此処に
此処にいてはいけない、といわれたら、やっぱり出ていくしかない。
でも、どこに行こう?
きょろきょろと視界をめぐらす私は、不意に逞しい腕に抱きしめられてしまう。
他の誰でもない、魔王様の手によって。
えええ、!?なに!?なに?!
後ろから抱きすくめられているので、魔王様の顔は見えない。
「ま、魔王様?どうかしたんですか?」
そうやって一応問いかけてみる。
くるりと、体を相手と向き合うようにされた。紫の瞳と視線がぶつかる。
「逃がさない。」
一言、それだけ呟かれた。
とたん、ぞくりと背筋が震えた。
本能的に、というのはこういう事を言うのだろう。
怖い、と切に思った。
ぎゅう、と強く抱かれる。壊れてしまいそうなほどに。
でも、それを居心地がよいと思ってしまう私もどこかにいて。
「この娘はこの城に置く。いいな。」
え?
「……御意。」
え?
な、なんか話が勝手にすすんじゃってるみたいだけど、いいのかな?
さっきの従者?みたいな人、反対みたいだったけど、いいのかな?
従者さんの方に視線をやった。
ばっちりと視線があったのに、ふい、と俯かれ視線は外された。
な、なんだかショックだ……。
改めて魔王様の方に振り返った。
紫色の瞳の彼は、相変わらず無表情のままだ。
でも、その表情さえ、どこかやさしいと思えるほどで。
「わ、私、此処にいてもいいんですか?」
「ああ。」
「迷惑かけちゃうかもしれませんよ…?」
「構わない。」
「わ、私なんかを…、」
ふいにそこで、言葉を遮られた。
「お前だから、ここに置きたい。」
胸がじんわりと暖かくなったのと同時に、とくんと胸が跳ねたのは、きっと気のせい。