第8話 水無月第零セクターにて、特別装備試運転
車に乗って、事務所から研究所に移動する七瀬達。
車には、運転席に秘書の千鳥。助手席に所長の英典。
後部座席に、七瀬と美鈴が乗っている。
「七瀬君。これから向かうのは『水無月第零セクター』と言う研究施設だ」
移動中、英典からそんなことを言われた七瀬。
「第零……第一とか第二とか、他にもいろいろあるんですか?」
「いや、第零だけだ」
「なんで?」
「かっこいいからだ!」
「……」
七瀬から見て、十四歳の娘がいるおっさんの心とは思えないが、まぁ、別にそれで上手くいっているのなら、すでに手遅れなので問題はない。
「千鳥君。到着したら、裏の入り口から入ってくれ」
「……要するに、『すぐにでも試したい』ということですね。施設の案内よりも先にやりたいことがあると」
「そういうことだ。膨大な魔力量がなければ使えない装備がある」
「……まぁ、直感に反することはいくつかありますが、疑問が一個あるので聞いても良いですか?」
「何かな?」
「膨大な魔力がなければ使えない……そんな『属人的』な装備を、その魔力量の持ち主が見つかっていないのに作るというのは、企業の経営としてどうなんですか?」
マナトランジスタによって、強力な魔法はアプリとしてデバイスに入れておくものだ。
後は、それを扱えるだけの魔力量をユーザーが捻出できるかどうか。
高性能の魔法を前提とした装備と言うのはいくつか存在し、荷物持ちの日々の中で何度も見てきたが、『人に合わせて作る』のが一般的。
適した人材が見つかっていないのに、物を作る。
探索事務所の開発部として、正しいとは言えない。
「フフッ、七瀬君。世の中にはね、中二病すらならず、子供心を忘れずに大人になった人間と言うのが、それ相応にいるのさ」
「……そうですか」
良い笑顔でそういわれてしまっては、七瀬としてはどうしようもない。
「むふふ~。良いお魚があると良いですね!」
「え、ちょっと待って、魚? 装備があるんじゃないのか?」
「ダンジョンから取れた魚を加工する工場もあるんですよ!」
「なんでそんな、保健所がキレそうな感じになってるんだ!?」
回転寿司がビルの一階にあったので、どこかに魚を加工する場所があるのはわかる。
もっとも、加工する現場は大抵、どこか別の企業であることがほとんどだろう。
魚の加工まで自社でやる企業は珍しい。
もちろん、自社でやれるならそれはそれで構わない。
のだが、何故それを、『探索者の装備開発の隣』でやるのか。
七瀬には、意味が分からない。
★
水無月第零セクターに到着した一行だが、車は裏口から入っていく。
そのまま、大きな工場……の隣にある、頑丈なつくりの建物に入っていった。
「……お父さん、大丈夫? めっちゃソワソワしてますけど」
「ふ、フフッ、アクアマグナムを連射してケロッとするその魔力量が事実ならば、『アレ』が使えるはず。長年の悲願が目の前に迫っているんだ。感情が高ぶってちょっとおかしくなっているのは自覚してる」
「一体、何を置いてるんだ?」
一体自分がどんな装備のテストをするのか。
頬が引きつってきた七瀬だが、契約してしまったものはしかたがない。
車はそのまま、頑丈な建物に入っていく。
広々とした空間を求めて建造されたためか、『実験室』としての側面があるのだろう。
物流倉庫を改装して、実験に耐えられるようにした。と言った雰囲気だ。
内部は広々としており、様々な機材が置かれている。
「ちょっと待っていてくれ」
車から降りた英典は、小走りで実験場から去っていった。
「……一体、何が待ってるんだ?」
「お魚さんは置いてなさそうですね……」
しょんぼりしている美鈴。
どうやら、探索事務所に所属はしているが、『装備開発』にはそこまで興味が無いのかもしれない。
で、数分後。
「アレが使えるかもしれないって本当か!」
「ついに、俺たちの悲願が、ロマンがあああっ!」
ぞろぞろと中年男性を何人もつれて、英典が一つのアタッシュケースを手に戻ってきた。
「……フフッ、見てくれ、七瀬君」
そういって、英典はアタッシュケースを開く。
中には……アクアマグナムに似通った、一丁の銃型デバイスが入っている。
「銃ですか……アクアマグナムの強化版とか?」
「いや、あれは副産物をちょっと形にしたようなものでね……グリップをしっかり握ってくれ」
「はい」
ウレタンの窪みに収められた銃型デバイスを取り出して、グリップをしっかり握る。
「撃鉄に当たる部分にコアを埋め込んである。そこに魔力をとにかく流し込んでくれ」
「はい」
魔力をとにかく流す。
……アクアマグナムの『一発の消費量』もかなりのものだが、このデバイスは更にすさまじい。
ただ、指輪による魔力のブーストがあるためか、あまり、魔力を消費している感じはしない。
「お、おお……よし、トリガーを引いてくれ」
「はい」
トリガーを引く。
次の瞬間、撃鉄部分から、大量の、粘性が高そうな液体があふれ出た。
「うおっ! なんじゃこりゃ!」
七瀬が驚いている間に、液体が七瀬の腕を、体を、足を、頭を、瞬時に覆っていく。
それらは、光沢のある戦闘用スーツに変貌する。
最終的に……無駄にスタイリッシュな、なんだか特撮に出てきそうな姿になった。
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」」
「「「「変身出来たあああああああああああああああああっ!」」」」
「悲願が、達成した!」
「ロマンが目の前に、うおおおおおおおおっ! うおおおおおおおおっ!」
中年男性たちが歓喜の咆哮を上げてガッツポーズをしている。
(……)
内心、困惑していた七瀬だが。
ピシッとポーズを決めて、一言。
「さあ、俺の自慢話。付き合ってもらうぜ!」
決まった!
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」」
「「「「キタアアアアアアアアアアアアアアアッ!」」」」
「「「「ジャスティスヒーローーーーーーーーッ!」」」」
再び大興奮の中年男性たち。
「……で、あの、説明を求めていいか?」
切実な要求であった。
「もちろんだ。もちろんだ! 七瀬君。私は非常に感激している! 全てを教えよう。君はその戦闘スーツ、『ジャスティスヒーロー』の適合者だ!」
「このスーツの名前、『ジャスティスヒーロー』かよ……」
ファンサで決めセリフを宣うのはともかく。
七瀬としては、ここまで手遅れな現場に遭遇するのは初めてである。
「……あの、千鳥さん。アレがあれば、今までよりも良い釣り堀に行けたりしますかね?」
「もちろん」
「うおおおっ! 美味しいマグロが待ってるですうううっ!」
変身で盛り上がっている中年男性たちの傍で、真顔の女性二人が『どうしたものか』となっていたが。
美鈴が千鳥に『良い釣り堀』について確認すると、千鳥は頷いたので、よかったらしい。
凄く温度に差があるが……まぁ、そんなものだろう。




