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第六話 もう一人のエルフ

「師匠なんて大っ嫌い!!」

「待てジーナ!!」


 ジーナが目に涙を貯めながら家から出ていった。彼女は俺の弟子になったと同時に一軒家である我が家で同居しており、今の今までここで生活していた、そう、この瞬間まで。


 泣きながら家を飛び出したジーナを呆然と見ながら、走り去ろうとするジーナの背後あたりを一発どついてとりあえず捕獲することに決めた。


 逃さん、お前だけは……そう考えていると目の前に光り輝く壁が現れた。

 とりあえずその壁をぶん殴ってみるが、壊れた手応えがない。もう数発も殴れば壊せそうな気もしたが、その前にこれを作り出したであろう人間にどういうことか問い詰めることにした。


「で、どういうつもりだリリー」

「アラン、そこに正座」


 俺がリリーの言葉に従って正座すると、リリーは俺の頭を手に持っている杖でポコンと叩いた。


「なぜジーナが家を出ていったかわかるか?」

「いや全然」


 俺がそう言うと、リリーが再度俺の頭を杖で叩いた。


「冒険者ギルドに恋人募集の依頼をだしたな?」

「はい出しました」


 ぽこんと、またリリーが杖で俺の頭を叩いた。


「そんな馬鹿な依頼を出せばこうなるのは当たり前だろ」

「なぜでしょうか」


 またまた杖で俺の頭を叩いた。地味にちょっと痛い。


「自分の師匠が恋人募集なんて馬鹿な依頼をギルドに出したら弟子のジーナはギルドでの立場がないだろうが。ジーナも泣いてたぞ、師匠のせいで自分が周りから可哀想な子として見られてると」

「何だと、ジーナがギルドでいじめられてるだと!! そいつら全員叩きのめしてやる!!」


 今度はゴツンと言うちょっと音色の違う叩き方でリリーが俺のドタマぶん殴った。ごっつ痛い。


「現在の状況でジーナをいじめているのはギルドの人間ではなくてお前だ」

「えー……」


 俺は叩かれた頭の部分を擦りながら抗議の目でリリーを見る。


「直接ジーナに何かはせず腫れ物を扱うようにしているギルドの人間、それに耐えてるジーナ、わけわからん依頼でジーナの立場を悪くしたお前、この中で一番悪いのは誰だと思う」


 誰が一番悪いか、うーん難しいな。ジーナは被害者だから除外。ついでに俺も除外。だとすると、やはりギルド周りの人間しかいないのでは。だが、待て、見方を変えてみると、まさかそうなのか……


「まさか俺が悪いのか?」

「その通りだ」

「やはりか、ギルドに出した依頼の成功報酬が低すぎて、それでジーナの立場が悪くなってしまったのか」


 そこでリリー様が渾身のフルダイビングで杖を俺の頭部めがけて振り下ろしてきた。

 流石にそれはあかんと避けると、床にぶつかった杖がいい音を鳴らしてくれた。


「今のお前に必要なのは報酬の上乗せではなくて、お前の名声だ。がつーんと地中奥深くまで下がってしまったお前の名声を取り戻すことが大事だ。ジーナの機嫌を直したいのなら、なんとかして名声の一つでも稼いでこい」


 リリーがここまで言っているのなら、実際そのとおりなんだろう。とりあえず名声の一つでも稼げばジーナの機嫌も良くなるってことか。


「というわけで、私から見てお前の名誉が回復するまでは家に戻ってこなくていいぞ。名誉を取り戻したければ適当にギルドの依頼でもこなしていればいい。後は宿屋か馬小屋にでも泊まってろ」


 そう言われると俺は自身の装備品とともに家から放り出された。無理やり家に戻ってもいいが、そうすると俺とリリーのケンカで家そのものが吹っ飛ぶ。というわけでここはおとなしく従っとこう。


「しゃあねえなあ。ちょっと名声とやらを稼いでくるか。じゃあ行ってくるぞリリー、俺がちゃんと頑張ったら家に入れてくれよ」

 俺の言葉に対して、閉められたドア越しにリリーの返事が聞こえてきた。

「ちゃんと名声を高めてきたら家に入れてやる。少なくともジーナの肩身が狭くなくなるくらいには頑張ってこい」


 俺は共に放り出された装備品を身に着けると、出ていったジーナの捜索も兼ねて、とりあえず街の方へと向かうことにした。



 しかし名声を稼げか……はーーどこかに悪党でも転がってねえかな。どこの誰から見ても悪い奴らがやってきて、それを俺が倒す。手っ取り早く名声を稼ぐならこれだよなあ。


 そんな事を考えながら街を歩いていたが、当然そんな都合のいい存在など現れてはくれない。どこを見ても日々の生活を幸せそうに生きている町人ばかりで街の治安が著しく保たれている証拠であり、悪人なんて全くいない証拠でもある。この街には俺の力なんて全く必要ないのは間違いない。


「そこの不審人物、とまれ」


 不意に声が聞こえてきた、不審人物だと? 誰だそいつは。俺は周りを見渡してみるが、そんなやつは見当たらなかった。はて幻聴かなと思っていると、また声が聞こえてきた。


「お前だお前、こっちを見ろ!!」


 そこで気がついた。眼の前にエルフの女騎士がいた。ジーナとは違うエルフで、ジーナと比べるとかなり垢抜けているように見える。そして彼女はジーナと同じ金髪で長髪だった。

 エルフと言えばブロンド、ブロンドと言えばエルフ、なるほど、確かに世間で言われている通りだ。


「人に酷似したオーガか……見事に紛れ込んだものだな」

「おいちょっと待てや」


 オーガ、亜人に含まれていない人型の魔物であり、人を超える膂力と低度な知能を持った生物。少なくとも人様に向かって言っても良い言葉ではない。


「誰がオーガだって? 俺はれっきとした人間だぞ」

「……フッ」


 こいつ鼻で笑いやがった。


「しかしどうやってここまで人に酷似したかわからんな、まさかハイクラスのオーガか? ちっ、私一人で勝てるかどうか、応援を呼んだ部下達が早く戻ってくる事に賭けるか」


 眼の前にいるエルフに釣られて周りの人達もどよめき始めた。オーガ、本当に? だとか、本当だオーガだとか、魔物がいるだとかの声が聞こえてくる。先程リリーに名誉回復を誓った俺であるが、名誉弱取り戻すどころか魔物と同じレベルまで名声が落ちてしまったようだ。

 

 見た感じだと、このエルフは立場もあるっぽいので力づくでどうこうするのにも問題ある。みんなが見てないところなら、問題ないが流石にここまで衆目にさらされてたらまずい。とりあえず、諦めて捕まるしかないか……


 遠くに、彼女の仲間らしき自警団の方々がやってくるのを見ながらそんなことを俺は考えていた。



「お前のような人間がいるか!!」

 取調室の机を叩く音が響いた。椅子に座った俺の対面には先程の女騎士がいる。

「そんな事を言われても本当だし、冒険者ギルドのメンバーカードも見せたじゃねえか」

「どうやってそれを手に入れた、まさか冒険者を殺して手に入れのか!?」


 この女なんとかしろよ、そんな意思を込めて彼女の後ろにいる衛兵達を見るが、彼らは目をつぶりながら首を横に振って答えてくれた。


「どうすれば俺が人間だって信じてくれるんだ」

「お前が自分が魔物だと自白してからなら人間だと信じてやる」

「信じる気が全くないじゃねえか!!」


 埒があかねえ、どうしようもねえ、完全な手詰まりだった。こんな糞みたいな取り調べをもうかれこれ四時間ほど続けていた。流石に疲れてきたわ。と、そこで衛兵の一人が口を出してきた。


「エリナ隊長、お疲れでしょう。あとは我々がやっておきますので少し休憩したらどうでしょうか」

「うん、そうか? 確かに少し疲れてはいるが。後を頼めるか?」

「はい、後はお任せください、しっかりやっておきますので」


 部下らしき衛兵のおっさんにそう言われると、エリナが部屋を出ていった。そのかわりに先程の衛兵さんが席についた。


「いやすまないね、エリナ隊長も悪い人ではないんだが一度決めたらこう譲らないところがあるんだ……それで本当にオーガじゃないんだよね」

「当たり前だ!!」


 おい、いい加減にしろや、そろそろ俺のメンタル様が限界だぞ。マジ泣き寸前だぞてめえ。


「本当にすまなかった。隊長も普段はあんな人ではないんだけど色々あってナーバスになっていてね」

「色々?」

「……君は確か冒険者だったね、なら良いか。ギルドにも依頼が出ていると思うが、最近街を騒がせている鬼族のことだよ」


 鬼族。オーガとは違って魔物ではなく亜人に含まれる種族。強大な体躯に力、そして人と同等の高い知能を持っている。各個体は必ず頭部から角が生えていて、それを誇りとしているのが共通している所である。


「最近は弟子の育成に力入れていたから、そこら辺には少し疎かったんだ、その鬼族がどうかしたのか?」

「その鬼族なんだが、ちょっと質の悪いのがこの街にやってきちゃってねえ、少し手がつけられないんだ。そこでギルドの力も借りようって事になってねえ。それらも含めて隊長があーなっちゃっている原因なんだ」


 あーあれか。昔もあったな鬼族が調子に乗ってチンピラみたいな真似するやつ。俺の知り合いにも鬼族がいたけど、そいつらと最初あったときもそんな感じだったな。


「君も冒険者ならギルドで依頼を受けてくれると助かる。今はとにかく人手が欲しいからね。じゃあ、後は隊長にはよく言っておくからもう帰っても平気だよ、時間を取らせてすまなかったね」


 そうして一通り話しを聞くと、俺は自警団からようやく開放されることになった。


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