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SLASH/SHOT~Frame Warrior&Ice Valkyrie~  作者: 雑賀ランボー
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追想の刻~狂った獣~

 静葉は己の傲慢さに自己嫌悪した。訓練所の教官からは銃の腕と術式の扱いを褒められた。それで思い上がってしまった。本来複数人で行うはずの狩りを一人で行ってしまい、結果グールの群れに単身で挑み敗走する結果となってしまった。今の静葉は銃を砕かれ脚にも傷を負ってしまった。今は物陰に身を隠しているがいずれ見つかるだろう。そうなれば今の自分には抵抗する術がない。嬲られ、殺されるだろう。最悪犯されるかもしれない、そう思うと背筋が寒くなる。次第に足音が近くなる。恐ろしさのあまりギュッと目を瞑り妹のことを思う。


「(凛、ごめんね。お姉ちゃんここまでみたい・・・・)」


 生臭い匂いに目を開くとそこには赤く光る双眸があり。牙が目前に迫る思わず声が漏れる。


「・・・・助けて」


「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


 まるで獣のような咆哮が響き渡る。それは目の前にいたグールのものではなく別の場所から聞こえた咆哮だった。咆哮の主は今にも静葉を犯さんとするグールをタックルで壁に叩きつけると力任せの右ストレート、その一発で頭を粉々に砕いてしまう。その人間離れした膂力に新手の怪異かと思うが、それは人間の形をしていた。


 本来黒いはずのロングコート爪痕や歯型でズタズタになり己の出血と返り血で赤く染まっていた。その男の戦い方はメチャクチャだった。続いて現れた後続のグールたちに向かって突進していくと、力任せに殴る、蹴る、噛み付く、引き裂く。己を染める血の色と同じく赤い色の目をして暴れる様はまさに怪異そのものだった。


 少ししない内に終わった暴力の嵐の中心で荒く息をしながら立ち尽くす男。静葉はその男に声をかけようとする。


「あの・・・あなたはっ!・・・・・がはっ」


 男は静葉が声をかけた瞬間静葉に近寄り首を掴むと壁に叩きつける。万力のように締め上げられるその手を掴み引き剥がそうとするがびくともしない。


「わたっ・・・てきじゃ・・・・・だずげ・・・・っ!」


 気道が完全に遮断されると辛うじて出せていた声も出なくなる。静葉は死にたくない一心で力の入らない手で首をつかむ腕を叩き、体をくねらせ脚を動かせるだけばたつかせる。しかしそれも血中に残ったわずかな酸素を徒に消費させるだけだった。


「ひゅー・・・ひゅー・・・・ゴボっ」


 もはや静葉の命の灯火は消えかけていた。目は白目をむき口からは泡状の涎が絶え間なく流れ出て服の胸の部分を濡らす。手はダラリと垂れ下がり、手足共々ピクピクと痙攣するだけになっている。筋肉が弛緩し失禁したことでホットパンツの股間部分が黒く変色し、太ももを黄色い液体が伝い地面にシミを作る。もはや静葉の命運が尽きたかに思われたその時。


「止めろ!!彼女は私の友人!味方だ!」


 白衣を着た女が男を後ろから羽交い締めにする。それにより首をつかむ手の力が弱まりようやく開放された静葉は地面にへたり込むと激しく咳き込みその場で嘔吐する。白衣の女はそれを見ると静葉に駆け寄る。


 「静葉、わかるか?私だ、菫だ。他の同僚からお前がチームも組まずに一人で怪異狩りに行ったと聞いて。増援を連れて行きたかったが現状増援を頼めるのが彼しか居なかった。まさかこんなことになるとは、許してくれ。」


 許しを請う菫に対して禄に返事ができないものの頷く静葉。男の方を見ると自分が殺した怪異の死体を更に踏み潰しひき肉に変えていた。


「源治!」


 それを見た菫が源治に駆け寄り抱きしめると半ば無理矢理にキスをする。どれだけそうしていただろう、恐らく舌を絡めていたせいか唾液の糸を引きながら唇を離す菫。そして源治と呼ばれた男をもう一度優しく抱きしめれば優しく耳元で囁く。


「もう良いんだ。もう終わった。敵はいない」


「敵は・・・いない」


 その言葉を境に男は大人しくなる。それを見た菫は最後にもう一度だけキスをすると再び静葉のもとに歩み寄る。


「立てるか?肩を貸そう」


 そう言って静葉に肩を貸す菫。


「あれは・・・誰?人間なの?」


「・・・あいつは葛城源治。聞いたことあるだろう?今は・・・・・少し心を病んでしまっている。だから暴走した時はさっきみたいに止めてやらなければならない。まるでケルト神話に出てくる英雄クーフーリンのようだな」


 葛城源治、聞いたことがある。5、6年前の人造怪異岩永龍二の討伐の他戦闘においては護国対魔隊において五本の指に入ると言われている男だ。


「なんでそんな男が菫と一緒にいるの?あなた技術班でしょ?」


「彼とはちょっとした縁があってね。今は私と行動を共にしている。」


「おい」


 先程まで突っ立って夜空を見上げていた源治がいつの間にか二人の目の前にいた。先程のことを思い出して体が強張る静葉。しかし源治は


「お前、銃と術式意外にも武器を持て、具体的に言うと徒手空拳でも戦える術を身に着けろ。たとえ女の足でも鉄板仕込んだブーツ履けば立派な凶器だ」


 特に何もせずにそれだけ言うとフラフラとその場を後にする。


「あれはアイツなりの謝罪のつもりなんだろう。後でよく言っておくから許してやってくれ。」


「菫が言うなら良いけど・・・元々あたしの独断専行が原因だし。けどどうしてあいつにそんなに肩入れするの?」


「・・・・・惚れているんだよ、私は。あの強くて脆い男にね。だがアイツの心の中には既に別の人間がいる。だけど私は決めている。たとえ娼婦の様に扱われても良い。アイツのそばにいて支えてやりたいとね」


「まぁ菫の決めた相手なら文句はないけど・・・・その心に決めた人はどうしたの?恋人がいるならあなたとあんな真似しないでしょう。」


「・・・死んだそうだ、岩永龍二に殺されてね。それからだアイツが狂ったのは。最初の相棒と最愛の女を同時に亡くしたことでアイツは壊れてしまった。今のアイツは自殺志願者と同じだ。戦いの中で死のうと足掻く一匹の獣なんだよ。だからせめて私にできるのはアイツに抱かれてせめてもの慰みになるぐらいだ。それ以上は自力で立ち直ってくれるのを願うしか無い。」


 それを話す菫の目は悲しそうだが本気であるということがわかった。


「そう・・・あなたの思いが届くと良いわね」


気づけば菫が用意した車の前まで来ており、菫と静葉はその場を後にする。それからの菫は怪我を治した後一層訓練に激しく打ち込むようになり源治のアドバイスの通り足技を中心に使うテコンドーを身に着け5年後稀代の天才術士と呼ばれるようになる。

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