」

「ほー……えっ、でも、最初から強いスーツを作れば良いですよね。増殖が厳しいなら、最初からそのスーツを作って、必要になればそれを着て出動すればいいと思いますけど」

「さぁ……まぁ、『変身』したかったんだろうさ」

「むぅ、それを作るための予算を、お魚さんを加工するための設備投資に使っていれば、美味しい魚がたくさん食べられたはずです! なんだかちょっとイライラしますね!」

「……」


 錬金術やマナトランジスタに関して、ある程度の知識がある七瀬からすると。


 戦闘スーツ『ジャスティスヒーロー』は、男のロマンやら子供心やら挫折やら、いろいろ感じ取れるものはある。


 ただ、『美味しい魚を食べたい』という欲求しかない十四歳の少女に、男のロマンを語ったとしてもウザいと思われるだけなのも理解している。


「それにしても、七瀬さんって物知りですね」

「元からそこそこの知識はあるが、大部分は、美鈴が持ってる説明書に書かれてたよ」

「なんですと!?」


 取扱説明書だが、開発の歴史を乗せるという、『俺たちの苦労をわかってくれ!』という意思を感じさせる構造になっているのだ。

 ……まぁ、それを読んでいる美鈴には伝わってなかったようだが。


「まぁ、構造はいいか。今回の俺たちの目的は、このスーツを完成させるために必要なスライムを倒して、コアを持ち帰ることだ」

「それはそうですね! 目標地点の近くには良い釣り堀があると聞いたことがあるので、私も楽しみです!」


 構造の話はずっとすることは可能だが、美鈴が相手ならこれ以上は踏み込んでも意味がない。


「というか、ここくらいの難易度なら、千鳥さんもこれるんじゃないのか?」

「あー、千鳥さんは怪我をしてて、今は探索者としては浅いところしか潜ってない層ですよ」

「……怪我ねぇ。Aランク探索者なら、持ってる端末も性能が高いだろうし、そうなると、『自動障壁』の性能もそれに応じて高くなるはず。驚いただけで落とすスマホじゃなくて、腕輪とかも持ってたと思うがなぁ」


 探索者の怪我。


 近年、かなり少なくなっている。


 デバイスには『自動障壁』のシステムがあるため、これがモンスターの攻撃や罠から守ってくれるからだ。


 そういうシステムが実用的になったからこそ、探索者になるためのハードルは下がっており、日本の探索者は実際に増えているし、その割にけが人はほぼいない。


 もちろん、『足をくじいた』とか、そういう……『準備運動の不足』が原因の怪我は発生するものなので、ゼロとは言わない。

 加えて、デバイスを落としてしまったら、障壁も展開されないので、その場合はモンスターからの攻撃で怪我を負うものだ。


 それはそれとして……Aランク探索者が、そんな初歩的なミスをするのか、と言う話である。


「まぁ、千鳥さんもそのあたりは多くは喋らないので、私も詳しくは知りませんけどね」

「ほー、なるほど」


 踏み込まないというよりは、興味が無いようにも見える。


 もっとも、それに救われる場合もあるのだから、七瀬が指摘するのは野暮と言うものである。

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