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第八話 前振り

「なるほど、ジーナからも事情は聞いていたが名誉自体は戻ったわけだな……」


 一日で名声を稼いでしまった俺の手腕にリリーも驚いているみたいだ。俺も自身の有能さに身震いがしていた。


「それでリリー、ジーナはなんでそこで倒れてるんだ」


 家に戻ってきた俺が見たもの、それは変な格好でぶっ倒れているジーナの姿であった。

 白装束姿にハチマキ姿のジーナは、潰れた蛙みたいな格好で地面でうごめいていた。


「おのれ……おのれ……」


 恨み言みたいなものを呟きながらピクピクと震えているジーナ、一体これはどうしたと言うんだ。


「そうだな、ジーナがこうなった原因か、ところでアラン、寒気とかなにかしてないか? 例えば体調が崩れたりだとか」

「いやぜんぜん? 今日も元気に絶好調だ。でもそう言えば帰ってくる時に少しくしゃみをしたけどな、悪寒が急に来て風邪引いたかと思ったぜ。まあ全然気のせいだったけどな」


 俺の言葉を聞いていたジーナが、顔だけをこちらに向けて睨みつけてきた。一体どうしたと言うんだ。


「そうか、ところで例えばジーナが全生命力と魔力を使い潰して、とある相手に死の呪いをかけた結果そうなっていたとしたらどうする? そしてそれが失敗して相手はくしゃみをちょっとしただけで終わってたとしたら」

「なんだと!? そんなに憎い相手がいるのか! 誰だジーナ、相手の名前を言ってみろ、オレが仇を取ってきてやる」

「……おのれ……おのれ!!」


 なんてことだ可愛い弟子がここまで憎いと思ってる相手だと。そいつは俺の敵も同然じゃないか。


「お前とジーナの麗しい師弟関係は一旦置いとくとしてなるほど、これがお前が受けた鬼退治の依頼か」


 リリーが俺の持ってきた鬼退治の依頼内容が詳しく書かれた紙を見ている。正式に依頼を受けたということでギルドからさっき渡されたものである。


「ほーー、これはなんとまあ面倒くさい依頼を受けたなアラン」

「面倒くさい?」

「気づいてないのか? これは冒険者が鬼族を直接退治する依頼というより自警団の手伝いを目的としたものだ」


 え、どういう事? と思っていると、依頼内容の書かれている先ほどの紙をリリーから渡された。


「その紙には自警団の人間が複数人、問題の鬼族から殺傷されていると書かれている。メンツ的にも冒険者に直接退治してもらおうとは考えてない類のものだ。実際、依頼の内容も情報の収集をメインにすると書かれているだろう」


 あれーと思いながらよく見てみるとたしかにリリーの言うとおりだった。どこにも鬼の首取ってこいやみたいな蛮族的な事は書かれていない。


「お前が直接討伐するのならすぐに終わるだろうが、そうなると面子を潰されたこの街の自警団から睨まれるぞ。討伐の仕方も考えないといけないタイプの依頼だな」

「えーーー面倒くせえ、直接この鬼たちをぶっ殺したらダメなんか?」

「後先考えないならそれでもいいが、お前の弟子だとバレている身内のジーナ含めて酷い禍根が自警団との間に残るだろうな」


 なーんだその程度か、それなら問題ねえや。

 そんな事考えているとジーナに足首をガシっと掴まれた。


「師匠、やめ、やめ、やめろや」

「ジーナ……そんなに俺の事を心配してくれているのか」


 鬼退治に向かう俺を気遣う弟子の心遣いに涙が出そうになる。掴まれている足首には並々ならぬ執念を感じるが、これが師弟愛ってやつか……


 足を掴んでいるジーナの指をひとつひとつ丁寧に剥がしていくが何という執念に裏打ちされた握力なのだろう、これは俺ももっと安心させないといけないな。


「どうすればこのバカを止められるのでしょうか、呪いさえ、呪いさえ成功していれば……」


 ジーナが何事かつぶやいているが俺の耳にはよく聞こえない。心が感動でいっぱいになっていて他の言葉が心の中に入る余地が無いのだ。


「じゃあ今からさくっと鬼ども捕まえてくっからな楽しみにしてろよ」


 というわけで全力で行こうとすると、リリーに肩を掴まれた。

「まあ待て、今回はお前を焚き付けた私にも責任がある。私がその鬼どもの居場所を魔法で調べてやろう。後はその場所を自警団に報告するだけでいい」


「いやそんな事しなくても、怪しげな所で悪そうな奴らぶん殴ってたらいずれどこかでぶち当たるだろ、手助けなんて必要ないぞ」

「まあいいから好意は素直に受け取っておけ。お前に任せていると下手すればこの街が焦土になりそうな気がするしな。たまには私にも活躍させろ」


 焦土か、でも悪い人間がいなくなった結果として街が焦土と化すのならそれは一つの価値があるのではないだろうか? そんな事も考えたが、せっかくリリーが協力してくれるというのだから任せてもいい気はした。


「それならお言葉に甘えて手助けしてもらおうかな」

「よし、じゃあ少し待ってろ。魔力を街中に飛ばして鬼族の生命反応を探してやる」


 そう言うと、リリーの右手が光るのと同時に魔力が弾けた。パシッという音と共に円状に魔力の波が広がっていく。


「んー……ふむ、わかった。ここから南西3キロメートルの地点に鬼族の反応が二つある。それで間違いないだろう」

「ここから南西3キロメートル地点だな、じゃあ速攻でしばいてくるわ」


 と、そこでまたもやリリーに肩を掴まれた。

「自警団に今の情報を伝えるだけでいい、しばく必要はない、余計なことはするな、わかったか?」

「余計なことはしないで正しい事だけすればいいんだな、わかった」

「正しいこともしないでいいから、自警団に今の情報を伝えるだけでいい」


 自警団に教えるよりもオレ一人で解決したほうが早いと思うんだけどなあ。


「わかった、でも情報が正しいか裏付けのために一度その地点を調べてみるぞ。そこで本当に問題の鬼族がいたら自警団に教えてくる、これならどうだ」

「それくらいなら良いだろう。だが決して余計なことはするな、わかったな」


 とりあえず、それでリリーが納得してくれたのでリリーの教えてくれた場所へと俺は向かうことにした。

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