落ちるとこまで堕ちちゃった
シャルたちが樹海に突っこむより前。
俺はドローンカメラをいくつか先回りさせていた。後ろからより正面からのが映えるからね。それ以外にも理由はある。
ぶっちゃけ思った以上に大混乱だ。
四人愚昧もとい四人組――赤髪の双剣使い、黒髪の武士、金髪染めの弓使い、ハーフの槍使いは、さすがに古参探究者だけあって手長お猿の群れの一斉攻撃にもよく対応していた。
が、目に見えて押され始めてからは形勢が一気に逆転した。見た目わりとボロボロだ。
「なんだってこんな目に遭うんだよー!」と弓使いが涙目で叫ぶ。
「生配信に突撃するなんて企むからだぞ!」と槍使いが非難すれば、
「うるせぇ! くそっ、なんで……」と赤髪の男(たぶんリーダー)が言葉に詰まる。
でもって一番ヤバいのは撮影班の方々だ。ぶっちゃけレベルがまったく足りてないんだろう。
一人がスキルを使ってドーム状の防御結界みたいなのを作って防いでいるけど、五回くらい破られてても不思議じゃないくらい脆そう。
スキルを使っている本人が『なんで生きてるの!?』って顔してるし。
「くそっ、さすがにヤベえ。おい、撤退するぞ!」
リーダー君が仲間に叫ぶ。
「無理だって! 撮影班まで抱えたら――って、まさか置いてくつもり?」と弓使い。
「仕方ねえだろ! 連中の代わりなんていくらでもいるんだ。俺らが、 蒼穹四騎士が生き残らなきゃオリオン・プロは終わりなんだからな!」
リーダー君の言葉に他の三人は口を閉ざす。
いや、ここまでクズだとは思わなかった。俺ですらドン引きだ。
ほらー、五人の撮影班の人たち、涙目どころか顔面蒼白で放心しちゃってるじゃん。てかスキルは? ちゃんと集中して? そぶりくらいでいいからさ。
と、この絶妙なタイミングで。
「救いの声はこちらですね! 助けにまいりました!」
正義の魔法少女シャルロッテちゃんの登場である。可愛い。
〝マジでヤバそうな状況やな〟
〝てかセレスト・ナイツやんけ〟
〝ここで苦戦してんの?〟
〝撮影班おるやん初めて見たわ〟
〝影の存在なのに死にかけてないか?〟
〝え、猿大杉。しかも一斉攻撃とかどういうこと?〟
コメント欄も状況を把握する。そして魔物の群れの行動に困惑しているようだ。
「シャル、ひとまずスキルを」
ユリヤの声に「わかりました」とステッキを掲げたものの。
「お前らの手なんか借りるかよ! 引っこんでろ!」
リーダー君、謎の自尊心で拒否してしまう。お仲間三人、『なに言っとんねんお前』みたいな顔で驚いている。だよねー。
ただこうなると、うちの素直で可愛いシャルちゃんは、
「わかりました。ではあちらの方たちだけでも救出しますね。『聖域展開』!」
固有スキルを発動した。撮影班の人たちのところだけに。
柔らかな光に包まれて、撮影班の方々は天にも昇るような安心した表情に変わる。ダメよ? 実際に昇天しちゃ。
スキルの有効範囲内では魔物にデバフがかかる。
撮影班を守っているドーム状の結界への攻撃は、明らかに勢いを弱めた。しかし――。
パアーン、と。
風船が割れるような音とともに結界が霧散してしまったではないか。
〝マズいですよ!〟
〝グロいの始まる?〟
〝BANされるから止めたほうがええで〟
コメント欄は戦々恐々。
「いけません! 『光輝の神盾』、たくさんどうぞ!」
シャルが慌てて魔法のステッキを振るった。
光の大盾が、撮影班の人たちを守るように複数現れてお猿さんたちの攻撃を防いでくれる。
〝うおーーーシャルロッテちゃーーーーん!〟
〝これも魔法なんか?〟
〝天使や……〟
さすが正義の魔法少女シャルちゃんだな、と思ったのも束の間。
「はうわぁ! なんだかものすごく疲れます!」
任せろお兄ちゃんがすぐ助けるぞ!
『やめておけ。おそらくダンジョン由来のスキルに魔力を持っていかれている状態で大規模魔法を展開すると魔力が著しく消費されるのだろう。魔力を与えればマシにはなるはずだ』
インカムの声に乗り出した身を引っこめた。すぐさまシャルちゃんに魔力を渡す。
「ほえ? なんだか力がみなぎって……いけます! あ、でも疲れるのは止まらないかも……」
あまり時間はかけられないな。
と、撮影班のただなかに、金の魔法少女が突如として現れた。
「こっちは任せて。でも一人ずつしか移動できないから、しばらくがんばってね、シャル」
カメラ目線でウィンクをひとつ。
ぱっとその姿が消えた。撮影班の一人も同時にいなくなる。
「この階層の入り口は安全地帯だから、そこまで送ってきたわ。さすがに距離があるから大変だけど」
再び現れたユリヤはそう言って二人目とともに瞬時に消える。
人数分、やり遂げてから戻ってきた。
「さ、そろそろ魔物を片づけちゃいましょう……あ、あれ?」
不敵に笑いつつも、足元がふらつくユリヤ。
「危ない!」
シャルがものすごいスピードでユリヤに近づき、倒れそうになったところを優しく抱きとめた。
「ありがとう。大丈夫よ、スキルを連続で使ったからちょっと疲れただけ。だからそんなに辛そうな顔をしないで」
ユリヤがそっとシャルの頬に手を添える。
シャルは目に涙の珠を浮かべながらも、安心したように微笑んだ。
〝なんだかわからないが俺は今、とても尊いものを見ている〟(公式マーク)
〝拝むとご利益ありそう〟
〝おれ白飯山盛り持ってきた〟
〝オカズにすなw〟
〝カタカナで書くなwww〟
〝てか公式ぃぃぃwwwwwww〟
しまった。自分のアカウントと間違えてチャンネル垢でコメントしちゃった。
などとやっていると。
「ぐわっ!」
「ぐ、くぅ……」
「も、もうダメだって……」
「せめて、回復を……」
四騎士さんたち、今にも死にそうだった。わりとお猿さんたちを倒していたけど、後から後から湧いてくるからどうしようもなくなったっぽい。
「お任せください! とうっ!」
「え、わたしも? きゃっ」
シャルちゃんはユリヤを抱えたまま樹木の天井を突っ切った。慌ててドローンカメラが追う。ユリヤをお姫様抱っこした状態で静かに目をつむる。
やがて、くわっとおめめを見開いた。
「数が多いなら、そのすべてを薙ぎ払いましょう――『慈愛の聖域』!!」
世界が一瞬、白く染まる。
頭上に巨大な光球が出現すると、その大きさを増していく。
地上ではお猿さんたちが何事かと天を見上げた。
枝葉の隙間からでもはっきりと、神々しいまでの天使が――って、おや?
シャルちゃんの背に、小さな翼はあった。俺が新衣装で作ったからね。
でも今は、片翼でも自身の背丈を超えるほどの、巨大な光の翼を広げている。
これ、前にもあったよな?
巨大な光球が弾ける。
弾けた光は矢となって、地上へと降りそそいだ。
計ったように猿型魔物だけへ向け、数多の光矢が襲いかかった。直撃を受けただけでは止まらない。二の矢、三の矢が無慈悲に魔物へ突き刺さった。
まさしく『一掃』という言葉がふさわしいほどに、魔物たちはすべて消え去ったのだ。
〝ふつくしい……〟
〝翼の演出も魔法なんかな〟
〝てか前のときと矢の出方が変わってね?〟
〝十層のボス戦だったか。あれのときって下からなんか出てきて串刺しにしてたな確か〟
〝これぞ魔法!〟
〝言いたいだけやんけ〟
コメント欄がわいわい騒ぐ中、シャルの様子が……。
「きゅぅぅぅ……」
光の翼がぱっと消えると、シャルちゃんが目を回して落ちていきます大変ですよ!
「よっ、と」
が、今度はユリヤが体勢をくるっと反転させてシャルをキャッチ。さっきとは逆にお姫様抱っこ状態になった。
「やっぱり固有スキルと大規模魔法を同時にやっちゃうのは負荷が高いみたいね」
ぽつりと言って、そばを飛ぶドローンカメラに笑みを向ける。
「さすがに疲れちゃったから今日の配信はこれまでね。予定とは違っちゃってごめんね♪」
とくに俺は指示していないが、配信画面では固定エンディング動画が流れ始めた。ウラニスか。まあ仕方ないよな。
コメント欄はおおむね好意的。次に期待するとの内容であふれる一方。
四騎士君たち(とくにリーダー)への落胆や憤り、怒りの声が流れるのだった――。
もちろん!
俺の仕事はこれで終わらない。というか俺たち、だな。
「さすがに趣味が悪いですよ。そこまでする必要があるんですか?」
拠点に戻ってくる最中、ちょうどお隣さんと一緒になった。シャルとユリヤが半ば強引に誘い、なぜかウラニスの部屋に俺と三人で集まっているという状況だ。ホントになんで?
「まあ、必要があるからやってんですよね。連中のクズっぷりや情けなさが目立てば目立つほど、こっちの救出行動の評判が高くなるし」
「だからと言って、こんなとどめをさすようなことは……」
「狙ってたわけじゃないですよ。ただ偶然にもこれだけいい絵が撮れたんで、有効活用はしないと」
生配信では使っていない映像――シャルたちが樹海へ突入する前の映像だ。
リーダー君、大活躍だったなあ。
ちなみに彼にはとどめっぽいのはもうさしてある。
『面白い映像が撮れた。今夜から君たちの活躍ぶりを切り抜いた動画がたくさん上がるから、楽しみにしてくれ』
そう伝えたときの絶望顔はなかなか良かった。
「ぅ、くぅ……」
あれ? 天由良さんってばなんか辛そうだぞ?
「もしかしてあいつらのファンだったとか?」
そんな風にはぜんぜん見えなかったが、推しが堕ちていく様はさぞ辛かろう。
「違います。最近すこし、頭痛がひどくて……」
それはそれで大変だ。魔法で治そうかと提案したが、「怖いのでお気持ちだけで結構です」と返された。魔法みたいなわけのわかんないのは信用ならんのかな。
ともあれ。
俺たちの作戦は大成功だった。
夜が明けるのを前にして、シャルちゃんたち魔法少女の評判が上がりまくりチャンネル登録者増えまくり。
でもって『蒼穹四騎士』とかいうみなさんは評判が地に落ちるどころか、二日後には事務所がユニットの解散を発表したのだった――。




