追想の刻~結成~
時代は進み今に至る
「なるほど、あん時俺に首絞められて小便漏らしてた女か。・・・随分強くなったな」
「・・・それは忘れて。私は強くなった。それを証明するため、そしてあなたより強くなるため、あたしはあなたを超える。」
「・・・確かに銃の腕前も、強烈な足技も、多分術式も、あの時から随分成長したんだろうが。残念ながらお前の目指す椅子はまだまだ先にあるってこと、教えてやるよ。」
そう言って立ち上がる源治。転んだ時に切った口の端から流れる血を親指で拭えば両腕を体の前で構える。
「燃えるぜ」
そして源治は走り出す。静葉へのルートを真っ直ぐ一直線に。当然静葉は銃で撃とうとするが急に源治が走る速度を上げる。急に対象の速度が上がったことで狙いがブレる静葉。その隙を源治は見逃さなかった。一気に懐に潜り込んだ源治は左フックで静葉の脇腹を撃ち抜く。間髪入れずに右のショートアッパーで狙うのは静葉の鳩尾。これも見事に突き刺さり目を見開き悶絶する静葉。そして一旦バックステップで距離を取った源治による右ストレート。これが顔面に突き刺さり地面を転がる静葉。
「うぶっ・・・・」
肝臓と鳩尾その2つを殴られた静葉はまともに呼吸ができずその場に胃液を吐き出しのたうち回る。
「(こっちは今ので勝負決めるつもりだったが・・・・ちょっと楽しみだなこりゃ)」
倒れた静葉に追撃せずに見下ろす源治、やがて呼吸を整えた静葉が立ち上がる。
「・・・・・駄目ね、「試合」の範疇じゃまだあなたに勝てない。・・・・・だから、ここからは殺しにかかる。もし死んでも恨まないでね」
そう言って静葉は腰に下げた鎖から四つの指輪を外し左手の人差し指、中指、薬指、小指に装着する。今ままでは源治が死なないように模擬弾を使っていた(それでもまともに直撃すれば気絶するほど痛い)が、今静葉の中で源治は「殺し合い」の範疇で本気にならなければ勝てない相手だと判断した。
「そんじゃ見せてもらおうかお前の本気をよ」
源治が走り出すと、静葉が銃を撃つその銃弾は見当違いのところに飛び床に弾丸がめり込む。もう一度打撃戦に持ち込もうとする源治だが
「・・・氷術、氷柱樹」
不意に源治の背中が総毛立った。その正体がわからないまま勘で右に跳ぶ。先程まで源治が居た場所を氷の棘が抉るとさらにその棘から別の棘が生え源治を狙う。その棘は左拳に鎖を巻きつけた源治の左ストレートと正面衝突し砕けるがその隙に静葉が左手で銃に手をかざすと一瞬。薬指の指輪が緑色に光る
「術式変換「鎌鼬」」
そして撃ち出された弾丸は源治に到達する前に無数の鎌鼬に別れる。両腕を顔の前に掲げガードする源治は一瞬視界が塞がれるが、静葉にはそれだけの時間があれば十分だった。
「複合術式「四神融合」」
源治が静葉を見ると静葉の姿は先程までとは大きくかけ離れていた。背中からは朱雀のような赤い羽根が生え、頭から青龍を彷彿と角が生えている。手足の甲からはそれぞれ白虎のような二本の鋭い爪が生え、腰には先端が蛇の頭になった尾が生えた人間離れした姿になっていた。
「・・・すっごいなお前、ビックリ人間か何かか?」
「これがあたしが今出せる全力。本当は銃の腕だけであなたを倒したかったのだけれどね。とにかくこの形態になったら長くは持たないからなるべく早く済ませましょ」
そして赤い羽根を羽ばたかせ源治に接近する静葉。そして空中で繰り出される狙いを頭部に定めた鋭い蹴りを源治は左腕でブロックする。源治の動きが止まると静葉は口から炎を吐き追撃する。源治はそれを右腕だけの廻し受けで炎を散らすと左腕で静葉の足を掴み地面に叩きつけようとする。ところが静葉はその場から少しも動かずむしろ静葉が掴まれている脚を振ると逆に源治が吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。そこに追撃とばかりに静葉の手の甲から生えた二本の爪の間から生み出された雷が源治に襲いかかる。
「うおおおおおおおおおお!」
それをまともに喰らい悶絶する源治。静葉が電撃を止めると源治は肌に焦げ跡を残しながらもしっかりと両足で立っていた。
本来術式とは術者がそれぞれ持っている自分の中のスイッチ(凛であれば剣の切っ先を地面につける等)を入れ、大気中に存在するマナ(地球の持つエネルギー)を体内に取り込み、頭の中で術の内容をイメージし放出するものである。しかし静葉はそのマナを放出せずに体内に溜め込み、翼や爪として具現化する形で循環させることで身体能力の飛躍的な向上と多種多様な術式を瞬時に切り替えて使うことができるようになる。これが静葉の奥の手だった。これは誰よりもマナの扱いに長けた静葉が発見した方法であり現状こういった形でマナを扱うのは静葉しか居なかった。また静葉は銃を使っているときも左手の指輪(赤、青、緑、黄色の宝石がそれぞれはめ込まれている)を銃にかざすことでそれぞれ銃から放出する術式の属性をスイッチしている。
「野郎・・・・ぶっころしてやる!!!!!」
静葉の思わぬ反撃に頭のなかで何かのスイッチが入った源治が吠える。それをみて静葉は一瞬背筋に寒気を感じる。それは奇しくも源治と初めてであった夜に感じた恐怖と同じだった。
「もう一回小便漏らさせる!」
「随分といい趣味ねっ!」
静葉の頭のなかで瞬時に源治に対する戦法が決まる。すなわち遠距離から一切近寄らせずに削りきる。そうと決まれば瞬く間に静葉の周囲に氷柱や炎の玉が形成され源治に向かっていく。源治はそれを一切避けずに正面から受けて立つ。飛来する氷柱と火玉を殴り、掴み、投げる。
「止まらない・・・なら!」
氷柱と火玉では効果がないと判断したのか、先程効果のあった雷撃を浴びせる。その衝撃で砂埃が舞い源治が見えなくなる。一瞬やりすぎたかと思う静葉だが煙の中から目を赤く光らせ悠然と歩を進める源治に驚愕する静葉。
「こんなチンケな攻撃で俺は倒れねえよ。もっとガンガン来い!」
プロレスの挑発のように右拳で自分の胸をドンドンと叩くと静葉に向かって走り出す源治。そこからはまるで怪獣映画のような有様だった静葉の手によって部屋の至るとこから氷柱や火柱が出現し、岩塊や鎌鼬、雷撃が全て源治に襲いかかる。源治はそれら全てを正面から力でねじ伏せ迎え撃つ。やがてその攻防も終演を迎える。立っていたのは源治だった。静葉は息も荒く地面に片膝をつき辛そうだ。
「あなた・・・どんな体力してるのよ・・・・化物みたいな体力ね・・・・・・」
「まー、ちょっとした肉体改造でな。持久力瞬発力両方合わせもった筋肉に改造したうえに戦闘に使う部分はアホみたいに鍛えてるからな。お前らとは鍛え方と年季が違う」
「そう・・・でも、負ける訳にはいかない!」
そして立ち上がった静葉が左手で右足に触れると右足が炎に纏われる。ロンダートを行いバク宙によって遠心力が加わった飛び蹴りが源治に向かっていく。
「っ!?やべっ!」
まさに窮鼠猫を噛むといった一撃に焦った源治は思わず戦闘中にちょくちょく使った「外し」を静葉の飛び蹴りに合わせ形で回し蹴りを放つ際に使ってしまう。今まで術式に対する防御のときにしか使っていなかった「外し」を術式で強化しているとは言え生身の人間に使ってしまった。源治がマズイと思った瞬間には二人の蹴りは激突しており、一瞬均衡を保った後静葉を壁に吹き飛ばしてしまう。
「がはっ!」
コンクリートの壁に叩きつけられ息が詰まるとともにその衝撃で気を失う静葉。次の瞬間源治の側頭部に見事な回し蹴りが叩き込まれる。地面を転がる源治を見下ろすのは菫だった。
「やりすぎだバカ!生身の人間相手に「外し」なんて何考えてるんだ!」
「いや・・・それは・・・ちょっとびっくりしたはずみというやつで・・・・」
「いやもなにも打ち所が悪ければ死んでたかもしれないんだぞ!」
「はい・・・すいません・・・・久しぶりに全力を出せる相手だったのでつい調子に乗りまして・・・」
「はぁ・・・・幸いただ気絶してるだけみたいだかラ、君が部屋に運んでやRE。」
「えっ・・・俺も結構ボロボロなんですけ「なんだって?」・・・・なんでもありません」
「それならいイ、私はこれから予定が詰まってるんDA。失礼すル」
そう言って正座する源治を置いてその場から立ち去る菫。
「仕方ねえ、とりあえず運ぶか・・・・痛ぇ」
痛む体にムチを打ち気絶してぐったりしている静葉を抱えて部屋に運ぶ源治。そして数時間後目を覚ます静葉。
「ここは・・・あたしは確か・・・・」
そして思い出す。今まで源治と決闘を行い自分が負けたことを。
「そうか・・・負けたのかあたしは・・・・・」
「おっやっと起きたか」
肩を落とす静葉の横で椅子に座った源治は体の至るとこのに包帯を巻いた状態で本を読んでいた。気づくと静葉の体にも包帯が巻かれている。
「この包帯は菫が?」
「いんや、俺が巻いた。菫のやつ予定があるって言って帰っちまいやがったからな」
「なに?じゃああたしがいま裸なのも」
「ああ、俺が脱がせた。そうでもしねえと包帯巻いたりシップ貼れねえだろ?けど気絶してる人間の服脱がすのって結構大変なんだな」
「それはわかるが、どうしてズボンと下着を履いていないんだ。私は」
「そりゃおめえ頭打って気絶した拍子に漏らしてたからな。流石に女のパンツ替えるのは気が引けたままだからよ。とりあえず洗濯中だっ!?」
全て言い切る前に静葉の拳が源治の顔面に突き刺さる。
「このバカ!変態!鬼畜!天魔!増上慢!」
流石に静葉も恥ずかしいのか顔を赤くし涙目になりながらポカポカと力が入ない状態で源治を叩く。
「言っただろっ、もう一回漏らさせるって、前の時はこれより酷かったんだからっ、いいじゃ、ねえか」
「・・・・・責任」
「へ?」
「責任!取れ!私と!コンビ!組め!」
「はぁ!?何でそういう話になるんだよ!?それになんで俺なんだよ!お前ぐらいの腕のやつなら引く手数多だろ!?」
「・・・・・あの夜、あなたが私を助けたあの夜。あたしはあなたのその強さに憧れた。あたしには妹がいる。あたしはその妹を守れるように強くならなくちゃいけない。だからあなたを選んだ。あなたとならあたしはもっと高く飛べる。」
「要するに俺と行動して強さの秘訣を盗みたいってわけね」
源治は頭を抱えた。自分の強さの秘訣、そんな大それたものはなくただ人造怪異の力と物心ついた時から戦い漬けの日々を送っていた。この2つだけである。自分が人造怪異なんて言えないし、戦闘漬けについてはこれを言った場合またひとりで暴走しかねない。そんなことを考えていると静葉が源治の腕に抱きついてきた。グイグイと胸を腕に押し付けてくる。その柔らかい感触を感じながら源治は答える。
「・・・・わかったよ、組んでやる。ただし、俺の指示には従えよ。あと腕に抱きつくのを止めろ。色仕掛けのつもりだろうが傷口にあたって死ぬほど痛い」
「あっ、ごめんなさい。けどありがとう。もしこれでも駄目だったら「あたしが気絶している間に裸にひん剥いて辱めた変態だって噂を流す」って脅迫しようと思ってたから」
「(この女!恐ろしい子!)」
美○すずえタッチの顔になった源治。こうして結成したコンビは後に「黄金コンビ」や「物理と術式の双璧」と呼ばれるほどの名コンビとなる。




