108 だって、仕方ないじゃない。私は……
朝日が地平線から顔をだした。待ちくたびれるほど待ちこがれた朝が、やっと私達の足元を照らしはじめた。公園の草の一筋一筋までをも、光のはけは余すところなく照らしつける。
「ファイルを読んだわ。ホテルの貸し金庫に預けてあったわね」
「……」
「藤堂さんもモトキも、シンヤ、あなたが……」
「トワ、黙りなさい」
シンヤの拳銃が私から逸れた。腕を持ち上げ、それが静かに動いてトワのほうを向いた。
彼女は広場の隅に立ち止まって、黙った。
波の音。
ゴクリ、シンヤが息を飲む音が聞こえた。
彼の表情に初めて人間的なものが混じった。それは、あの明るく快活な「彼」の表情だった。困惑、悲壮、そんな言葉では表せない。彼がこの三年間隠し続けてきた表情だった。
車が近付いてくる。どこか、近く。
「あんたがあの時、モトキを殺すという任務をいつまでも渋っていたから……武石は私に彼を殺させた。だって、仕方ないじゃない。私は……」
彼は言葉を詰まらせた。
車の音が近付いてくる。
パトカーのサイレンも近付いてくる。どこか近く。世界の座標の中で自分の位置は分からないけれど、私の近くだということは分かる。それで良かった。多分それがこの世界での私のすべてだ。
朝日が昇る。今日を告げる。人を起こす。そうして、刻がまわりはじめる。