106 叶わない想い
「あなたが殺さなければ、お兄ちゃんはトワの中でここまで伝説になることなんかなかった。ここまで事象をややこしくすることなんかなかった。藤堂さんも殺す必要なんてなかったのに」
「生きていたって同じだわ。生きていたら、トワはあいつと一緒に組織を去っていた。そうしたら、私が二人を追うことになる。同じよ。結局、どうしたって私はこのままだわ」
正直喋りづらかった。口の中が切れていて、一言発するごとに痛む。
だが、やめるわけにはいかなかった。沈黙がおりた時に殺されてしまうような気がして、怖かった。
見下ろすシンヤの顔に叩き付けるように、言葉を紡ぐ。
誰か、先刻の銃声に気付いて。
トワ。
津久田さん。
お兄ちゃん。
「やめればいいのよ、あんな組織、中埜貿易なんて。おじさんから独立すればいい。いつまでも一緒にいる必要なんてないわ」
「あんたには分からない」
「シンヤを操っているだけの人間じゃないの。裏社会に引っぱりこんで、自分のいいように使って、何でも自分の思うままになると思ってる。何故、反抗しないの? 行動を起こさないの?」
「黙れ」
あっけなかった。あっけなく私は黙りこんだ。
簡単なことだ、死ぬなんてことは。一言口をきかなかっただけで、簡単に銃口を受け入れることができる。