最終話.生きてさえいれば
結局戦争は、結局この1回で終わったらしい。
和平条約が結ばれ、隣国は撤退した。
僕は学校生活に戻ることになったが、しばらく休んでいる。
学校側も生徒の3割が返ってこなかったことを配慮し、1か月の臨時休暇を生徒に与えていた。
イスカは戻ってこなかった。
聞けば、早々に矢が当たって倒れて、それきり目を開ける事はなかったそうだ。
あっけなかったな。
でも、苦しまなければ、まだ・・・。
お悔みの手紙を送ると、平民の僕に丁寧な感謝の手紙と使いが来た。
イスカも、いい家庭で生きたんだな。
家に戻ったら、凱旋だ、名誉だと褒め称えられた。
僕には他人事のように思えて、不自然に笑うことしかできなかった。
だんだん居心地が悪くなり、自然と寮に戻っていた。
そのあと、お父さんの日記を読んだ。
僕も、どう返していいかわからない。
どう向き合えばいいか、わからなかった。
お父さんが「それだけでいい」って書いた後、しばらく動かないのが見えた時。
・・・僕は、僕もなにもできないと思った。
もう、前の世界には戻れないような気がしていた。
これからのことは、自分で考えなければいけない。
そう思うと、涙が止まらない。
でも、このままでもいけない。
決めなければ。
僕は歩いていく。
自分の足で。
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先日亡くなった二等文官ショウ・イグの自宅には沢山の日記があった。
高等学校時代から続き、のべ数十冊見つかっている。
日記の内容は終始、親への報告だった。
イグ家の親族に聞いてみたが、そんな話、そんな日記があることも知らなかった、と報告を受けた。
なお、散見される意味の分からない単語があること、彼の両親がいなくなっても続いていることから、あの戦時による精神的な影響が出ているのではないか、と予想されている。
また、晩年の日記になるにつれ、両親に対して感謝と謝罪が繰り返されていた。
彼の臨終の間際、"誰か"と話をしていた様子が、近くにいた弟子に目撃されている。
誰も見たことがないほどの無邪気な笑顔だったそうだ。
その誰かは、もう、彼にしかわからない。
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洋子が、大きなため息を吐いて、話し始めた。
「・・・いなくなりましたね」
「ああ」
「・・・先に行くなんて、親不孝ですね」
「ああ」
私たちにとっては約5年の出来事。
その間に翔太は大きくなり、それなりの地位を築いていっていた。
翔太はあの後卒業し、無事文官となった。
流通の担当となり、商業的価値を重んじる国としては、重要なセクションを任された。
向こうの家もそれなりに裕福になったようだ。
翔太が結婚し、孫が生まれたときは、洋子が一生懸命、あなたに見せたいと、似顔絵を描いてくれた。
全然うまく書けない、と嘆いていたが、俺も孫の声をどう現していいかわからず、お互い様だと笑った。
抱いてみたかったな。
それが名残惜しかった。
二等文官として出世したときはとても喜んだ。
平民出としては珍しいそうで、それだけ翔太の努力が実を結んだこと、今でも誇らしい。
息子の成長、努力を喜び、レストランの予約をして、食事をした。
ここでは2人だけど、3人分の席の予約。
今までの翔太のことを洋子と話あって、笑いあって。
その帰り道に2人で・・・泣いた。
誰にも言えなかったのも、少し残念だったが。
翔太が精一杯、もがきながらも生きていることが、何よりうれしかった。
よかった。
本当に良かった。
生きていてくれて。
自分の人生を歩んでくれて。
4年目になるころには、息子というには、年上になりすぎたが、翔太は変わらず、私たちに日記を寄越してくれた。
「最後に・・・少しだけ話せたよ」
「ええ。とても、とっても嬉しそうだったわ」
結局哲也に翔太の声が届いたのは、翔太が旅立つ最後の2時間ほどだけ。
2人で無理して笑って、バカを言い、そして泣いて、翔太から、ありがとう、と聞こえたところでなにも聞こえなくなった。
ラジオを消したように。
そして洋子はテレビが消えたように。
「でも、まあ・・・こう言っていいか分らないけど、最後まで見送れてよかったよ」
「そうね。私たちも頑張らないとね」
2人には喪失感もあったが、6年前の何もかも失ったような気持ちはもう、ない。
翔太の一生分が自分たちの中にある。思い出として。
部屋の隅には、向こうと同じ数の日記があった。
俺たちの分、そして翔太の分の写し。
これは俺たち家族の会話。
俺たち3人の、かけがえのない思い出。
最後まで読んでくださった方がいらっしゃいましたら、その方へ。
ありがとうございました。
転生ものって書きやすいのかな、って思って書きましたが、暗めの話になってしまいました。
もともと転生したってそんなにうまくいかないと思ったので、そんな感じに書き続けてみたら、親ってどうなるのって気になって続けたらこうなりました。
ではまた。