禁断のHistory
「こんぐらいでくたばるタマじゃねえだろさっさと起きろ」
壁が崩れたことで上がる土煙を見ながら源治は構えを崩さない。源治は知っている何度も命のやり取りをしてきた相手がこの程度で死ぬはずはないと。大方の予想通りロボは立ち上がった。
「お前が人の身で戦うなら・・・こちらも人のみで戦うが礼儀。そう思っていたが・・・このままではそうは言ってられないな」
ゆらりと立ち上がったロボの目が赤く光る。それはまるで「外し」を行った源治のようであった。みるみるうちにロボの姿が変わる。人狼として真の姿を晒したロボの大きさは190cmを超える菫よりも大きく2mはあろうかという巨大な人狼へと姿を変えていた。
「真の姿を晒すのは何時ぶりか・・・簡単には死んでくれるなよ?」
「へっ上等!」
真の姿を表したロボの周りの空気が一変する。ただでさえ鋭い殺気がより鋭く、油断すれば殺気だけで肌が切れそうだ。
そして源治の拳が、ロボの爪が、源治の蹴りが、ロボの牙が激しく交差する。邸内により一層激しく破壊の嵐が吹き荒れる。
源治とロボが激闘を繰り広げる少し前凛は岩永邸の裏手で捜査を行っていた。
「本当にあいつが姉さんを・・・」
捜査中の凛はどこか上の空だった。凛の頭のなかで竜一の発言、そして源治の日記の内容がぐるぐると回る。
突然邸内の表で大きな破壊音が鳴った。最初は癇癪を起こした源治がなにかを破壊した音かと思ったが、それが一回で終わらず断続的に聞こえてくると、源治の癇癪ではなく源治が何者かと戦っているのだということに気付いた。急いで源治のもとに駆け出そうとする凛の背後から声がかけられる。
「お久しぶりですねぇ城ヶ崎さん」
凛が振り返ると、そこには退魔部調査班所属岩瀬竜一が立っていた。
「・・・今は話してる場合じゃないんで」
そう言って走り去ろうとする凛。
「良いんですか?お姉さんの敵を助けに行くような真似をして」
「っっ!!」
姉の敵。その単語を聞いた凛の足が止まる。
「違う・・・あいつは・・・スケベで、乱暴でどうしようもない人間だけど・・・あいつが姉さんを殺したなんて絶対にない!!」
まるで自分に言い聞かせるような悲痛な声を聞きながら竜一は懐から一台のタブレットPCを取り出す。
「貴方のお姉さんが死んだときの映像が偶然現場の監視カメラに残っていました。残念ながら機材の関係で音声までは拾えていませんでしたが、それでもこれを見れば真実がわかるはずです」
「っ見せて!」
竜一の手からひったくるようにしてタブレットを奪い取る凛。再生ボタンを押せば、映像が流れ始める。
撮影場所は夜の公園のだった街灯が照らす中一組の男女が向かい合っていた。片方は黒い長髪に燃えるような赤い瞳の美女、見間違えるはずもない姉の城ヶ崎静葉だ。もう一方も見間違えるはずがない。黒いロングコートに右手には通常の一回りも長く太い日本刀「斬無」を持っている、源治だ。
二人は向かい合ったまま何かを喋っていたようだが、突然静葉の背中から赤く染まった腕が生える。
「嘘・・・」
凛が呟く。源治が静葉を刺殺したところで映像は終わった。映像が終わると同時に凛の手からタブレットが地面に落ち乾いた音を立てる。
「嘘、嘘だ嘘だ嘘だ!私は信じない!絶対に!」
「そうですか・・・ではこれを見ても同じことがいえますか?」
そう言ってタブレットを拾った竜一が操作して再生した動画は今戦っている源治のものだった。
「彼が戦っているのは狼王ロボと呼ばれる強大な力を持った人造怪異です。もう習ったかもしれませんが人造怪異は力を開放するとその瞳が赤く変色します。その上で問います。彼の瞳は何色ですか?」
「あ・・・かい・・・」
「ええそうでしょうとも。それにいくら人間とは言えあそこまで強大な力を持った怪異と正面からぶつかるなどまともな人間の出来ることではありません。つまり、彼は人造怪異であり。すなわち我々人類の敵と言うことです」
「許さない・・・殺してやる!」
そして激情に駆られた凛が源治のもとに走り出す。それを見送る竜一の表情は計画通り、してやったりといった風な顔であった。