43 おいこらしばくぞクソガキ
「――おっぱい陣営がはなちゃんとらいたくん、おしり陣営がまえだくんとせがわくんで、戦うのだ!」
声高らかに宣言したのは、ちっちゃくて可愛い女の子――管理人だ。
まぁ体についてはいいんだ。ちっちゃいし可愛いし、それにスタイルも何故かいい。所謂ロり巨乳という奴であり、むしろその体を褒め称えたいくらいだ。
だが、今の発言だけは――容認できない。おっぱいとお尻をかけた頂上決戦(笑)に何故参加しなくてはならないのか。
「おいこらしばくぞクソガキ。いくら管理人だからって、言っていい事と悪い事があるだろ」
額に青筋を浮かべた俺は、威圧するように管理人を睨む。
こんな話、どう考えてもお断りだ。どんな脅しが来たって俺は退かない――
「勝ったら3ヶ月間家賃を下げてあげるのだ!」
「今すぐ始めましょう管理人様!」
え? 断る? ナニソレ食えんの?
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「ここが私の部屋なのだ! ささ、早く入るのだ!」
「お邪魔しますー……」
果たしてお邪魔しますでいいのかなと思いながら、俺達は管理人の部屋に入る。
この寮に管理人の部屋がある事は知ってたが……凄いなこの部屋。
まず、デカい。俺達が普段住んでる部屋の面積3倍分、いや、4倍はあるだろう。内装はそこまで豪華なわけじゃないけど……電化製品とかは割といいの使ってるな。この電子レンジとか、この前テレビで紹介されてたやつだぞ。
後はぬいぐるみとかおもちゃとか、いかにも管理人らしい私物がちらほら。まぁここら辺は想定内だな。
「あ、このこの冷蔵庫も高いやつだ。管理人さん、料理が好きだったりするの?」
「管理人ちゃんはそんなに料理しないのだ! そこら辺の物は、はなちゃんのために買ったのだ!」
「はい?」
はなちゃん? という単語に一瞬戸惑うが、すぐに美崎の事だと思い至って――そちら側を向く。
美崎は特に何かを言うわけでもなく、『当たり前でしょ?』とでも言わんばかりの顔をしている。
ま、まさかこいつ……
「管理人の部屋に入り浸ってるってわけじゃ……」
「わけも何も、その通りよ。別にいいじゃないそれくらい」
や、やっぱりかよ。
管理人の部屋に入り浸って、物も買ってもらうとか、そんなの有り得――なくもないな。美崎ならやってもおかしくなかった。うん。
俺が自分一人でうんうんと頷いていると……大きな胸をバウンドさせながら、管理人が声を上げた。
「という事で、管理人ちゃんの部屋で始めるのだ!」
「――待てよ」
天真爛漫に腕を突き上げた管理人を、くせっけの男――彰が制した。
なんというか、いかにも『気に入らない』って顔をしている。
「ライタはともかく、オレは認めてねーぞ。瀬川と共闘するなんて」
「んおー? まえだくん、何が不満なのだー?」
「ま、瀬川と協力しなきゃいけないってのは勿論だが……どうしてオレが、『お尻』側でやらなきいけねーんだよ」
そう。それは確かにその通りなのだ。
彰の隣で立っている瀬川は、多少飲み込めない部分はあるものの、『お尻』側で戦えるという事もあり、あまり自ら声を上げよう――という意思はないように見える。
だが、彰は別だ。
彰はそもそも『おっぱい』側で戦う側の人間だった。それが『お尻』側に移されるとなれば、当然不満は出るだろう。
しかし家賃がかかっているのだ。正直彰を納得させたい。ので俺は、
「管理人さん、彰をおっぱい側に移すっていうのは――」
「――それはダメなのだ」
彰の移籍を頼もうとすると、管理人が声のトーンを一段下げた。
そして、管理人が俺に向かって手招きをした。『こっちに来い』ということだろうか。
俺は管理人の足元まで近づき、片膝をついた。すると管理人が、俺の耳元に口を寄せて――暖かな吐息と共に、こういった。
「それでは意味がないの……だ。前田がお尻側につく事に意味がある。だから、なんとかして前田をこっち側につかせるのだ。分かったか?」
その凄みのある声に、俺は一瞬たじろぐが……頷く。
管理人が俺から顔を離すと共に、俺は立ち上がり、彰を部屋の隅へと連れて行った。他の人には聞こえないように。
――――
「――で、なんだよライタ。こんな所に連れてきて。愛の告白でもするのか?」
「するかアホ。……俺が言いたいのは、お前に『お尻』側についてほしい。それだけだ」
あまり長引かせたくもないので、俺は単刀直入に切り出す。
すると彰は、わざとらしくため息をついた。
「オマエなぁ……それで俺が『はいそうですか分かりました』って言うわけねぇだろ」
「それはそうなんだが……なんとかならないのか?」
「……条件が、ある。それを認めてくれるなら、いいぞ」
「……また、条件かよ」
なんというか、俺の身の回りには条件を提示する奴が多すぎる気がする。どんだけ条件が好きなんだよ。
一体どんな条件なのか――俺が顔で促すと、彰はこう答えた。
「――本気で来いよ」
「はい?」
「本気で来いって言ってんだ。おっぱいが上だと証明するために、本気で考えて、オレ達に挑んでこい。それならいいぞ」
「……なんだよ、それ」
「いいから。やるのか? やらねぇのか? はっきしろよ」
「……」
俺は顎に手を当てて、しばし考えこむ。
確かに、悪い条件じゃないんだが……彰の意図が分からない。
でも、受けなかったら家賃の話はパーだ。これは受けざるをえないだろう。
「わかった。受けるよ」
「うっし、頼むぞライタ」
「お前はどうすんだよ。本気でやるのか?」
正直、彰がお尻の為に本気を出すとは思えないのだが……
そんな事を思っている俺を打ち砕くかのように、彰はいたずらっ子のような笑顔を向けて――こう言うのだった。
「バカ言うんじゃねぇ。オレが手を抜く場面なんて、乳首を触る時だけだ!」
「いや意味わかんないだけど!?」




