120 アイシテル
映画館の灯りのように目まぐるしく瞳を過ぎるハイウェイのライト。
平行をたどる視線。
吸い込まれるほどにまっすぐに伸びた中央線。
夕の終わりが迫っている。
灯りはもう微か、西の空に茜が残るだけ。
宵闇が、やがて二人の背中に手を伸ばすだろう。
彼は自分の弱さを知っている。
けれど、できれば強くありたいと願っている。
だから、どうしても呼んでしまう。
自分を強くする、その名を。
何度でも、何度でも。
「トワ……」
「……ん?」
「……いや、なんでもない」
彼女は、運転席の彼を横目でちらと仰ぐ。
その瞳の感情に気づかれないように。
こらえきれなくて、全てを吐き出してしまいたい衝動に刺し貫かれる。
本当は崩れそうな、泣き出しそうな頬を、長い髪で隠す。
そして、やがて、唇がつぶやく。
そっと、静かに。
「モトキ……」
「なに?」
「……ううん……」
彼は知り、彼女も知っている。
宵闇までの時間は、もう残り少ない。
けれど、まだ、言葉に出来ない。
だから、視線は平行線を保ったまま、彼らは別々に思う。
(やっぱり、僕は、君を、)
(それでも、私は、あなたを、)
その先を知るまでには、まだ、少しだけ、時間がかかる。