Death of past~衝突~
早朝、いつもより早く目が覚めた亜紀が地下に降りると、そこには木刀を持ち素振りをする源治の姿があった。
「源治殿、今朝は随分と早起きですね」
「珍しく目が覚めちまったからな、怪我もそんなに深いわけじゃないしちょっと体動かそうと思ってな」
「そうですか。それにしても源治殿が素振りとは珍しいですな」
「ん?ああまあ軽くな、最近は刀振ってなかったからな」
「軽くと言うには随分と汗だくのようですが・・・」
亜紀の言うとおり源治の体は汗だくで軽く素振りをしていたというのが信じられないような風体だった。
「まあこの木刀特注で作らせた金属製だしな。持ってみ」
そう言って亜紀に木刀?を手渡す。
「では失礼して・・・」
木刀ならぬ金刀を片手で受け取った亜紀はその重さに負けて切っ先が地面に激突する。切っ先が地面に激突すると地面のコンクリートに僅かにクモの巣状のヒビが出来る。
「重っ!何キロあるんですか!?」
「・・・確か作ったやつは50キロとか言っててな」
「ごじゅっ・・・そんなもの振り回してたんですか!?」
「やっぱ技も重要だけど最後に物を言うのは筋肉だからな、とりあえずレベルを上げて物理で殴れば良いんだよ」
「はは・・・なんというか・・・源治殿らしいですね」
「そういえばお前も早く目が覚めたクチか?」
「ええ・・・源治殿は傷もあってお休みでしょうから一人で鍛錬をしようかと」
「水臭いな、言ってくれりゃ付き合う。。。って言いたいところだが今はダメだ。おっさんに昨日のことを報告しなきゃいけねえからな」
「そうですか・・・やはり兄は・・・」
「流石にあんなトンチキなもん見せられちゃ上に報告せずにだんまりって訳にはいかないだろ。まあお前の兄貴の処遇は良くて豚箱、普通に考えりゃ討伐対象だわな。・・・辛いなら言えよ。そんときゃ俺一人でやるからよ」
「いえ・・・私は・・・すいません。すこし考えさせてください」
亜紀の様子にそっとしてやったほうが良いと感じた源治は、これ以上は何も言わずに地下室を後にする。
地下室から出た源治は自室に戻り椅子に腰掛けると、携帯を操作し電話をかける。電話の相手は荘厳である。
「俺だ要件はわかるな?」
「ああ、昨夜メールで簡単な報告書を読ませてもらった。怪異と人間の融合。確認するのは2度めだな。1度目は1体だけだったが今回の報告を聞くと複数体融合に成功しているようだな」
「とりあえず2体はぶっ殺した。後は報告書にも書いたが厄介な奴が敵になってる」
「・・・亜紀君は知っているのか?」
「知ってる。とりあえず無理ならオレ一人でやるって言っといたが、ありゃ絶対ついてくるな。とりあえずその辺は俺がなんとかするからおっさんは他の奴らにこの情報を回しといてくれ」
「・・・人造怪異については周知できるが・・・・龍二については箝口令が敷かれた。」
「は?」
「この事実を知った上層部・・・岩永家が口止めをシてきた。曰く「岩永の人間が怪異に与したと知られれば家名が地に落ちる」とのことだ」
「~~~~~~~クソっ!家名で人類平和が守れるかよ!F○CK!」
「全くだ、だが手を出すなというわけではなく。この事実を知っているもの。儂は簡単に動けぬから実質お前と亜紀君で岩永龍二を内々の内に処理しろとのことだ」
「要するに息子がどうなってもいいけど家名に傷はつけるな。そういうことか」
「身も蓋もない言い方をするとそうだ、だがこちらからも出来得る限りの支援はしよう、なにかあれば言ってくれ」
「ああ、業腹っちゃ業腹だがおっさんも中間管理職だもんな仕方ねえや、まあこっちはこっちでやってくさ。そんじゃ切るぜ」
そう言って通話を終え一息つくと手にした携帯を怒りのまま壁に投げつけようとして、これがないと情報が来ないことに気づき思いとどまる。
行き場を失った怒りは携帯の代わりに床を踏みつけるという行為で発散させたが、その際力が入りすぎたせいか床板を踏み抜き片足が床に埋まってしまう。
「・・・しまった、あとで修理だなこりゃ」
穴から足を抜き、体からホコリを払うと腹が鳴る。そう言えばまだ朝飯を食ってなかったと一階に降りる。まだ亜紀は地下にいるようなので、備え付けのインターフォンで呼んで朝食を食べていると亜紀が聞いてきた。
「あの・・・兄のことはどうなりましたか?」
その質問にやっぱり来たかと少し渋い顔をすれば、先程荘厳と話した内容を話す。それを聞いた亜紀の反応はと言うと
「やはりそうでしたか・・・」
「やはりって・・なにか心当たりでもあんのか?」
「はい、私達の両親は良い両親だったのですが、祖父、つまり前当主がそういったことを気にする方ですので」
「そいつなら俺もちらっと見たことがあったな。もう100位行ってんじゃねえか?まだ生きてんのか、妖怪みたいな爺だな」
「現当主こそ父ですが、未だ祖父の発言力は強く父が私を次の当主に指名したときも一悶着あったそうです。・・・恐らく兄がああなったのはそれが原因の一つだと思います。」
「・・・引退したくせに口出してきて世間体を気にする妖怪じじいに当主に指名されなかったコンプレックスからグレた兄貴。なまじ家柄が良いと大変だな」
「ですが、私自身も迷っています。私のような非才のものが岩永の次期当主を務めて良いのか、と」
「・・・俺はお前の親父がお前を次期当主に指名した意味、何となく分かるな」
「それは・・・なんですか?」
「そりゃおめえ・・・やっぱいいわ。憶測で物言うのもどうかと思うしな」
「そうですか、ですが先程の話で兄を斬るしか無いと聞いて決心がつきました」
「決心って何よ?」
「私は・・・私の手で兄を斬ります」
決意を秘めた表情で話す亜紀の言葉を聞いた源治は
「却下」
「っ!そんな!どうしてですか!?」
「兄殺しなんて十字架背負わせられるかっちゅー話だよ。・・・それに俺より弱いやつがアイツのこと斬れんのか?」
「それはそうですが・・・」
「わかったら留守番してろ。あいつはオレ一人で相手する」
そのあんまりな物言いに亜紀がムッとした顔をする
「・・・私が強いことを証明できれば良いんですね?でしたら!私と勝負してください!もちろん真剣でです!」
「ちょい待て!お前そんなに兄貴斬りたいのかただムキになってるだけじゃって・・・行ってもうた」
源治が止める間もなくガタンと椅子を倒しながら亜紀が立ち上がり、肩を怒らせながら地下に向かう姿を見れば以前荘厳に言われた「お前は武芸と相手を怒らせる才能だけは天下一品だな」という言葉を思い出しながらあの様子では何を行っても止まらないだろうと観念し溜息を吐けば、後に続いて地下に向かう。