Death of past~鬼哭啾々~
「そろそろだろうな」
「?、何がですか?」
お互いの体の傷も癒え、いつもどおり地下で組手をやっているとふいに源治が呟いた。
「あいつが動き出すのがだよ。あのタコ変なところで律儀だからな、多分俺達の体が治った頃にまた俺らをおびき出すために一悶着起こすだろうな」
あいつとは亜紀の兄龍二のことである。
「あいつの目的は「万全の状態の葛城源治を自分の手で殺して自分が上だと証明する」だからな、俺の体が万全じゃないうちは大人しくしてたが、そろそろなんかしかけてくるだろ」
「やはり兄はあの時のことを・・・」
あの時というのは源治と龍二、そして亜紀がまだ見習いだった頃、亜紀を「出来損ない」とバカにした龍二に源治が突っかかり大喧嘩になった事件のことである。その時は源治が龍二を倒し決着となったが、今まで武門の名家の長男として挫折無く生きてきた龍二にとって、座学は落第一歩手前で家柄も良いわけではなく粗野で粗暴な、龍二にとって「出来損ない」である源治に負けたのは相当なショックであり、あれ以来龍二は源治を倒すことだけを念頭に武を磨き続けてきたという。
「自業自得だろうにあの馬鹿、変な逆恨みしてくれちゃってまあ」
「兄は昔から気位の高い人でした。源治殿に負けたことに加え、当主に指名されなかったことでその気位が完全に砕かれたのでしょう。だからあのような下法に手を染めてまで・・・」
そんな会話をしていると、地下室に備えられている連絡用の黒電話(チョイスが古いのは源治の趣味である)が鳴る。源治がそれを取りしばらく会話し受話器を置くと、その顔は先程まで談笑していたときのような穏やかな顔ではなく、戦に向かう侍のような鋭い顔つきになっていた。
「噂をすれば影ってやつだ。今から30分前岩永の本邸が襲われた、カメラが龍二が門をくぐるのを写したのを最後に映像が途切れてる。準備してとっとと行くぞ」
「っっ!!、はい!急ぎましょう!・・・父上、母上・・・どうか無事で・・・・」
源治と亜紀は源治の運転するバイクに乗り岩永家の本邸に向かう。亜紀も源治も武器は愛用の刀一本だけだ。
岩永家の本邸は郊外の人気のない山の中腹に建てられており、外見は巨大な寺であり、敷地内に複数の建物があり本堂の裏手には池もある等かなり巨大な邸宅である。そこには数多くの門弟がそこに寝泊まりし日々部を磨き続けている。
長い石段を走り抜け開け放たれたままの門をくぐるとそこは地獄絵図であった。
邸内は赤いペンキをぶちまけたように至る所に血が流れバラバラになった人間の手足や頭がそこら中に散らばっている。
そして血溜まりの中央には、所々返り血を浴びその身を赤く染めた岩永龍二が立っていた。
「ようやく来たか。あまりに遅いので暇つぶしにこいつらと遊んでやったらこの有様だ、なんという体たらく。一人の賊にたいしてここまで遅れを取るとは岩永の家名も地に落ちたな」
「兄上・・・父上と母上はどうしたのですか・・・」
怒りを押し殺した表情と声で亜紀が龍二に問いかける。
「ああ父と母か、それならここだ」
そう言って地面に何かを放り投げる。
それは龍二の両親、ひいては亜紀の父と母の首だった。
「私の才能を認めず貴様のような出来損ないを次期当主にしようとするような愚か者たちだ。ならばせめてあの世に送ってやるのが子として最後にしてやれることだろう」
「・・・・貴様あああああああああああ!!!!」
激高した亜紀が龍二に斬りかかる。龍二は軽くいなせば、遅れて源治が加勢に入ろうとする。
「出来損ないの妹と出来損ないの狂犬、二人相手するのは面倒なんでな。オマエの相手はあいつらにやってもらうとしよう」
突如現れた影が源治を横から殴りつける。吹き飛ばされた源治が立ち上がった瞬間足元に魔法陣が発動する。短い距離をつなぐ移動用の術式だ。源治が飛ばされたのは、岩永邸の裏手にある門弟たちの修練所であった。
そこには先程源治を殴りつけた雲水風の壮年の男の他に弓道着を着た長髪の若い女性、槍を構えた僧兵姿の若年の男、忍者装束を身にまとった女性が待ち構えたいた。
「こんなかっこしてる俺が言うのもなんだけどよ、ここは仮想パーティーかなんかか?」
そんな源治の軽口に対してなんの反応も示さず、雲水風の男が言葉を発する。
「拙僧は玄武」
長髪の女性が告げる
「私は朱雀」
僧兵風の男が告げる。
「俺は青龍」
忍者装束に身を包んだ女性が告げる。
「拙者は白虎」
「「「「我ら、龍二様を主と仰ぎ龍二様のために武を振るう。人呼んで四神。」」」」
「我らの役目は貴殿の足止め、しかし殺してしまってもかまわないとのこと。故にここでお命頂戴いたす。」
「・・・お前らあいつがどういう存在かわかった上であいつに付いてるんだな?」
「然り、この戦が終われば我らも龍二様と同様に人を超えた存在へと転生する所存」
「そうか・・・まだ怪異じゃねえってんなら生かしといてやる。ただし俺の前に立ちふさがるんだ、腕の一本や二本は覚悟しろよ」
「笑止!我ら四人を前に貴殿一人で勝てると思うとはとんだ思い上がり!」
「良いから早く来いよ。こっちは可愛い後輩と腹立つバカのとこに行かなきゃなんねえんだ。加減は無しだ、お前ら全員ぶっちめる。」
そして源治と四神の四人が激突した。
源治が四神との決着を着け、門前に戻ってくると同時に決着が付いていた。
そこには片腕を切り落とされ、全身を切り刻まれ龍二の刀にその身を貫かれた亜紀が居た。
「ようやく来たか」
龍二は源治が来たことに気づけば、亜紀の体から刀を抜く。源治は手にしていた愛刀で斬りかかる。それを受け止めた龍二の腹部に亜紀にもやったように手を当て寸勁で吹き飛ばし無理やり距離をとらせる。
刀を抜かれその場に倒れた亜紀に源治が駆け寄る。亜紀は体中から血を流し目にも光が灯っていない。源治の服が亜紀の血で濡れる。
「亜紀!」
「ごめんなさい・・・源治殿・・・・私・・・・・源治殿に言われたこと守らずに一人で・・・・・」
「もう良い喋るな!」
今まで大量の死を自分が作り出してきた源治には分かってしまった。もう亜紀が助かることは無いということを。
「源治殿・・・私は・・・・もう助かりません・・・だから最後にひとつ・・・・・最後にひとつだけお願いがあります。・・・・・これからも・・私が愛した・・・「格好いい」源治殿でいてください。」
「ああ・・・・約束してやる。」
そして源治は亜紀をこれ以上血で汚れるのも構わずに抱き寄せる
「ありがとう・・・」
その一言を最後に亜紀の体から力が抜ける。源治は亜紀が力尽きたのを確認すればそっと地面に寝かせ、手で目を覆い目を閉じさせる。
「もうお涙頂戴の茶番は終わったのか?わざわざ待ってやったんだ感謝しろよ。しかし予想よりも到着が早かったな、やはりあの四人では駄目か・・・」
俯く源治に龍二はそんな言葉を投げかける。
「・・・お前ほどの腕があったら亜紀をあそこまでいたぶって殺さなくても適当なところで無力化できただろ、なぜ殺した」
「決まっているだろう、岩永の後を継ぐのがあんな出来損ないじゃ家名も地に落ちる。だから殺した。それにあいつは俺から次期当主の座を掠め取った女だ、痛めつけたのはそういった憂さ晴らしのためだな」
「そうか・・・良かったな。これでプラチナチケットゲットだ。・・・・てめえの地獄への片道超特急のな!龍二!てめえは俺が殺す!」
「地獄へ行くのはお前だ源治!」
走り出した源治の愛刀「宇文字」と龍二が手にしている二刀一対の刀「隕鉄」「陽鉄」が火花を上げてぶつかる。
今、龍二と源治。長年の因縁を持つ二人の殺し合いの火蓋が切って落とされた。れた。




