83話 S級昇級試験 01
君主アルフレート・フォン・ミネストローネ公爵生誕式典の日の夕方、ケンはブイヨン邸の屋根の上に息を潜めていた。
スナイパーライフルを構え、スコープを覗き込む。
その先には、君主と思われる人物の姿があった。
その隣にはヴィシ・ブイヨン子爵……いや、今は伯爵となったヴィシ・ブイヨン伯爵が立っている。
ケンの持つスナイパーライフルに魔力が籠もる。
スナイパーライフルの内部で、石の弾丸が形成されていく。
その時、ブイヨン伯爵から合図の光が走った。
「今だ!」
ケンはスナイパーライフルの引き金を引いた!
ヒュ~~~~~~~~~ ド~~~ン!!!
屋根の下からパッツアの声が聞こえてきた。
「し、師匠! 何ですか、今の音は!?」
「無音で打ち上げても方向が分からないだろ! だから方向を知らせるために、石笛も一緒に飛ばしたんだ!」
「そうだったんですか! 流石、師匠です!」
「ここは花火の真下だからうるさいだろ。窓を閉めていなさい!」
「はい、分かりました!」
「俺も終わったら庭に行くから! 食事を残しておいて!」
「分かりました! 給仕の方に言っておきます!」
ブイヨン邸では花火が上がると分かっているため、今日は庭でバーベキューが行われている。
そんな中、ケンは花火を打ち上げるため、一人で屋根の上から花火の魔法を撃ち続けている。
結局、花火の魔法を使える者はケン以外にはいなかった。
アクアとシオンは炎の色を変えることはできたものの、肝心のエクスプロージョンの魔法で、爆発する範囲のイメージがケンと合わず、上手くいかなかった。
元々、エクスプロージョンの魔法自体、直径十メートルも爆発させれば大成功な魔法なのだ。
しかし、ケンは三号玉、直径六十メートルを基準に考えていた。
そんなものを誰もできるはずがなく、結局、ケン一人で打ち上げることになった。
「よし、これで最後だ! 景気よく尺玉行くか!」
ケンはより強く魔力を籠める。
そのイメージは、昔、サオリとデートで行った花火大会で見た尺玉。
直径三百二十メートルにもなる、大輪の花火だった。
より高く、より大きく。
そのイメージを頭の中に描きながら、ケンは花火の魔法をスナイパーライフルの石笛と一緒に空へと飛ばす。
ヒュ~~~~~~~~~~~~ ド~~~~ン!!!!
夜空に巨大な花が咲き誇る。
こうして、君主の生誕式典は大成功で終わった。
――次の日。
ケンは考え込んでいた。
考え込んでいる内容は、どこまで手を抜けばいいのかということだった。
バルガスの言葉は信用している。
自分のとんでもない実力も理解している。
だが、相手はS級の中でもトップと言われている冒険者たちだ。
そんな人たちを相手に、手加減をして見せ場まで作れという。
はっきり言って、無茶ぶりもいいところだ。
自分の実力を理解していても、実際に上手く手加減できるかどうかは別問題である。
「う~~ん……」
そんなことを考え込んでいるケンの隣では、パッツアが大鎌を振って訓練している。
さらに、その周りでは銀翼の旅団のメンバーたちも、それぞれ個人練習をしていた。
「師匠~、何か僕にアドバイスとかないんですか?」
「アドバイスって、俺、剣とか扱えないけど?」
「扱えなくても、こういうポーズがカッコよく見えるとか、あるじゃないですか!」
「カッコよく見えるポーズって……そもそも、何で大鎌なんて武器を使ってるんだ?」
「それはですねぇ……僕のもう一人の師匠、ジャン・クロード・ヴァンドレッド師匠に言われたのです!」
「……あのバカ魔王、ジャン・クロード・ヴァンドレッドって言うんだ……。で、そのヴァンドレッドが何て言ったんだ?」
「師匠、バンじゃなくてヴァンですよ。そのヴァンドレッド師匠は、『大鎌はモテるぞ!』って言われたのです!」
「ほ~う。それでモテるようになって、ヴァンみたいに妻を侍らせたいのか?」
「もちろんです! そんなの全男子の夢じゃないですか!!」
「ほうほう。それはリナの父親である俺を前にして言うってことは、意味を分かってるんだよなぁぁぁあ!」
「はっ! ま、まさか誘導尋問!? な、何を言ってるんですか、お義父様! ぼ、僕はリナさん一筋ですよ!」
「君にお義父さんって呼ばれる筋合いはない! ……全く。そもそも、その大鎌だって俺には穴だらけの武器に見えるんだが」
「そ、そんな! 師匠が勧めた武器ですよ! 穴なんてあるわけないじゃないですか!」
「じゃあ、試してみようか」




