茶番にしては迫真じゃね?
三十五層の転移門前。
すでに変身を終えた二人の魔法少女のほっぺがくっついて、画面が美貌で埋まっている。俺得。
〝なんのご褒美?〟
〝わりい、おれしんだ〟
〝ついに昇天する日が来たか〟
コメント欄はいつもどおり。
二人はそのままあいさつを済ませると、シャルちゃんがきゅっと表情を引き締めた。可愛い。
「昨日の配信をご覧になった方も多いかと思います」
「悪いエルフに囚われた彼女たちは、わたしたちと同じ事務所の仲間なの」
〝哀しい事件だったな〟
〝あれって茶番じゃなかったのか〟
〝同じ事務所やったんかい〟
〝ここは初めてか? わりと噂になってたで〟
「この緊急事態にわたくしたちは、新たな仲間とともに、みんなを助けに行こうと思います!」
コメント欄が騒然とする。
シャルちゃんは目を輝かせて告げた。
「それではまずは、みなさまに新しい仲間を紹介します!」
シャルとユリヤはそれぞれ左右にフレームアウト。するとそこには、
「ぁ、ええと、よ、よろしくお願いします」
おっかなびっくり、といった感じで美少女がもじもじしていた。
白と紫を基調にしたブラウスと膝丈のフレアスカート。肌の露出は控えめながら、スレンダーな体躯は見て取れる。背中にはおそろいの小さな翼。
吊りぎみながら愛らしい青い目が覗くも、口元は濃いベールに隠れていた。ちなみに耳は俺の結界で見えなくしている。
「新たな魔法少女!」
「ノエ――じゃなかった、マユさんです!」
シャルちゃんあっぶなーい。でもセーフ。
第三の魔法少女マユことノエルさんは、慣れない衣装で落ち着かないのか、スカートの前と後ろをそれぞれ手で押さえてもじもじしている。
〝照れてる可愛い〟
〝清楚お姉さんええやん〟
〝マスクはいつ外しますか?〟
〝見えないのが逆にいい(メガネくいっ)〟
なかなかの盛り上がりで好印象。つかみはいいみたいだな。しかし、である。
〝どっかで見たような?〟
〝俺元探究者、受付のお姉さんだコレ〟
〝あーたしかに似てるかも〟
マズいな。速攻バレとるやんけ。やっぱり口元隠しただけじゃダメだったのかな?
〝お察しください〟(公式)
〝公式www〟
〝俺らはなにも見ていない、いいね?〟
〝てかこのチャンネルって政府公認になったの?〟
察しろって言っとるやろがい!
ちなみに政府とかにはもちろん内緒にしている。ダンジョン管理局の労働時間外の活動なので、きっと大丈夫。あ、公務員って副業ダメなんだっけ? まあいいか。
気を取り直して。
シャルがカメラに向かって神妙な顔つきになる。可愛い。
「こうしている間にも、イリスさんたちは助けを待っていることでしょう。わたくしたちを信じて!」
「というわけで、目的地は彼女たちが囚われた三十六層ね。そこにいるかは未知数だけど、なにか手がかりがあるかもしれないし」
「そ、そしちぇ――ッ!? ……そして、スズキと名乗ったエルフに事情を聞く、という流れです」
ノエルさん、噛んだけど最後まで言い切った。
「それでは出発です! それっ!」
シャルがびゅーんと舞い上がる。
ユリヤも続けて飛び上がった。
「ぇ、ちょ、待って。私まだちゃんと飛ぶ練習をしてな――ひゃわぁ!?」
そうだろうな、と思って俺が補助してみたのだが、ノエルさんは涙目になってしまった。もしかして、ジェットコースターとか苦手なタイプだったかな?
そうこうするうち、三十六層にやってきた。途中は完全に素通りだ。
大空洞の都市の外れ。
岩壁が剥き出しになった洞窟内。昨日俺はこの場所でノリノリに悪役を演じていたわけだが、なんだろう、今になって恥ずかしくなってきた。
「ここですね」
「魔物の気配は……ないわね」
警戒する二人の後ろでは、
「ぅ、ぅぷ……」
〝疲労困憊の魔法少女がおるが?〟
〝需要はある。とくに俺〟
〝休ませてあげてよぉー!〟
〝もう沼っとる奴がおるww〟
シャルちゃんたち、飛ばしてたもんなあ。俺は申し訳ない気持ちでいっぱいなので、画面外で治療しつつ飲み物を渡す。
「あ、ありがとう。ごく、ごく、ふぅ……あら?」
女の子座りで休んでいたノエルさんが、なにかを見つけた。ふらつきながらも立ち上がり、よろよろとそちらへ向かう。
「マユ? どうかしたの?」
ユリヤが気づいて寄ってきた。ドローンカメラで追いかける。
「これって……」
片方だけの肩当て。フレイの衣装の一部だ。
〝生々しいな〟
〝ガチで捕まったのかよ〟
〝ごめんけどえっっな想像しちゃった〟
最後のは運営判断で削除。このチャンネルはお子さまも見ているのでね!
離れたところで、シャルが哀しげにその様子を見ていた。誰だ! 我が天使にあんな顔をさせたのは! 俺かあ……。
ちょっとへこんでいたところ。
カツン、カツン、と。
固い地面を歩く音。
〝エルフのおっさんか?〟
〝みんな逃げて!〟
〝魔法少女の触手祭りと聞いて!〟
はい、最後のは削除ね。
シャルがステッキを胸に抱く。
ユリヤはトンファーを構えた。
ノエルさんも青い瞳に光を灯す。
緊張が支配する中、暗がりから姿を現したのは――。
「イリスさん!」
シャルの笑顔が弾けた。
黒いパンツスーツに白いポニーテール。背筋をピンと伸ばし、凛とした佇まいはまさしくイリスフィリアその人だった。
さらにその後ろから、もう一人が歩み出た。
「マリアンヌ、よね……」
ユリヤのつぶやきのとおり、金髪のお姫様が男装の護衛に守られているような構図だ。でも白かったはずのローブは、黒に染まっていた。
「フレイさんと、リザさんはどこですか?」
ノエルさんはイリスたちの左右に目を走らせる。
三人の様子を、イリスは順に見回すと、ふっと目元を緩めた。
「ボクたちを助けに来てくれたんだね。ありがとう」
いつもどおりの落ち着いた声だ。
しかし次の言葉で、場の雰囲気が凍りついた。
「でも、その必要はないよ」
そして――マリアンヌが片手を上げた。
ズズン、ズズン……。
重苦しく響く音は、実際に地面を揺らす。
洞窟の奥。
光が届かぬ闇の中から、巨大な影がせり出してきた――。
【新作始めました】
https://ncode.syosetu.com/n6091mu/
『大聖女はもういらない? はい喜んで! 若返って学園で青春をやり直します! 「国がどうなっても知りません」――なんて言わないよ?』
規格外の魔法力を持つ大聖女が、若返って青春をやり直すお話です。世界は危なくらないような気がしなくもなくもない。(どっち?)
1話だけでも読みにきて~
作者ページに作品リンクがありますので、そちらからどうぞ。
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