魔力の話はやめません?
寒い。
それ以外の感想を述べるなら、白い。
つーか吹雪いてて前が見えん。
トウキョウ=ダンジョンの第二十層。俺的にはもう二度と来たくなかった極寒の地である。
その最深部へ足を踏み入れつつあるわけだが、両側が切り立った崖の峡谷をずんずん進みながら、上から前から押し寄せる魔物たちを、ちぎっては殴りちぎっては撃ち抜きしてたらなんも出てこなくなった。
ぶっちゃけ配信的にはまったくうま味がない。
シャルたちの姿もかなりカメラを寄せないと映らないので、絵面的には吹雪の中をアップで美少女二人が雑談してるだけ。まあそれはそれで需要はあるのか?
などと考えていたら。
「あら? 風が治まったわね」
「ユリヤ、あそこを見てください!」
吹雪が止み、シャルが正面に何かを見つけた。
暗い雲も晴れていく。
光差す中、まるでスポットライトが当たるかのように、ソレは全貌を顕わにした。
山がいた。
正確には、開けた大地にあたかもそびえ立つ山のように佇む、巨大な象だ。
長く力強い鼻と、これまた長く雄々しい牙が左右に二本ずつの計四本。
全身を長い毛で覆われた、マンモスっぽい魔物だった。なんか額に赤い宝石みたいなのが埋まっている。
〝でたー、『氷牙の祖獣』さんやー〟
〝でっか〟
〝つぶらな瞳が意外にカワイイ〟
ホントにでかいな。十五メートル近くはありそう。
言うまでもないが、エリアボスさんである。
上空でそれぞれ手にした武器を構えて警戒する魔法少女たち。
が、しばらく睨み合いをしていたものの。
「……ちっとも動きませんね」
「そうね、そもそも活動しているのかしら?」
長い毛は硬そうなので緩やかな風では揺らぎもしない。このダンジョンの魔物は生き物ではないが、鳴き声をあげたり目玉を動かしたり、それっぽい挙動はする。
が、こいつは瞬きをしている様子もなく、息で巨体が上下してもいない。凍ってないかな?
「どうしましょうユリヤ!?」
「とりあえず攻撃してみましょうか」
ユリヤは手にしたトンファーをぎゅるぎゅる回す。腕を引くや、水平に、弧を描くようにこぶしを撃ち出した。
風の刃が幾重にも飛び出して、まっすぐ巨象へと突き進み、
〝なんだ今の?〟
〝当たったと思ったら消えてました〟
〝どういうことや〟
〝吸われたっぽい?〟
手ごたえがなかった。
実際、体毛すら微動だにしなかった。
風の刃はことごとく、魔物に触れた瞬間に消失していたのだ。
〝十層のエリアボスと違うくね?〟
〝そもそもこいつの今までの挙動とも違う〟
〝これまでは弾いてたよなあ〟
俺が前に戦ったときは、なんかバリアっぽいのがあった。
それを貫通して倒せたんだが? 仕様が変わった? そんなのあり? てか今のって俺の謎時空と似たようなもんか?
「ねえシャル、あそこを攻撃してみて」
シャルは示された先に魔法弾を撃ち放った。狙いは額の宝石だ。
「はぅわわ、やっぱりダメですね……」
十層のエリアボスにはいちおう効いていた攻撃が、これまた宝石に吸いこまれるようにして消えていった。
「ふぅん、十層とはいろいろ違うみたいね。もっともアレとまともに戦おうとするなら、何かしら条件をクリアしないといけないのは同じじゃない?」
ユリヤの言葉に、シャルは大きくうなずく。
「ですけど、今回は何も言ってくれませんね。前はかけっこをしようと誘ってくれましたのに」
もっと横柄だったけどな。ついでにしゃべってもいなかったが。
それはそれとして、今回のエリアボスは文字通りうんともすんとも言わない。
ネタバレを踏まないためか、二人はすでにコメント欄を見ていなかった。
いろいろ試すしかないとの結論に至り、ユリヤがトンファーで直接攻撃に出る。
スカーっと素通りした。
勢いをつけての錐揉みドロップキック。
巨体を通り抜けて凍った大地を大きく穿った。
「ユリヤってば挑戦しすぎではないですか!?」
俺もそう思う。謎時空に閉じこめられるとか考えないんか?
「どうにも雑ね。わたしの攻撃じゃないわよ? あの魔物の防御って、なんだか急ごしらえな感じがするわ」
たしかに。他の攻撃は消えてなくなったのに、ユリヤの体当たりは素通りになった。統一感はないな。
コメント欄がざわつくも、ちょいちょい匂わせコメがあるのでまだ見せられないな。
「挑戦権を得るためのヒントが周りに……ありそうにないですね」
「つまりあの魔物そのものにヒントがあるってことよね」
二人してじーっと巨大マンモスを見やる。ちょっと羨ましい。
「おや?」
「あら?」
ほぼ同時に、二人は魔物のとある部分に注目した。
柔らかに降りそそぐ陽光と、穏やかに流れるそよ風。
凍えた空気は煌めいて、微動だにしない氷像じみた巨大な魔物の周りを巡っている。
小さな小さな氷の粒は、体毛に触れるや吸収されたのか消えていく。
だが、とある場所では煌めく粒が、跳ねるように弾けていた。
「ねえシャル、きっと今わたしたち、同じことを考えているわね」
「ええっと……、そうですね。大変失礼な物言いになってしまうのですけど……」
二人、声を合わせた。
「「やっぱり雑「です」ぅ!」」
シャルがステッキを前に突き出す。
ユリヤはさっきと同じくトンファーをぎゅるぎゅる回し始めた。
魔法弾が二発。
風の刃も大きなものが二枚。
息を合わせ、それぞれが別の狙いを定めて撃ち放たれた。
シャルは右に。
ユリヤは左に。
巨大なマンモスの両側から雄々しく伸びる、四本の白磁じみた大牙へ。
キキキキィィィン!
氷が弾けるような音とともに、四つの牙はその中心が砕け散った。
大牙は真っ逆さまに落下して、轟音を響かせて凍土に突き刺さる。直後――。
ピシリ。
何かに亀裂が入ったような音が鳴る。
さらにピシピシと、魔物を覆う虚空にヒビが無数に生まれ。
パリィィィインッ!『ブオォォォオオォオオーーーンッ!』
空間が割れるや、巨象の雄叫びが轟いた。長い鼻を跳ね上げる。
その額にある大きな宝石が、真っ赤に輝いた。
〝正解なんだがこれ……〟
〝攻撃を吸収する仕様変更が仇になってないか?〟
〝動かないから観察し放題だしなあ〟
そう、正解は『四本の牙をすべて折ること』。
以前のように全身がダメージを跳ね返す状態なら、あの牙そのものが頑丈なので気づきにくかったりする。まあ攻略情報として周知なんだけどね。
さて、ここからが本当の戦いだ。
ガチンコ勝負でエリアボスを倒してしまおう。
〝ってもう倒してるー!?〟
〝冗談抜きで瞬きの間だったぞ〟
〝どうやったの?〟
〝眉間にどっかんでパオーンや〟
〝適当なのにわかりやすいw〟
たしかに一瞬で終わったのだが、ここからが始まりとも言えた。
エリアボスを倒したなら、そう、ドロップアイテムのお時間です。
〝また赤いんだが?〟
〝やだこの子たち怖い〟
〝運がいいとかのレベルじゃないやろ〟
〝この子らダンジョン側が用意した仕込みに思えてきた〟
〝ダンジョンってやっぱ運営ってのがいるのかな?〟
またしても超稀少な赤色ドロップ。
エリアボスでしか発生せず、実に0.05%の超低確率だ。
ステータスには『運』みたいな項目はないし、裏ステータスの存在も検証では見つけられていない。いちおうドロップの確率を上げるアイテムはあるのだが、それを使ってもいない。
『これもまた管理者が危機感を抱く要因なのだろうね』
びっくりしたなあ。急に話しかけないでよ。
『まだ仮説の域は出ていないけど、まあほぼ確定だよ』
「なにがですか?」
『ステータスやレベルに依存しない強さ。固有スキルは最大出力で利用が可能。そしてドロップの確率が異常値をたたき出している。これらすべて魔法――より正確に言えば『魔力』が高い者ほど顕著になっているのは明白だ』
なるほど。
たしかにシャルやユリヤは他のみんなよりドロップ運がいいように思う。フレイやリザって人間形態だと魔力が抑えられてるんだよな。
「俺もいまだにまともなドロップ一個もないですしね」
魔法レベルが2だからね。哀しいな。
『いや、キミの場合は百周くらい回って……まあいいか』
この人は本当に俺を励ますことをしないな。
仕方がないのできゃっきゃとはしゃぐシャルちゃんを見て自分を慰めるのだった――。




