表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/6

第5話 二人は「少女を体を売る世界へと誘導する巨大な舗装された道」を見つける

中学2年生の赤嶺優花あかみね ゆか速見葵はやみ あおいの二人は体を売ろうとしていた少女と出会ったことから、自分達が手にした魔法の腕輪の力で彼女のような人達の力になりたいと考え、そうした少女達が集まる“少女市場”と呼ばれるヒナ裏という場所へと足を運んだ。そしてヒナ裏にいる何人かの少女と交流する中で、そうした少女達を見る二人の視線に変化が生まれつつあった。


優花と葵は学校の帰り道にいつも通る団地のベンチに座っていた。帰り道では他愛もない話をしていた二人だったが、ベンチに座ると葵がヒナ裏にいる少女達のことについて話し始めた。


「ヒナ裏に行くようになってからあそこで体を売って暮らしてる子達のことをずっと考えててさ。そうしてる内に最初にここで体を売ろうとしてたアイナと会ったときとは、なんか考えが変わってきてて」


その言葉を聞いた優花は、もう少し葵の考えを深く聞いてみたいと感じていた。


『うん、私もそうなんだけど、葵としてはどんなふうな考えになってきたの?』


「最初はね、「みんななんで体を売ってしまうんだろう」って思ってた。素朴な疑問みたいな感じで」


「でもね、ふと思ったんだよ。もし私自身が家で親に虐待されたりネグレクトを受けていて、そこから逃げるためにもう家には帰らないと決心して家出した場合・・・そのとき私は「自分は絶対に体を売らずに生きる」という選択を本当にできるのだろうかって」


「そのことを考えれば考えるほど、「もし自分もヒナ裏にいる子達と同じ境遇だったら、体を売って生きる道を選んだんじゃないだろうか」って思えてきてさ」


『うん、私も同じようなことを考えてた』


葵の話を聞いて優花がうなずく。


『私達はこうやって運良く普通に暮らせてるし、だから体を売ろうなんて考えたこともなかったから体を売る子達の気持ちが全くわからなかったけど・・・「でももし自分があの子達と同じ立場だったら」って考えた瞬間にそれが全部崩れちゃって』


『私達の年齢じゃ絶対にどこも働かせてくれないよね。高校生の年齢だったらバイトできるかなって思って少し調べたんだけど、高校生の年齢でも働くには親の同意書みたいなのがいるみたいで』


『でもヒナ裏に来てる子はほとんどみんな家出してるから、そんなの出してもらえるはずがないし』


『だから家出して普通に働いて暮らそうと思ってもほぼ無理みたいで・・・』


優花に続けるように葵が話し始める。


「それにさ・・・私達って「自分達ぐらいの年の子を買いたがっている男がたくさんいる」ってことをみんな知ってるよね。誰かにはっきりと教えられたわけでも、自分で調べたとかでもないのに」


「「おまえら若い女の“性”は金になるんだぞ」って、いつのまにか頭の中に刷り込まれてるというか」


「たとえばSNSで「家出した」って書いたら急に大量の男の人からDMが来るとか、そういう話をいつのまにか知ってて、「もし普通に働くことができなくても、体さえ売ればおまえらは金を稼げるぞ」ということを“学ばされてる”というか・・・」


そこまで言うと、葵は数分ほど言葉に詰まって沈黙した。そして少しずつ口を開き始めた。


「なんていうか・・・どう説明すればいいのかわからないんだけど・・・家出してからの生活を道を歩いて行くような感じにたとえたらさ」


「道はたくさん枝分かれしていて、一応どの道も選べるように見えるけど、ほとんどの“生き方の道”は細くて行き止まりだったり、とんでもなく荒れて歩けないような道なのに、“体を売るという道”だけはものすごく広くてきれいに舗装ほそうされてるみたいな」


「他の道は選べるように見えて選べないのに、“体を売るという道”だけは大きな看板がかけられていて、「家出した若い女はこっちだよ」と知らず知らずに誘導されていくというか」


「それに・・・誰かにはっきりとわかりやすく強制されてるわけでもないから、自分自身でも「自分でそういう生き方を選んだだけ」みたいに思ってしまったりとか」


「そういうことを考えてると、これってまるで道に迷ったアリがうまく誘導されてアリジゴクの罠に吸い込まれていってるみたいに思えてきてさ」


「でもそれは、誰か一人やほんの一部の人達だけが仕掛けた罠というわけでもなくて。いつのまにかそういう大きな“システム”みたいなものができあがってるというか」


それを聞いた優花も言葉を選びながら話し始めた。


『最初はさ、体を売っている子を「体を売るのなんてやめよう」って説得すればそれで済むと思ってた』


『でもヒナ裏にいる子達と話したりしてるうちに、「ここにいる子達が体を売ってるのって、純粋な意味での“本人の気持ち”とは違うんじゃないか」って思えてきて』


『だとしたら、そういう子達の気持ちを変えさえすれば何とかなるというのはなんか違うよねって』


『でも・・・そうしたらさ、じゃあ私達には何ができるんだろう』


『ヒナ裏に来るような子達が普通に働ける場所を作れたらいいのかもしれないけど、それは魔法の腕輪の力でもできることじゃないし』


『じゃあやっぱり、この前みたいに拉致されそうになってる子とかを助けるぐらいしかできないのかなって』


そう言うと優花は顔を曇らせてうつむいたが、それを受けるように葵が続けた。


「たぶん・・・私がさっき言った“大きなシステム”みたいなのを壊すのが答えなんだろうとは思う」


「でも・・・じゃあどうやってその“システム”を壊すのって聞かれたら・・・全然わからないけど。その“システム”がどんなものなのかもまだわからないし」


『そうだよね・・・』


何かをつかみかけてるような感触を得ながらも“答え”が見えないことに二人は大きくため息をついた。


『だけど・・・システムというか、ここにどういう“構造”があるのかをヒナ裏に通いながら見ていけば、私達がどうすればいいかの何かの手がかりはつかめるかもしれないね』


「うん、そのためにはたぶん私達だけで考えるんじゃなくて、ヒナ裏にいる子達に直接話を聞いてみたほうがいいんだろうね」


優花と葵は再び“少女市場”─少女が買春男に“モノ”として買われる街─と呼ばれるヒナ裏へと足を運んだ。


「ああ、あんたら来たんだ」


優花と葵を見つけてエリが話しかけてきた。少し前に二人がエリの母親の態度に強い怒りを見せたこともあり、エリは二人に親近感を抱いてくれているようだ。


『ちょっと聞きたいことがあってさ。いい?』


「まぁ答えられる範囲のことならいいけど」


『ヒナ裏に来ている子で、もともとは体を売ろうとしなかった子ってけっこういるの?』


優花は単刀直入に質問をぶつけた。


「あぁ、ときどきいるよ。どちらかと言えば、ここに来るまでに普通の仕事を探して、それで諦めてヒナ裏に流れてくる子のほうが多いけどね」


『でもやっぱり、最終的には体を売るようになる?』


「そうだね、ほぼ全員そうなるかな」


「働く場所を探したって見つからないしね。それに・・・ここにいる女も体を売らないで何とかしようとする奴に対して優しくはしないからね」


「なんつーか、「もう諦めなよ、体を売らずに普通の生き方をしたいなんて希望を持つなよ」っていう空気が強いから、ここは」


「ここに来るまでに、ここで生きるうちに、いろんなことを諦めるのをおぼえてしまうからね」


「逆に親切のつもりで「体の売り方を教えてあげるよ」なんてやりたがる奴までいるよ。それはそれで私は気持ち悪く感じるけどね」


「ただね、そんな感じで普通に生きるのを諦める人らはまだマシかもしれないね」


『なにかもっとひどいケースがあるの?』


「あぁ、家出したけど体を売らずに生きていきたいと思ってる女がいると、ほぼ必ず「生活の面倒をみるよ、何もしないから。仕事探すのも手伝うよ」と甘いことを言って寄ってくる男が大量に出てくるんだ」


「でも、どうなるか・・・想像はつくよね?」


『うん・・・』


「そういう男に本当に善意の奴なんていない。一週間もしないうちに「生活させてあげてるんだから、わかるだろ?」と体を求めてくる」


『・・・』


「それって結局寝る場所を借りるかわりに体を売るのと同じわけで、そうやって「ここには自分の体だけを欲しがってる男しかいない。普通の生き方なんてできないんだ」って“学習”して、みんな諦めて体を売るようになるのさ」


「最悪な場合、「生活の面倒を見る」と近づいてきた男のところに行ったら殴られるようになって、「おまえ体売ってきて俺に半分渡せ」と言われて逃げられなくなることもあったりね」


「そういうのを見てると、それだったらヒナ裏にいるほうがマシって思うようになるんだ」


優花と葵は心に重いものが流れ込んでくるのを感じながらヒナ裏のすぐそばにある橋の上へ行って二人で話を始めた。


「結局、ヒナ裏にいる子達の立場がものすごく弱いことをわかったうえで、「こいつらだったら簡単に食い物にできる」と思ってる男ばかりが寄ってくるんだね」


『「どうせ普通には働けないし、寝る場所もないんだろ。じゃあその弱みを利用するか」っていう・・・弱ってるシマウマを探してるハイエナみたいな男がここにはいっぱいいる』


「体を売らずに・・・アリジゴクを避けて生きようとしても、そうしたら今度は別のアリジゴクの罠に吸い込まれてしまうみたいな」


『家出してきた若い子を捕らえる網みたいなものが張り巡らされてるというか、まるで本人達の意思だけではそこから逃れられないような構造ができあがってるみたい』


「何か・・・そこから出られるようなハシゴみたいなものを作れたらいいんだけど・・・私達にできるのかな」


虐待などによって家が居場所となりえないがゆえに家出した少女達がどうして体を売る世界へと入っていってしまうのか、そこには知らず知らずのうちに少女達をその世界へ導くシステムのようなものがあることに優花と葵は気付き始めていた。しかしなんとかそれを解体したいとは思いながらも、その全貌はまだ二人には見えてはいなかった。ヒナ裏に来る少女達を取り巻いている構造はどのようなものなのか、優花と葵は時間をかけてそれを探していくことになる。


(第6話に続く)

登場人物紹介

赤嶺優花:本作の主人公の一人。魔法力を宿した赤い腕輪を手にした中学2年生。感情の起伏がやや大きいが、意志はとても強い

速見葵:本作の主人公の一人で、優花の親友であり同級生。魔法力を宿した青い腕輪をつけている。性格は優花に比べるとやや冷静

フェアル:魔法の力を宿した腕輪を優花と葵に託した妖精。魔法の腕輪をつけている人にだけ姿が見える。優花と葵と出会って以降はつねに二人に同行している


エリ:母親からネグレクト/育児放棄的な虐待を受け続けたことでヒナ裏に来た少女。優花と葵が彼女の母親と対面した

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ