104 あの人の妹 彼に似ている
「……むかつく子ね」
シンヤは私の首筋に腕をまわすと、そのまま後ろから髪をひっつかんで強く引いた。私は背筋をのけぞらせた。引っぱられる髪の毛が痛くて、私は呻き声を洩らした。
「あんた、やっぱりあの時殺しとけば良かった。髪を切って脅しただけじゃ分かんなかったみたいね。あのままどこかに消えてしまえば殺されなくてもすんだのに、のこのこ戻ってくるんだもの。記憶をなくしたぁ? 今時そんな奴がいるの?」
彼は私に顔を近付けて、静かに言った。
笑っていた。
「あんた見てるとむかつくのよ。川嶋モトキにそっくりなんだもの」
そうして右の手を上げると、拳銃を私の耳元によせた。銃身の冷たさが、グリップを握るシンヤの手の冷たさが、首筋を襲う嫌悪になって、背中に冷たいものがはった。
「あんたを殺すわ」
私はひざを立てておくことができないほど、銃身の冷たさに戦慄していた。どうにかかすかなプライドを総動員して震えだけは押さえたが、それだけでは足りなかった。
死ぬことももちろん怖かった。だけどそれだけならば、あるいは開き直ることも可能だったろう。違う、シンヤに殺されることが怖かった。
まるで生きていることを確かめるかのように、私は懸命に言葉をつないでいた。滑稽なほど必死だった。
「……見せしめにしなくていいの?」
「するわよ。ただ、トワにだけは知られたくないのよ。トワと私がここを出た後に、発見されるようにするわ」