ゲームマスターはどこにいる?
十八層にやってきたよ。
この辺りは山岳地帯だ。急斜面や断崖絶壁ばかりで、道はそれらに沿って細いのがあるだけ。足を踏み外せば命が危ない。怖い。
まあそんなわけでふつうの探究者には屈指の難所なわけだが。
我らがシャルロッテちゃんとユリヤのコンビには、そんなのまったく関係ねえ!
〝空飛べりゃ難易度はガクッと下がるよな〟
〝ズルい。ズルくない?〟
〝可愛いからいいんじゃないかな〟
〝Cute is Justice.〟
海外ニキネキもよう見とる。
「シャル、そっちへ行ったわ」
「お任せください!」
飛行型魔物が集団で襲いかかってくるのを、二人は軽快に撃ち落としていく。
前にスキルを連続使用したり、スキルと高魔力の魔法を同時に扱ったりして、かなり肉体的・精神的な疲労が激しかった反省から、今回は魔法のみで戦っている。
と、崖を駆け上る巨大な物体を捉えた。
「やぎさんですね」
「大きいわね」
〝いやあれヒツジ〟
〝まあ崖上るのはヤギだと思う罠〟
〝しかしでけえ〟
ふつうの羊の三倍はあろうかという魔物だ。
見た目はシンプルなヒツジだがとぐろを巻いた角の先端が顔の正面に向いていて、頭突きついでに突き刺す気満々な形をしていた。
巨大羊はぴょーんと跳んでユリヤに襲いかかる。
ひらりと避けるユリヤ。
羊は崖に着地(なんて?)すると、またもぴょーんと跳んで今度はシャルに頭突きをかまそうとする。
くるりと身を捻って躱すシャルちゃん。
〝なんかシュールだな〟
〝あいつわりと厄介なはずなんだが?〟
〝空を飛べるとこんな楽なのか〟
〝でもなんか鳥と連携してないか?〟
リスナーの指摘のとおり、巨大羊が攻撃するタイミングに合わせ、鳥たちが二人を一か所に追いこもうとする動きを見せていた。
「そんなみなさんにまとめてシャワー!」
シャルは光の雨を降らせ、鳥も羊もまとめてなぎ倒していく。
『圧巻だねえ。これでもまだレベルは2なんでしょ? ダンジョンのレベル・ステータス・システムは彼女たちにはまったく機能していないみたいだ』
通信をつないできたかと思えばこれである。あいさつくらいしてもよいのでは?
「ティア教授、なにか用ですか?」
『昨日の今日であれなんだけどね、って、昨日の話は覚えてる?』
えーっと、昨日ってなんだっけ?
シャルたちと遊びに出かけて、ノエルさんに会って、配信者だとバレそうになったから家に帰ったらティア教授が通信してきて……俺はそのときのことをぽわぽわぽわわん、と思いだ――『そんな長々と思い出すほどでもないでしょ?』
それはそう。
要するに『攻略させるのが前提のダンジョンなのに、管理者さんは攻略させたくないみたい』ってことだ。
『てなわけで、新たな情報を踏まえて推論を磨いていこう。昨夜キミがイリス君から聞いた話をワタシなりに精査してみた』
そういや昨日、ティア教授と話したあとにイリスから連絡があったんだっけな。二十層で他の探究者の窮地を救ってどうたらこうたら。
『新しい情報ではあったのだけど、今まさにキミが目の当たりにしている状況そのものだ』
ん? と前を眺める。
シャルちゃんたちが圧倒的パワーで魔物の群れを制圧している場面ですね。
『これまでになかった傾向だ。別種の魔物たちが互いに連携し合っている。前回の仮説を補強する状況だね。やはり管理者はダンジョンを攻略してもらっては困るらしい』
言われてみれば、たしかに邪魔をしてくる度合いが高まっている気がする。
「でもダンジョンのシステム側不具合という可能性もあるのでは?」
『いいや。一部にその可能性があるとしても、全体としては否定する根拠がある』
ティア教授は人差し指をぴんと立てて解説する。
『出現する魔物が増える。連携する魔物の数も増えた。別種の魔物の間でも連携するようになった。つまり探究者たちの攻略を邪魔するレベルが段階的に上がっている。別種の魔物の連携に至っては、昨日は二十層で確認されたが今日は十八層まで上がってきている。それが偶然や突発的な事象とは思えない』
さらに、と畳みかけてくる。
『ここから読み取れるのは〝焦り〟という感情だ。管理者がダンジョンそのものかはさておき、〝意思〟を持つ何者かは確実に存在する』
「さておかなくても、意思があるなら実在する誰かですよね?」
ダンジョンなんてよーわからんもんに意思があったら面倒にもほどがある。
『まあ、ワタシもその説には賛成だ。ダンジョンそのものに意思があるならもっと大胆に、探究者たちの前に立ちふさがるだろうからね。ダンジョン全体を魔物で埋め尽くすとか』
資源的な問題で無理そうだけど、まあ『誰か』がいてくれた方が話が早い。
「そいつ捕まえれば攻略したも同然ですもんね」
『そうなんだよね。そこら辺を歩いててくれれば苦労はないけど、それはないかな』
「俺ならダンジョンの最深部に引きこもってますよ」
『ワタシでもそうだよ。そうなるとけっきょく最深部を攻略しなくちゃいけないから、〝管理者を確保して攻略完了〟とはいかないだろうね』
いいや、この人は好奇心に負けて外に出たりする。絶対に。
とは言わず、「そうですね」と答えておいた。
シャルたちが追加で現れた魔物を一掃した。
今日の配信は二十層へ到達するところまでと決めている。意気揚々と先に進み始めた。
不意に、とある人物の顔が頭に浮かんだ。厳密にいえば、その特徴的な『耳』を思い浮かべたわけだが。
「ま、それはないか」
ボロアパートに住んでダンジョン管理局で受付をやっている、ちょっと幸薄そうな彼女。
どう考えても、ダンジョンマスターがそんな境遇に置かれるとは思えない。
やはり正攻法で攻略するしかなさそうだ、と肩を落とす俺でした――。




