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美容師パパは魔道具担当、料理人ママは飯担当、娘は赤点担当の勇者です  ~異世界の隅っこで、家族スローライフ始めました~   作者: antomopapa


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第59話 癒しのカレーと、オークの森の火種



 朝から三好家はそろって冒険者ギルドへ向かった。土地の件、そしてケンが持ち帰った“オークの話”――報告すべきことが山ほどある。

 ギルドの扉をくぐると、受付の女性がすぐに気づいて顔を上げた。

「おはようございます。ガンツさんか、バルガスさんって手が空いてますか?」

 ケンがそう切り出した瞬間、受付の女性の表情がぱっと変わる。

「あっ……おはようございます。ケンさんとリナさん、と……サ、サオリさん! 少しお待ちください。ギルドマスターを呼んできます!」

 そう言い残して、受付は駆け足で奥へ消えた。

 その背中を見送りながら、ケンがぼそっと言う。

「……サオリ? お前、何したんだ?」

「え、私? 何もしてないわよ」

 サオリは心底心当たりがない顔をする。横でリナが小さく笑った。

「ママ、あれじゃない? グレートジャイアントボア倒したの」

「でもあれって、あなた達が討伐したことになってるでしょ?」

「でも前、ガンツさんにバレたじゃん」

 リナが言うと、ケンは肩をすくめた。

「昨日言ってたデカい猪の話か? もうそれくらいじゃ呼び出されることはないと思うぞ」

「……家の基準が世間とどんどんずれてる気がするんだけど」

「まあ神様のおかげだな」

 そんなやり取りをしているうちに、受付が戻ってきた。

「皆さん、こちらへどうぞ」

 三人はそのままギルドマスター室へ案内された。

     *

 部屋の中にはバルガスがいて、さらにガンツまで同席していた。

「おはようございます。今日は何の話ですか? 俺も話があったんですけど」

 ケンが挨拶すると、バルガスは手を上げて遮った。

「すまんな。その話は後だ。まずは――サオリさん」

 バルガスが真正面から聞いてくる。

「一昨日、広場で出した食事は何だ?」

「カレーのことですか?」

「カレーと言うのか」

 バルガスは咳払いをして続けた。

「実はそのカレーを食べた冒険者たちが、傷が治ったという報告があったんだ。何か心当たりはないか?」

「心当たりですか?」

 サオリは首を傾げる。本当に分かっていないらしい。

「いえ……レシピも普通ですし、スパイスだって普通のものですよ。しょうが、ガーリック、クミン、コリアンダー、ターメリック、ナツメグ、胡椒に唐辛子」

 その瞬間、リナが笑いをこらえたような顔になる。

「ママ、ほんとに気づいてないの?」

 ケンが助け船を出した。

「サオリ。そのスパイス、こっちの言葉で言ってごらん」

「え、こっちの言葉?」

 サオリは指を折り、口に出していく。

「ショウバ、ガリケ、クミン……ヒーリングフラワー……」

 そこで、サオリの目が大きくなる。

「あっ、そういうこと?」

 ケンが頷いた。

「バルガスさん。このカレー、中にヒーリングフラワーとマジックフラワーが入ってるんです」

 バルガスの眉が跳ね上がる。

「ヒーリングフラワーとマジックフラワーを料理に使う……そんなことして、なんて非常識なことをしてるんだ!」

「え? そんな非常識なことですか?」

 サオリが驚くと、ケンが補足する。

「俺たちの世界では、それがターメリックとコリアンダーって名前で普通に使われてたんですよ。料理に使うのが非常識って感覚がなくて」

 さらにケンは現実的な線を突く。

「それに、ギルドの依頼分はちゃんと納品して、その余剰分を食材として使ってるなら、ギルドとしても“ダメ”とは言いにくいですよね?」

「うむ……」

 バルガスは腕を組み、数秒だけ唸ったあと、息を吐いた。

「……確かにそうだな。いや、すまん。忘れてくれ」

 リナが横からにやにやする。

「良かったねママ。私も“ヨジョウブン”って食材、食べてみたい」

「リナ、ちょっと黙っててね」

「ブー」

 そんなやり取りに、ガンツが肩を震わせて笑いそうになっていた。

     *

 バルガスが話を締めようとすると、ケンが手を上げた。

「話は終わりましたね。俺の話です。ギルドの……オークの待遇の話なんですけど」

「オーク?」

 バルガスの顔が一段険しくなる。

「オークはただの討伐対象だろ。それ以上でも以下でもない」

「俺もそう聞いてたんですけど、この前オークの森を通り過ぎたんです」

「オークの森を通り過ぎる? それは確実に非常識だろ」

 即答だった。ケンは苦笑する。

「その話は置いておいてください。自覚もあるんで」

 そして、落ち着いて続きを話した。森でオークの集落を見つけ、アースベアに襲われているのを助けたこと。言語理解のスキルで会話が成立したこと。集落の長とも話をしたこと。

「そこで疑問が出たんです。オークって討伐対象でいいのかって。俺の勝手な考えですけど、オークって“魔獣と獣人族の中間”くらいの存在じゃないかって」

 バルガスは難しい顔で沈黙した。ケンはさらに踏み込む。

「そもそも初めに“オークは魔物”と判断した人は、ちゃんと調べて分類したんでしょうか。思い込みで決まってないかって」

 バルガスは机を指で叩き、やがて言った。

「難しい話になってきたな……。取り敢えずブイヨン子爵には話をしておく。確かに『言語理解』のスキルを持つお前たちしか分からなかった問題だ」

 そして少し声を落とす。

「こういう問題は、過去の遺恨やらで根が深くなることが多いが……師匠は一番寛容な部分でもある。悪いようにはならんと思うぞ」

「そう言っていただけると安心です」

「今から師匠の所に行って来る。後で師匠に呼び出されるかもしれないから準備だけしておいてくれ」

「分かりました。俺たちは商業ギルドに用があるので、そっちにいます」

「ああ、分かった」

 話がまとまり、三好家は商業ギルドへ向かった。

     *

 商業ギルドの受付でも、同じ光景が繰り返された。

「おはようございます」

 挨拶した瞬間、受付の女性がびくっとして――

「お、おはようございます。ケンさん、とサ、サオリさん! 少々お待ちください!」

 そして走り去っていく。

「さっきも見た光景だな」

「ええ、見たわね」

「うん、見たね」

 三人が顔を見合わせたところで、奥から一人の男性が現れた。

 細身で背筋が伸び、グレイヘアがよく似合う。いかにも“仕事ができる”という雰囲気の紳士だ。

「初めまして。ケンさん、サオリさん。私はこの商業ギルドのギルドマスターをしております、ハワードと申します」

「初めまして、ケンです」

「サオリです。それで、ギルドマスターが何の御用で?」

 サオリの問いに、ハワードは目を輝かせた。

「実はサオリさんの料理の評判を聞きましてね。大変すばらしい“カレー”なる料理をお作りになったとか」

「ええ、そうですね。作りました」

「何でも傷を癒す効果のある料理だとか」

「ええ、そんな話も聞きました」

 ケンが横から入る。

「実はですね。先ほど冒険者ギルドでその話をしたところでして」

「そうでしたか」

 ハワードは一度深呼吸し、そして一気に言った。

「では単刀直入に申します。サオリさん、カレーのレシピを公開していただけませんか?」

「レシピの公開?」

「ええ。このカレーは確実に売れます。いや、コトコト村の名物になります」

 ハワードは興奮しながら語った。ダンジョンの出現で村が発展していくこと。外から来た冒険者が傷つき、食堂で食事をすること。その時に“美味しくて傷を癒すカレー”があれば評判になり、村の金が回り、商業ギルドも村もさらに発展すること。

「この話を聞いたとき、私は運命を――」

 そこまで熱弁を始めたところで、ケンがリナの肩を軽く叩いた。

「おい、リナ。寝るな」

「っは! いやだな~、私がネルワケナイヨ!」

 目を見開くリナに、ハワードがはっとして咳払いをした。

「失礼しました。つい興奮してしまって」

 サオリは落ち着いて答える。

「大丈夫ですよ。レシピの公開は、ブイヨン子爵様の料理人にはしようと思ってましたし」

 そしてきっぱり言った。

「ただ、私の一存では決められません。子爵様に許可を取っていただければ、こちらは問題ありません」

「……ありがとうございます!」

 ハワードの顔がぱっと明るくなる。

 そのタイミングで、受付の女性が部屋へ駆け込んできた。

「ケン様、サオリ様、リナ様! ブイヨン子爵様がお呼びです!」

 ハワードが即座に立ち上がる。

「ちょうどよかった。私も行きましょう」

 こうして三好家は、商業ギルドマスターのハワードと共に、ブイヨン子爵邸へ向かうことになった。

 癒しのカレーは、村の名物へ――そしてオークの森の話は、村の未来へ。

 二つの“火種”を抱えたまま、物語は次の扉へ進んでいく。


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