追想の刻~真相~
「そんなことがあったんだ・・・・」
「それからは静葉ガ源治への復讐に食事に下剤を盛った後トイレ封鎖するという中々にファンキーなことをしたがGA、本質的には似た者同士だったんだろウ。やいのやいの言い合いながRA二人の息はぴったりだっタ。」
「それならなんで源治は姉さんを・・・・」
「それは私にもわからなイ・・・・私が知っているのはあの二人が最後に行っていたのは人造怪異の調査だということだ。なんせあいつはあの日のことを誰にも言っていないからね。その所為で査問会に呼び出されそこで大暴れ。止めようとした衛兵10人全員叩きのめした。結局私の説得(物理)で止まりはしたが君に出会う1ヶ月前まで専用の独房にぶち込まれていた。が、それでも話さなかった。そうまでして隠したい何かがあったんだろうね」
「・・・源治の日記に書いてたんだ。姉さんが死んだ日のページに「俺が殺した」って、それに監視カメラの映像にも源治が姉さんを殺す映像が、それに源治本人も・・・・」
「監視カメラ?現場には監視カメラなんて無かったはずだが・・・・」
カメラの存在を聞いてそれを訝しむ菫。それに気づかずに凛が話しかけてくる。
「・・・色々教えてくれてありがとう。ねぇ最後に教えて?静葉さんから見た源治ってどんななの?」
「そうだナ・・・概ねは君も思っているとおRI粗野で粗暴、酒癖も悪くスケベで更に他人に対してつっけんどんな癖に内心は寂しがり、と役満レベルのダメ人間だガ・・・・アイツは自分の中の「正義」を決して曲げなi。そんな男だヨ」
「それがあいつに惚れた理由?」
「まぁ他にもあるが概ねそんなところだヨ。さぁ凛君もあれから休んでいないだろU?話は通しておくからこの病院にある仮眠室で休むと良イ。」
そう菫に促された凛は自分があれから寝ていないことに気づき急に眠気を感じる。眠い目を擦りながら、菫に教えられた仮眠室を目指すためにその場を後にする凛を見ながら、そういったところはまだまだ子供なんだなと一人呟く菫。
「さてト・・・・一年前のあの事件。調べてみる価値はあるかもしれないNA」
そして菫もその場を後にする。
源治が目を覚ましたのはそれから3日後だった。
「・・・・・・おい、何で俺は鎖でベッドに縛り付けられてる」
「決まっているだろウ、絶対安静の状態の君GAベッドから脱走しないよにするためサ」
「よく分かってるな。そんじゃ「脱走」じゃなくて「許可」を貰って出ることにする。これを外せ」
「許可をもらう人間の態度とは思えないナ・・・・それだと脅迫DA」
鎖でベッドに縛り付けられたまま静葉と会話する源治。何度か力を入れてみたが拘束が解ける気配はないのでしかたなく諦めると
「教えてくレ、あの日静葉と君に何があっTA。」
「・・・・言わねぇし言えねぇ」
静葉のことを効かれた途端にそっぽを向く源治。それの構わずに菫は続ける。
「昨日、ちょっと強引な手を使ったが、静葉に関する監察医のカルテを読んだ。静葉の体には戦闘で負った傷など無く、胸部に一撃で大穴が開いている、しかも心臓が欠損している。これは君がやったのか?」
「・・・だんまりか。なら私の推察を勝手に喋らせてもらうぞ。通常人造怪異となった者は心臓に「種」を植え付けられている。そして君が静葉を殺したとき破壊したのは心臓だ・・・・静葉は何らかの理由で人造怪異になったんじゃないか?それを君が殺した。」
「だから言わねぇし言えねぇつってんだろ。ほら怪我人は今から一眠りするから帰った帰った」
「断る、私は君の主治医だ。このまま経過観察といった形で居座らせてもらう。」
そういってどかっと椅子に腰掛ける菫。その目からは梃子でも動かない意思の重さを感じた。
「・・・・・・ぜってぇ言わねぇと思ってたんだけどな」
そう呟いた後源治はぽつりぽつりと話し始める。それは忘れることのできないあの雨の日の記憶。
「あたしを殺して」
夜中の公園に呼び出されたと思ったらいきなり静葉からふざけたことを言われた。
「それは俺と喧嘩したい・・・・ってわけじゃないみたいだな、なら断る。俺は殺し合いは好きだが一方的な殺しは嫌いだ」
「これを見ても?」
そう言うと静葉は服を捲り上げた。そして見えた胸の部分には明らかに人為的に施された刻印が刻まれていた。
「あたし、人造怪異になったの。これで殺せるでしょ?」
「・・・悪ふざけするなら他当たれ。俺にその手の冗談は洒落にならんぞ」
「これを見ても冗談って言える?」
そういった静葉の右腕が禍々しいオーラに包まれた巨大で獣のような腕に変わる。
「・・・・・・・どうも人造怪異になったっていうのはマジみたいだな。それでも断る。俺は仲間は殺さない。もう二度と相棒を亡くしたくないからな。」
「そう・・・だったら!」
静葉が急に飛びかかってくる。そして振り下ろされた右腕を源治は躱す。静葉の右手が当たったアスファルトの地面がまるで寒天のように抉り取られる。
「(このパワー、俺の外しとまではいかねえがまともに食らうとやばいな)」
そう思って静葉を見ると。なんだか様子がおかしい。
「お願いっ・・・・・あたしを・・・・殺して、お願い。人間のまま死なせて」
顔の右半分が引きつり首元や腕に血管が浮いている。
「お前・・・拒否したのか」
人造怪異になるには副作用を伴う。その一つが「破壊衝動、殺戮衝動」である。しかしこの副作用は簡単に克服出来るものである。その方法は「自分が人造怪異になることを受け入れる」これだけだ。しかし静葉はそれをしなかった。あくまで自分は人間である怪異にはならない。そういった確固たる意思が人造怪異としての衝動と真っ向からせめぎ合い、それが体に拒否反応として現れたのだった。このままこの状態が続けば静葉を待つのは完全に理性を破壊された怪異と成り果てるか体が限界を超えた先の「死」である。
「もう・・・・限界みたいだから、このまま怪異になるか死ぬ前に・・・・・あたしを殺して」
「馬鹿野郎!そんなもん受け入れちまえばすむだ「だめ」」
「もしこのまま人造怪異として力を手に入れても、あたしは自分が許せない。あたしが妹を、凛を守るために欲しかったのはこんな力じゃない・・・・・それにあたしはあなたみたいにこの衝動をコントロール出来るとは思えないから」
「お前、知ってたのか」
「バカにしないで・・・・・初めてあなたを見た時から薄々気付いてた・・・・・あなたが人間じゃないって。そして凄いとも思った、人外の力を持ってるのにそれを人を守るために使うなんて漫画のヒーローみたいなことが出来るあなたのことが。けど・・・・・私は無理みたい。だから、あたしを殺して」
「・・・・・・・・・・・・・・・・一撃だ、一撃で決めてやる」
そして走り出す源治。繰り出される抜手。それを静葉は受け入れた。貫かれる静葉の体、そして源治の手に握られていた静葉の心臓を握りつぶす。
「ありが・・・とう。最後に・・・・妹を・・・凛を・・・・・あたしの代わりに、まもっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そして静葉の体から力が抜け源治にもたれかかる。
「ああ、約束だ」
既に絶命した静葉の体から体温が急速に抜けていくのを感じながら一人呟く源治。その頬には一筋の涙が流れていた。そして雨が降り始める。それはまるで源治の涙を誤魔化すために振り始めたかのようだった。
「これが静葉が死んだ日の真相だ。静葉に刻印を施した下手人は確証が無いがあたりはついてる。龍二だ。あのクソ野郎いつの間にか復活して裏で色々動いてやがったみたいだな。次こそは塵も残さず殺してやる」
病室内が沈黙に包まれる。その重たい空気のせいかは定かではないがこの話を聞いている人物はもう一人いた。それは病室の外で偶然話を聞いた凛だった。凛は話を聞き終えると何か決意を固めた表情を浮かべ、病室に入らずにその場を後にした。