103 命綱遠く
「言いなさい。誰に連絡をとった?」
空が白む。薄くなった闇のヴェールが、西へ流れていく。
シンヤの頬を薄く霧のはった空気が撫でていた。彼は私にぐいと近付いて、拳銃を腹に押しつけた。
私は息を飲んで、それからすぐに言った。声が震えないように自己制御するだけで力一杯だった。
「……防衛庁。あなたのことを話したわ」
「防衛庁の誰?」
「津久田さんという、兄の元同僚。昨日カーチェイスをした相手よ。彼はすべて知っている。あなたが兄のファイルを持っているということも、三年前に兄を殺したことも」
「まったく、手間をかけさせるわね。そいつも始末しなくちゃなんないじゃないの」
始末する、それをこうも簡単に言い放つ。キョウと同じ人種の人間だ。
もしかしたら、津久田が通信を突然切ったのを訝ってここに駆けつけてくれるかも知れない。そんな淡い期待が私の胸にはあった。
だがそれも、防衛庁からのアクセスだとすれば、ここまで来るのに三十分はゆうにかかる。くわえて、ネットカフェはすぐに分かっても、この場所はすぐには分からない。どうにかして知らせる必要があった。
遠くでパトカーのサイレンが聞こえる。命綱がかなり遠いところにあるのを知らされているようなそんな不安を誘う。
朝日の影が東の空にさす。今、何時だろうか。通信を切ってからどれほど経ったのだろうか。
トワ、私達を捜してくれている?
「何……で、手に入れてすぐにファイルを組織に渡さなかったの、シンヤ?」
「あんたには関係ないことよ」
「おじさんに怒られなかった?」