第21話 麻痺弾完成。次はダンテナウド洞窟へ
「ジャスティスパルス。完成だ!」
「「「よっしゃああああああああああああああああああっ!」」」
物流倉庫を改造したと思わせる実験室で、おっさんたちが歓喜の声を出していた。
「銃の先端に接続するアタッチメントか。これを付けて撃てば、麻痺弾が打てると」
「その通り! 殺傷力はほぼないが、めっちゃビクンビクンってさせることができるというわけだ!」
「14歳の娘がいるおっさんがビクンビクンとか言うな」
当然、喜んでいるのは所長の水無月英典も同じだが、明らかに口から出てくる言語が14歳の娘がいるおっさんとしてはアウトである。
「これがあれば、ダンテナウド洞窟の隠しボスを、マグロが食べられない状態で倒せるんですね!」
目をキラキラさせている美鈴。
そもそも今回の安全エリアとスライム素材を求めていた理由として。
新装備の開発と言うこともあるが、その新装備である麻痺弾があれば、『ダンテナウド洞窟』の上層にいる隠しボスを倒せるということだ。
厳密に言えば、ただ倒すだけならこの新装備は要らないのだが、この隠しボスはピンチになると、奥にある水場からマグロを取り出して丸呑みするという、気が狂っているとしか思えないことをやるのだ。
そのマグロはダンテナウド洞窟において最も美味なマグロであり、麻痺弾で食べられるのを防いだ状態で倒すと、マグロがダンジョン下層の釣り堀に流れていく。
こうすることで、極上のマグロを手に入れることができる。
で。
そのマグロを手に入れるための麻痺弾を作るためのスライムの素材が、脱色薬の密造工場によって汚染されていた。と言う流れだ。
非常にめんどくさいことこの上ない状態になっていたが、これでマグロを手に入れることができる。
お魚大好きの美鈴にとっては、極上のマグロが手に入るのは喜ぶことであり、もうすでにヨダレが垂れている。
「麻痺弾を打てることで勝てるモンスターは多そう……というより、わざわざ麻痺弾を使わずとも勝てるモンスターの方が多そうですが」
「そうか?」
「ええ、あのダンジョンに出てきていた『赤鬼』ですが、あれは雷属性が弱点な反面、物理耐性がかなり強固です。それを、スライムの物理弾だけで圧倒できるとなると、そもそも勝てないと思われるモンスターは少ないはず」
「……まぁ、いろんなパーティーの荷物持ちをしていた俺の一つの意見としては、『ダンジョンってのはパワープレイで望んだ報酬が手に入るとは限らない』とだけ言っておくよ」
「言われてみればその通りですね。スーツという存在自体が馬鹿馬鹿しすぎて忘れてました」
「まぁそれが普通だと思う」
七瀬もだんだんひどくなってきた。
子供心としては『変身出来る』というのは楽しいことなのかもしれないが、オタクの中年男性が大喜びしているのを見ると、自分はこのままでいいのかと言う発想になるのだろう。
ただ、七瀬と千鳥が話していることそのものは真面目だ。
確かにジャスティスヒーローは性能が圧倒的で、物理だけでも相当な攻撃力を持っている。
新装備など態々作らなくても、倒せるモンスターは多いだろう。
七瀬が圧倒的な魔力量を実現するからこそのストロングスタイルであり、デバイスに組み込まれたマナトランジスタの処理限界を超えた規模を連発できる。
しかし、何度も言うが、探索者と言うのは『工場の規格に適した状態』で物を持ち帰ってこないと意味がない。
産業の発展とは細分化の歴史でもある。
加工設備が受け入れるための条件設定も複雑になることが多く、その場合は企業が専属の探索者を抱えることが多いだろう。その上で、専属ではないフリーの探索者であっても、『素材は慎重に扱う』と言うのは求められることだ。
新装備の開発と言うのは、素材を丁寧に扱うための手段の開発でもある。
「あとはこれを使って、ダンテナウド洞窟に入るですうううっ!」
「マグロを目当てにダンジョンに。か……他では聞かないな」
「あ、七瀬君。ダンテナウド洞窟においても、スーツの新装備開発に使えそうな素材はいくつかある。リストにしておいたから、なるべく集めてくれると助かる」
「……わかりました」
紙束を受け取って、パラパラめくって……。
「なんかシンプルにめんどくさいことが書かれてる気がしなくもないが、まぁ、なるべく集めるか」
「……」
千鳥が七瀬のことを、『オタクの趣味に巻き込まれたかわいそうな若者』を見るような目で見ているが。
彼女としても、別に止めようとはしなかった。
止めたとしても誰も幸せにならないので。




