第19話 地獄のような事情聴取
「え、えーと、このスーツは」
「ジャスティスヒーローです!」
「じ、ジャスティス……あの、獅子原をどうやって制圧したの?」
「バチッ! とやってギュッと締め上げたんです!」
……地獄のような光景である。
(獅子原を警察に渡したのは良いが、そもそもあいつが持ってた犯罪に関わりそうなものって、『拠点に戻るための何らかのアイテム』くらいだもんな。俺たちから詳しく話を聞く必要があるのはわかるんだが……)
美鈴の隣で、スーツを解除した七瀬は内心で苦笑していた。
獅子原を気絶させて、警察に通報して数十分。
安全エリアに警察官が入ってきて、獅子原を引き渡した……のは良いのだが、警察目線、『獅子原を気絶させた人たち』と、『犯罪にかかわる可能性持った気絶してる男』という、微妙に真相がわからない感じになっていた。
そのため、安全エリアで、その場で事情聴取をすることになったわけだが、美鈴があれこれいって迷惑をかけまくっている。
「えー……確かに、獅子原が持っていた『帰還用アイテム』は、最近、裏で出回り始めた認識阻害結界に関わるところで出てくるか……」
警察官としては、獅子原が持っていたアイテムを確認した時点でほぼアウトだったようだが、それでも事情聴取をする必要はあったということなのだろう。
ただ……この場面においては、『口を滑らせた』と言った方が正しい。
「えっ、認識阻害結界って、思ったより出回ってるんですか?」
美鈴が首を傾げた。
「はぁ……美鈴、この手の『ダンジョンを拠点とする犯罪施設』ってのは、情報の扱いを慎重にする必要があるんだよ」
「そうですね。ダンジョン探索は安全であるという認識が崩れると、産業が一気に停滞します。『自分が入るダンジョンに悪い人がいたらどうしよう』と不安になるのは、明らかに悪影響ですから」
「おー……大人の事情というヤツですね!」
実際、大人の事情も含まれる。
そして、美鈴の場合は釘をさしておく必要がある。
「それはそうだが、こういう話の場合、確信できない情報を広めるのは本当にやめるんだぞ? 冗談が通じない場合があるからな」
「え、どういうことですか?」
「特定のダンジョンの素材に依存する装備開発会社があったとして、そのダンジョンに犯罪組織が入ったとなれば、株価が下がるんだよ」
「えっ、そんなことになるんですか!?」
「ああ。これ見てみろ。『犯罪組織がダンジョンに入ったと偽の噂を流した高校生に、2000万円の損害賠償』ってニュースもあるんだ」
七瀬はスマホでその記事を検索して、美鈴に見せる。
「に、2000万円の損害賠償!? そんなの払えないですうううっ!」
「こういうのを『やってはいけない冗談』って言うんだ。美鈴もやらないようにな」
「絶対やらないですうううっ!」
七瀬は内心でため息をついた。
「釘をさすのはこれくらいで良いとして……私見を述べるなとは言いませんけど、ちょっとうかつでしたね」
「す、すみません」
警察官も苦々しい顔だ。
「ただ、調査は任せます。実際、川の水質が悪いことはここで証明できますし……検査アプリに関しては、警察官に支給されるデバイスの方が正確でしょうから」
警察官と合流した安全エリア内で事情聴取をしているのだ。
川の水が傍にあり、そこの水質が極端に悪ければ、『警察としても動ける』だろう。
「ええ、この後、調査させていただきます。ご報告、ありがとうございました。事情聴取は以上です」
「ふむむ……この後はどうなるんですか?」
「警察の中で専門の部隊が結成、工場は制圧されるだろ。獅子原が言ってたが、他に強い人はいないらしいからな……まぁ、俺たちを揺さぶるためにいったフェイクの可能性もあるから、まずは調査からするだろうけど。いずれにせよ、こういうのは専門家に任せるべきだ」
「むー……」
「俺たちの目的は、スライム素材と魚だ。工場が稼働しなくなれば、排水もなくなって、スライムも魚も元に戻る」
「むっ! わかりました!」
美鈴はにぱっ! と笑顔になる。
「美味しいお魚をたくさん食べたいんです! なるはやでお願いしますよ!」
「ええ、ここまで証拠がそろってれば、上もすぐに動けるはず。任せてください」
というわけで、工場の制圧に関しては公的機関に任せることに。
ただ、七瀬も気が付いていなかったことだが。
今回のような『認識阻害結界の犯罪施設が制圧される成功事例』を作ることが、裏社会にどういう影響をもたらすのか。
それを想定していなかったことによる弊害は生まれるのだが。
また、別の話である。




