強めの刺激でテコ入れするぞ
ダンジョンの一番奥を覗いてみたら、耳長の男が携帯食をむさぼり食っていました。
怪しいことこの上ない。
十中八九、こいつがノエルさんの言うところの『ダンジョンが強制転移した事故』の元凶だろう。すくなくともなんらかの関係はあるはずだ。
男は虚ろな目で一心不乱に食い散らかしていたかと思うと、ぱたんとソファーに転がって寝息を立て始めた。
とっ捕まえて『お話を聞く』のが手っ取り早いのはそのとおり。
でも俺は、今すぐどうこうというのはやめておき――。
拠点に戻る。
ノエルさんの部屋も用意しようと思ったが、押し入れがダンジョンとつながっているので念のためそこで寝起きは続けるそうな。なんか危なそうな気がしなくもないが、本人の意向もあるし、こっそり防御系のあれこれを付与して今日のところはお別れした。
で――。
「君たちを呼んだのは他でもない。悪堕ちして魔法少女たちと戦ってほしい」
自室に別動隊チームの面々を呼び出してそう切り出したところ、イリスとマリアンヌお姉ちゃんとリザがめちゃくちゃ嫌そうな顔をした。まあそうよね。
「なんとなく根本の理由は察せられますけれど……」
「まずはその結論に至った状況を説明してほしい」
二人の言葉に、リザは大きくうなずき、フレイは腕を組んで不敵に笑っている。こいつはわかってなさそうだ。
「えーっと、実はさっきノエルさんと話してたんだけど――」
俺は彼女がダンジョンマスターであり、過去の事故によってダンジョンがこの世界に強制転移され、いろいろ困ったことになっていると説明する。
そして超重要事項を付け加えた。
「要するに、今ダンジョンを管理してるのは素人に毛が生えた程度の……いや、それ以下の赤ん坊だな。最近の難易度調整のクソっぷりはみんな知っての通りだ。はっきり言って、つまらない」
みな苦い顔をしている。フレイだけ不敵な笑みのままうなずいていた。
イリスが控えめに手を挙げる。
「言いたいことはわかった。ハルトがやりたいこともね。しかし、しかしだ!」
なにやら語気が強くなる。
「こんな茶番に、みんな騙されてくれるのだろうか?」
最後は脱力気味に疑問を口にする。
「シャルさえ楽しませればそれでいい」
他の奴にバレたところで別に。黙らせとけばいいんだし。
「悪者として振る舞うのですよね? 正直、うまくできる自信がありません……」
瞳のハイライト消して黙っていれば大丈夫じゃないかな?
「シャルロッテ様とは、本気で戦えない」
ユリヤとノエルさんの相手をしてればいいと思うよ?
「シャルロッテと手合わせするのは悪くない。その成長ぶりを確かめるには、むしろちょうどいい!」
こいつには演技指導とか必要なさそうだな。
「しかしハルト、本当に大丈夫なのか?」
「まあ、誤魔化しようはいくらでもあるさ」
「そうじゃない」
睨むようにイリスは俺を見る。
「ボクたちが悪堕ち……だったか、そうなったとしたら、シャルに相当な負担がかかるんじゃないか?」
……たしかに。心優しいシャルちゃんが、仲間の悪堕ちに心痛めぬわけがない。
「んじゃあ、こうするか」
俺はごにょごにょごにょ、と四人に策を話し、そして――。
翌日、シャルたちはノエルさんの魔法少女衣装や変身後の口上なんかを考える会を開催中。
ノエルさんも休暇で付き合ってくれてるようだ。たぶん衣装の露出度チェックとかしたいんだろうな。
そんな和気あいあいとした雰囲気をぶち壊す心苦しさはあるものの、俺は唐突に彼女らの部屋に半透明ウィンドウを出現させた。
『シャル、緊急事態だ。まずは映像を見てくれ』
そう告げると、何事? と緊張した面持ち(可愛い)で画面を見た。そこには――。
「うわはははっ! 我こそはこのダンジョンを支配する者だーっ!」
俺は例の耳長男とそっくりなガワを用意して、声高らかに叫ぶ。
場所はトウキョウ=ダンジョンの三十六層。洞窟っぽいところだ。イリスたち別動隊チーム四人を前にしている。
「むぅ、ダンジョンを支配する者だと? 名を名乗れ!」
え? 名前?
「そ、それは、だな……そう! スズキだ!」
「我が名はフレイ! ハルト様の従者にしてメイド、そしてもっとも信頼されている部下だ!」
そうだったのか、初めて知った。てかアドリブにしても対応しづらいこと言うのやめてね。
ちなみに配信に乗せている。
〝いきなりナニコレ?〟
〝急展開来たな〟
〝エルフかな?〟
〝小物臭がすごい〟
わりと失礼なことを言われているが、今は不問としよう。
〝ハルトって誰よ?〟
〝なんか茶番始まった〟
こういうのは削除ね。
さて、四人にはちょっと辛抱してもらうターンだ。
俺はちょちょいと結界をいくつか生み出した。
洞窟内の壁面や地面のいたるところが、ずもももも、と盛り上がる。それらはぐいーんと伸びていき、
〝触手ダンジョン!?〟
〝いけませんBANされます!〟
〝マジで急展開すぎるwww〟
こいつらホント心が汚れてるな。お子さまが見ているのだ、俺も絵面的にヤバい方向は控えるし。
うにょうにょ、というよりは、ぶおんぶおんと勢いをつけて四人を襲う。
「うわっ」
「きゃー」
「……む」
まるで感情のこもっていない声で、岩っぽい触手に囚われるお三方。
「むぉ!? おのれ、この! ん? なんだ、身体が動か――むぐぅ!?」
早めに捕まってね、との事前打ち合わせをまるっと忘れていたらしいフレイを、透明結界で拘束して口をふさぐように触手でぐるぐる巻きにする。
「お前たちは俺の手足となって働いてもらう。そう、このダンジョンマスター、スズキのな!」
俺はカメラ目線で決めポーズをすると、高笑いとともに触手たちを引きつれ洞窟の奥へと消えていった――。
ここまでを、食い入るように見ていたシャルとノエルさん。それにユリヤはまあ、にこにこだ。
俺はすぐさま彼女たちの下へ現れた。
「兄上さま! 大変です! フレイたちが!」
動揺するシャルちゃんに心が痛む。
「安心しろ。あいつらは俺の結界で守っている」
俺の力強い言葉に、シャルは安堵の表情に変わった。うん、いい子や。
「それで、ノエルさん、あのエルフって知ってますか?」
実はこの茶番に耳長男を登場させたのは、ここで探りを入れるためだ。
ノエルさんは眉間にしわを寄せて、苦しそうに吐き出す。
「ガイン……。ガイン・ソル=タリア。私と同じハイエルフで、かつては神よりダンジョンを賜るライバルとして競い合っていました。でも、どうして彼が……?」
やはり知り合いだったか。てかライバル? もう黒幕確定じゃね?
「彼は皮肉屋でキザったらしいところはありますけど、常に冷静沈着であんな醜態を晒すような男ではありません。偽名を名乗る意味も……はっ!? もしかして精神を侵され、誰かに操られているのでは?」
おっと、その発想に向かってしまうのか。想定外だぞ?
だいたいあの耳長男が冷静沈着? 今は床を転げ回って『携帯食に飽きた』って駄々っ子みたいに暴れてるけど? うん、黒幕っぽくないな。俺も混乱してきたぞ。
シャルがきりりと応じる。
「きっと黒幕がいます。その方を捜し出し、フレイやリザ、イリスさんやマリアンヌさまを救出しましょう。もちろんそのガインさんも」
動揺を小さな胸にしまいこみ、気丈に告げる姿に、俺は感動に打ち震える。成長したな、シャル。
「つまり、こういうことね? これからのわたしたちのタスクは、四人を助け出し、ついでにスズキと名乗ったノエルの知り合いに事情を聞く」
そのうえで、と片目を閉じて告げる。
「ダンジョンの攻略を進めて、最下層にあるダンジョンの制御室へノエルを連れて行く」
シャルとノエルさんが大きくうなずく。
まとめてくれて助かるな。
「それではさっそく、みなさんを助けに行きましょう!」
えいえいおー、と四人でこぶしを突き上げた――ところで、本物のスズキはどう使ってやろうかな?
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『大聖女はもういらない? はい喜んで! 若返って学園で青春をやり直します! 「国がどうなっても知りません」――なんて言わないよ?』
規格外の魔法力を持つ大聖女が、若返って青春をやり直すお話です。世界は危なくらないような気がしなくもなくもない。(どっち?)
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